私から見た彼
──私が天音のことを幼馴染としてじゃなくて、異性として好きになり始めたのはいつのことか、今でもはっきりと思い出せる。
高校受験の時には私と天音はもう距離が離れていて、クラス替えで別々にもなっていた。
会いに行こうにも私の周りには常に人が囲っている。塾に通って本格的に受験勉強を始めてからは余計に会いに行ける機会もなくなっていく。
──きっともう忘れられてる。
そう思うと胸がキュッと苦しくなる。なんて寂しいことなんだろう。きっと高校で離れ離れになったらいよいよ天音とは・・・・。
泣き出しそうになりながら、勉強を終えて塾の通路を歩く。
「天音お前本気なんだな」
天音、と名前が聞こえてきて私は咄嗟に塾の自習室の前で止まる。あの男子は確か神代くんだっけ。
「ああ、俺もお前や藤野さんと同じ高校に行く」
「そうは言っても模試はずっと合格圏外なんだろ?」
「まだ、分からんぞ」
驚きに思わず声を上げそうになるのを必死にこらえて二人の会話を聞く。
「藤野さん一筋だなお前は、話せてすらいないんだろ?」
「そうだよ、だから追いかけて機会を掴むんだろ」
「まあ、俺は応援してるよ」
「仮そめでも応援してくれてるのはお前だけだありがたい」
私は自分の胸に手を当てて湧き上がる思いをこらえる。
今すぐ天音の傍に行って言いたいことが沢山ある。でもそれは通路を歩いてきた人達に声をかけられて遮られた。
懐かしい夢から覚めて、私は瞼を開ける。目の前にはまだ寝ている彼が居た。そっか、私たちはもうただの幼馴染じゃないんだ。
「おはよう天音」
私がそう声を掛けると珍しく彼は重たそうに瞼を開けて微笑んだ。
「おはよう」
これはちょっと予想外だ。いつもはこれでも起きないのに今日はうとうとしながらもすぐに起きて挨拶を返してきた。
朝日に照らされた彼の微笑みと起き切れてないのが分かる声で発せられる挨拶は今までで一番破壊力が高い。
私はしばらく動けなかったけど、彼はまたすぐ寝てしまったのでホッとしてから布団から出る。
それから彼が寝ている間に朝食を作る。いつも途中で起きてきてなかなか一人だけで作り切る機会に恵まれないけど、今日の彼はいつもより長く眠っているようだった。
味噌汁を混ぜながら、彼の方を見る。どこか安心したようなあどけない寝顔は正直ずっと見てられる。
出来上がった朝食を皿に盛りつけてテーブルの上に並べている最中に彼は起き上がってきた。
「おはよう涼香ってもう朝食出来てる」
「おはよう、天音でもここまで寝てたの初めてじゃない?」
「そうだな」
彼はそのままテーブルの椅子に座って料理を眺める。
「もう、朝食の枠は涼香に譲ろうかな」
「どうして?」
ふっと彼はこちらを向いて笑みをこぼす。
「なんかこうやって作ってもらった方が嬉しいんだ、涼香が最初言った通りだね」
それを聞いて私は思わず飛び上がりそうになる。これからは私が一人で作った料理を出して美味しいと言ってもらえるのだ。
これは作り甲斐がある。今度本屋に行ったらお料理の本を買って彼が居ない時に練習しよう。
「嬉しくてたまらないって顔してるな」
そう言う彼はどこか意地悪そうな顔をしていた。
「昨夜の仕返し?」
「そ、顔に書いてある」
私はあまり顔に出ないタイプだと自認しているけどそうでもないのかな。でも、今が特別嬉しいのは確かで、顔にも出てしまうのも無理はない。
食卓に付きご飯を食べる。もう慣れ親しんだ朝食の時間なのにいつもよりも特別に感じる。
その時──彼のスマホが着信を知らせていた。
「綾香さんからだ」
「お母さんが何の用だろう」
お互い頭に疑問符を浮かべながら、彼は通話に出た──。




