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7・ぐーたらな脚本家と

「奇妙な女だな」


 ガリガリと頭をかくソポさん。


「ありがとうございます」

「褒めちゃいねぇよ」


 ゴミ屋敷かと思うぐらいに乱雑に重なった本の山。脱ぎ散らかされた服。長椅子の上にある抜け殻のような毛布。

 ーーアパートの管理人さんが『ずっと家にいるわよ』と言うわけだ。

 この人、家から出ていない。自宅警備員をしている。

 とは言え…演劇界に衝撃を与えたと言われるぐらいの脚本家にんげんだ。働かずとも脚本使用料で、それなりに生活ができてしまう。そのおかげできっと目の前にある長椅子を中心にぐーたらな生活をしていたのだろう。


「で、聞いてほしい話ってなんだ?」

「ちょっと、その前に失礼します」


 私はゴミ山をかき分けて、窓を開ける。するとスゥと新鮮な空気が入り込む。

 いつから部屋を閉め切っていたのだろうか。食べ物が腐っていないだけ、ましだと思うか。


「お前、変わっているって言われないか?」

「まだ言われていません」

()()な、くくっ」


 唯一見える口元に手を当て笑う、ソポさん。

 声も最初の頃ような濁った声ではなく、すこしハスキーな声ぐらいになっている。

 もしかして、さっきのって私に圧をかけてるんじゃなくて、人と喋ってなかったからなんじゃ…案外、悪い人じゃない?


「こほん、あらためてまして、私は劇場ブランシェの娘、アリシア・ユゴーです」

「劇場ブランシェ…ひさしいなぁ」

「覚えててくださって嬉しいです」

「あまり噂は聞かなかったが潰れずに生き残っていたのか。商売上手には見えなかったからな」


 父よ…ぐーたらな人にも見透かされていますよ。


「えぇ、おっしゃる通りといいますか。正直、我が劇場はの経営はあまりよくありません。それで私は娘として、この状態を打破したいと考えています」

「ほう…」

「それでいま、ある()()()()企画を考えているのですが、そのためにソポ・グレースさん、あなたのお力を借りたいんです」

「くくっ。それで()()と。そこまで言い切るのなら自信があるんだろう?」

「えぇ。ですが、いまから私が話すことは他言無用として、まずこの契約書にサインしてください」


 1枚の紙をテーブルの上に置く。

 これは前世で言う、秘密保持契約だ。前世の記憶から思いついたこと。


「依頼に関して知った秘密を第三者に開示しないとする契約です」


 私が考えている企画は、もしかしたら他の人も思いついているかもしれないけれど、いまのところ聞いたことはない。この企画はなるべく斬新さやインパクトも大切にしたいのだ。


「話す前に契約書とは…おもしろい」

「えぇ。それ以外の縛りはございません。ソポさんには痛くも痒くもない話だと思いますが、もし破った際には違約金が発生します」

「言っている通りの内容だな。いいだろう」


 さらさらと、契約書に名前を書いたソポさん。


「さてと、準備は整いました。私は我が劇場主催の主演オーディションを行おうと考えています」

「へぇ。主演オーディションな。それでオレのところに来ているということは、脚本を書き下ろしてほしいってことか? それと、オレの知名度なまえも使いたいのだろう」


 さすがに話が早い。


「はい。ですが、完全新作の書き下ろしで、お名前もとなると、名高きソポさんのギャラはお高くなるでしょう?」

「もちろんだ。まさか、その主演オーディションという企画だけで交渉しようなんて思っていないだろう? いまのところ、そこまで変わった内容とは言えないぞ」

「オーディションは観客の前で行う公開方式で考えています」


 現代でいう、公開オーディションである。ちなみに視聴者投票のような観客投票はいまのところ考えていない。貴族の組織票とかで正しい評価が行われない懸念と、投票管理できるような体制と資金が我が家にはないからだ。


「ほほぅ。観客を入れて興行として行う、と言うことか」


 ニヤリと笑ったソポさん。

 話題性と収益の一石二鳥が狙える、現代のオーディション番組という公開オーディションを参考にさせてもらう予定だ。


「はい。そして主演となる脚本はぜひソポさんに書き下ろしてほしいのですが、我が劇場独自の作品にしたいので、私の考えている案もとに考えてほしいんです」

「なに? お前の案を?」


 ソポさんのすこし苛立ちを含むような声にギクっとなった。

 もしソポさんが怒っているのなら当然だ。なんの実績もない素人の考えた内容を脚本にしろなんて、プロの脚本家に失礼な話なのは十分に理解している。


「神話をもとに”オイディーン物語”という名作を生み出したソポさんなら、私の考えたつたない話を名作に変えてくれると信じております」

「そう簡単に名作なんぞ生まれないぞ」

「わかっています。なので、私の考えてきた物語の案を聞いてソポさんがつまらないと判断するなら、すっぱり諦めてます。ソポさんに新作の執筆をお願いしたいと考えています。ただし、その際にはギャラのお支払いは分割で…お願いします…」


 語尾が小さくなったのは、我が家の懐事情のせいである。


「くっ…ははっ。このオレに恐れ知らずの提案をする、その度胸を買った。聞いてやろう。お前の案を」


 なんにせよ、私の行動力を舐めないでほしい。推しのために北から南まで横断した女である。そのための休暇取得だって死に物狂いで取りました。


「ありがとうございます! 後悔はさせません!」


 たぶん。


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