8・相場より高い
「ふん、いいだろう。お前の話にのってやる」
私の考えた物語の案を聞いたソポさんはそう言って、ペンを持った。さっそく執筆に入るのかなと、眺めていたらポイっと私を部屋から追い出した。
「あれ?」
「他人がいると集中できん」
「え、ちょっ、ま、え?」
「できたら連絡する」
バタンとしまるドア。
芸術家は変わり者って聞くけれど、どうやら本当ようです。
最初はソファの背にどっかり寄っかかっていたソポさんは気付けば前のめりになっていた。ソポさんの性格を考えたら、さすが無反応なんてことはないだろうとは思っていたけど、予想ななめ以上の食いつきだった気がする。
「さてと」
立て直し計画の第一段階はクリアした。
次は公開オーディションの告知と宣伝、そしてソポさんが執筆が終われば執筆代も必要になる。そのあとはオーディションの審査員だって必要だし、そもそもオーディションの合格特典となる公演のために役者も雇わなきゃいけない。
先立つものが多すぎて、手元にあった資金がどんどん減っていく。というか、足らないんじゃ…?
「かと言って、マーカスから追加で融資してもらう? いや、これ以上の借りは増やしたくないし…」
考えに考えた私は商会に行くことにした。
たしかに経営素人の話を聞いてくれなかったかもしれない。だけど「オイディーン物語」という代表作をもつソポさんが私が考えた計画に参加しているというのはプラスに動くはず。
それにマーカスのおかげで父の骨董品を売らずとも担保にして資金を得ることができることもわかった。商会なら本業だろうし、同じように融資してくれるだろう。
マーカス的には商売敵のようなものだから「行くな」なんて言ったのだろうけど、私には関係ない。それに正当な評価をしれくれる可能性もあるし、チャレンジしない手はない。
そう思っていたのに。
「大変申し上げにくいのですが、ご希望額の融資は難しいですね」
「へ?」
私の話を受け付けてくれた窓口のイルドさんはメガネのブリッジを動かすと、どこか困ったように笑った。
「たしかにこちらの骨董品はアンティークになります」
「なら!」
「ですが、アリシア様がおっしゃっておりました金額にはなりません」
伝えた金額はマーカスから融資されたに近しい金額だった。意地悪なマーカスではあるけれど、これは仕事として対応したように見えていた。だから融資額は不当な取り扱いをしていないーー正当な額だと思っていた。
なのに、これはどういうことなの。
「そ、それは…つまり」
「そうですね。少なからず、相場より高い評価になっています」
・・・相場より高いって、どういうこと!?
「アリシア様がおっしゃっていた金額ーー融資額を出した方は、あなたのことをよほど信じているんでしょうね。個人的としては大変面白い事業計画だと思いました」
イルドさんの言葉に動揺した。
マーカスが私を信じるている、ということがうまく理解できなかった。
融資してくれた時、私はマーカスに計画を話していない。だって、この計画が思いついたのは数日前のことだから。
「ただ商会としては融資が難しいとしか言えず…申し訳ありません。希望額は難しいですが、融資ができないというお話ではありません。上にかけ合ってみてみますね」
「あ、ありがとうございます」
「気を落とさないでください。新規の方は厳しい審査されてしまうためお伝えさせていただきました」
私の顔に動揺が前面に出ていたに違いない。
イルドさんは優しくふっと笑った。
「アリシア様。個人的には面白いと言ったのはお世辞ではありません。期待してとは言えませんが…審査結果が出ましたらあらためてご連絡しますね」
「よろしくお願いいたします!」
私は深々と頭を下げて、商会から出た。
「本当にいったい、どういうことなのよ…マーカス」
ぶつぶつと口に出さずにはいられない。
頭の中がぐるぐるとイルドさんの言葉とマーカスの言葉が回って、パンクしそうだった。




