3・先立つものは
「これも、これも、売りましょう!」
ペタペタと【売却】と書かれた紙を劇場に飾っている美術品に次々と貼っていく。
美術品に興味がない私でも分かる、細部まで丁寧に装飾された壺などの陶器。細かい刺繍が施された織物。
つまり、これは高く売れると言うこと。
「あ、あぁ…アリシア。そんなぁー」
父は悲痛な表情を浮かべている。
それもそのはず、父の趣味は美術品収集。それも特に骨董品、アンティークが好き。我が家の経営が良かった時には問題ない。
お客様のお迎えする劇場として、大事な装いに必要なもので、その役割をちゃんと担っていたから。
が、いまは経営の立て直しが必要な状況。
すぐすぐ潰れてしまうような状態ではないとは言え、マーカスからの支援なく立て直すためには”お金”が必要なのだ。それもまとまったお金が。
「経営が厳しいって言うのに、いつまでも持っていてもなんの足しにもならないのだから」
「でもでも。あー! それは何度も足を運んで、やっと譲ってもらった100年越えの歴史ある花瓶んん」
「花瓶。だからシンプルなデザインなのね」
100年越えならアンティークになるはず。目を引いたのも納得。シンプルなデザインながら釉薬で淡く青緑色の発色がされていて存在感がある。
花瓶ということだったけれど、当面、劇場公演予定もなかったから花を差さされず、劇場の隅にある棚にポツンと飾ってあったからわからなかった。
それなら、残して置くべき? いやでも、先立つものーーお金は欲しいし。
「あらあら、パパとアリシアちゃんは本当に仲が良いわねぇ」
母が頬に手を当てながら、ニコニコと笑って近づいてきた。
「ママー! アリシアがきびしいよぉ」
「あらあら、パパったら甘えたさんね。アリシアちゃんもパパをいじめちゃダメよー」
大きくなった子供の前でも新婚気分のラブラブな甘々やりとりをする我が両親。
仲が良い素敵な両親だと思うけれど、経営面で考えると頭が痛くなる。
「はぁ…」
それなりに劇場運営がうまくいっていた貯蓄もあるとはいえ、こんなお互いのことが1番な両親のゆる〜い経営でなりたち、経営を続けてこれてきたのが奇跡のように思う。
「それにアリシアちゃん。お家の整理整頓も大切だけど、パパに話さないといけないことがあるんじゃないかしらー?」
「!?」
「僕に話すこと・・・?」
そう、我が家では母が一番強い。
「あーソウデシタネ」
「うぇ!? なになに。どうしたんだい?」
父は青ざめた顔を私に近づける。
「ち、ちか」
「僕は頼りないかもしれないけど、それでもアリシアのパパだ。遠慮せず話してごらん」
突然、劇場にある金目のものを整理しはじめた娘をどう思ったのかなんて、予想は簡単だ。
「言っとくけど、借金とか作ってきてないわよ?」
「そ、そっかー!! あー良かった!!! って、じゃあ、大切な話って?」
父はまったく見当がつかないみたいだった。
それもそのはずかもしれない。2人にとってマーカスは評判が良く、我が子当然の出来た好青年だと思っているのだから。
「その、実はマーカスとの婚約を解消する、しようかって話になっていてーー」
「なんだってー!?」
私とマーカスとの婚約の話をしたのは、お互いの父親同士だった。
もちろん、母も同席している話ではあったらしいけれど主導したのは父だと聞いている。
だから母も『パパにもちゃんと話すのよ!』と言ったのだ。
「ど、どどどうしたんだい!? やっぱり我が家が傾いているから…すまない、アリシア。お前たちは好き合っている同士なのに」
それに父も母と同じく、私とマーカスが”好き合っている”と言う、誤認をしている。
婚約解消するのは自分たちのせいだと思ってしまうぐらいに。
「違うわよ。マーカスとは、その…」
本当は仲が良くなくて、マーカスに嫌われていると言ってしまおうかな。
両親が自分たちのせいだと責任を感じさせてしまうぐらいなら。
「実は…んぐっ」
私の口は物理的に塞がれた。
「あぁ、ちょうどよかった。このことは俺から直接話そうと思っていたんです」
突然現れた男はいつだってそう。
私の思いなんてなかったことにしようとする。
「マーカスくん!」
「マーカスくん♡」




