咲き誇る花火と結ばれる二人の小指
夜景スポットで半ば告白に近いことをしてからも彼女の態度は一向に変わることはなかった。
それが俺への配慮なのか、それとも何とも思ってないからなのかは分からない。なんにしても変によそよそしくされたりするよりいつもの態度で接してくれる方が一緒に居る上ではありがたい。
「期末試験も近いね」
「ああ、そうだなそれが終われば晴れて夏休みか」
「今年で楽しい夏休みは最後だよ? 来年は受験生なんだし」
「受験か・・・・」
「まあ、お互い直近の試験頑張ろう。はい私のアイスおすそ分け」
ソファーに並んで座っている彼女はこちらに寄ってきてアイスを口元に差し出す。
こういうことを今の彼女はなんの躊躇もなく出来てしまう、幼馴染だからから始まり、今では当たり前の日常動作のようなノリでやってくる。
悪い気はしないし、むしろ嬉しいばかりなのだが。
「甘いな」
「ストロベリーだからね」
うちの高校の期末試験で一位を取るのは彼女にとっても俺のサポートをしながらでも余裕といった難易度ではなく、テスト期間中は彼女も自分の勉強に専念していた。
俺も俺で彼女のサポートなしでも自力で上がれるところまで上がってみようと勉強を重ねる。
「なんか、急に人が変わったみたいだよな」
朝の時間、教室で勉強していると前の席の神代がそう声を掛けてきた。
「似合わないかね」
「んや、客観的に見て今の天音は意外と様になっている気がするぞ」
「高校受験の時の天音を思い出すな、懐かしいよ」
神代はそうこぼして、自分の勉強に戻った。
──彼女の背中を追いかけて影響を受けながら勉強してる点においては確かにあの頃の俺と同じだ。
中間のように付け焼き刃でいきなり最上位帯に食い込むことは不可能だった。
結果は三十五位、それでも平均より高く上出来ではある。
彼女は当たり前のように一位に君臨している。周囲は手放しに才能と片付けてしまう。
ただ、彼女の本気の努力量を知っていればそんな評価は出来ないのだ。
期末試験が終わり、うだるような暑さと共に夏休みに入る。これといって友達と遊んだりする予定もない俺だけど、彼女の方はそうではないらしく、最初の数日は夜までマンションに帰ってこない時期が続いた。
この分だと街の花火も一人で見ることになりそうだ──そう諦めていた。
「じゃあ行ってくるね」
浴衣を着た彼女が玄関から出ていくところを俺は見送る。
「ああ、屋台のお土産期待してるぞ」
「天音も外に出ればいいのに」
「俺は・・・・いいよ。楽しんで来いよ」
彼女は頷いて玄関を出ていった。
仕方のないこと、少しばかり期待はしていたけど今の彼女には俺以外にも優先しなきゃいけない付き合いがある。
リビングに戻り、気分転換に最近買った参考書の問題を解く。
彼女が勉強に夢中になる気持ちが少し分かる気がした。こうしてペンを走らせている間は目の前の問題のこと以外考えないで済むから。
花火が上がる時間まで三十分を切った頃、俺は参考書を閉じてマンションのベランダに出る。
眼下に広がる街はここからでも賑わっているのが見て取れた。
マンションの前の道にも浴衣を着た男女が通り過ぎて行ったりする。やがて花火が上がる時間になった。
(去年も一人で見たっけ・・・・)
ヒューっと音を立てて一発目が上がり俺の目に夜空に咲く花が映る──はずだった。
「えい」
そういたずらめいた声が聞こえて目の前が暗転する。そのいたずらの犯人はすぐに分かった。
「涼香、友達に一緒に見ようって誘われたんじゃないのか?」
「抜け出して来ちゃった後で大変だ」
彼女は俺の目を覆った手を離して、隣に立つ。
花火はどんどん打ち上げられていて、真っ暗な空はたちまち華やかになる。
「どうして」
「天音が見送る時の顔思い出したら、居ても立っても居られなかったから」
「別にこういう瞬間だからとか狙って言うわけじゃないんだけどさ」
静かに花火から視線を逸らし、彼女は俺の方を真っ直ぐ見つめる。
「うん、言って」
「距離が離れる前から涼香に惹かれてた自分と似た境遇なのに俺よりもはるかに出来る人間で憧れてもいた」
「それは、買い被りだよ」
「事実途中から涼香はどんどん遠くに行った。必死に追いかけたけど届かなかった」
「でも、今は違う。そうでしょう?」
花火は上がり続けその間、彼女の白い肌が微かに赤らんでいる顔が照らされる。目を細め、口元を緩めて彼女は俺に問いかけた。
「そう、だね。だからこそこれからはただの幼馴染としてじゃなくて一歩進んだ関係になりたい」
「進んだ関係って?」
「その、恋人・・・・とか」
瞬間──時間の流れが急激に遅くなる、花火の音が遥か遠くから聞こえて来るような錯覚、彼女の顔がはっきりとしてそれ以外の余分なものが意識から外れる。
「じゃあ」
目の前に彼女が小指を立てる。
「指切り?」
「もう勝手に離れたことにしないでね」
「そっちこそ」
俺は差し出された小指に自分の小指を結んだ。
ドンっと大きな花火が夜空に大輪を咲かす。
「綺麗だね」
「ああ、本当に」
花火はその後もしばらく怒涛の勢いで上がり続けて終わった。
その間もずっと俺たちの結んだ小指が離れることはなかった──。




