25・十人十色な
「”おほほほ。この私を欺こうなんて、100年早いですわよ!”」
同じ台詞、キャラクター設定であっても、表現方法は演じる役者によって十人十色で様々だ。
スポットライトが落ちる舞台上で華やかで美しい衣装を身にまとい、扇子を持つ。
見た目は同じであっても、小道具と渡された扇子をどう使うのか、舞台の上でどう動くのかで、印象が変わる。
強気だったり、快活だったり、同じキャラクターをみんな演じているはずなのに違って見えるのだから面白い。
だけど、私は”面白い”と観客気分のままでいることはできない。
私はこのオーディションの発起人であり、最終決断する人間なのだから。
「この娘の歌唱力がすごく高かったわ」
「この子は参加者の中で抜き出たものはなかったかもしれないけど、歌唱、演技ともレベルが高くてバランスがいいと思ったよ」
演技審査を終え、舞台上ではジムノさんの演奏会の公演時間になっている。
この間にオーディションの合格者を決めなくてはいけない。
「オレがイメージする人物像に合っていたのは、こいつだな」
審査員として参加してくれたマリィさん、父、ソポさんの意見が楽屋の中で交差する。
「あら、そうなのね。私はこの娘が台本からイメージした人物像だったわ」
「うんうん。優劣つけがたいぐらい、どの子もよかったから悩ましいね」
「ジムノの意見はどうなっている?」
ソポさんの言葉に、私はあわててジムノさんから預かっていた音楽審査のコメントを読み上げる。
「ーー…番の子がすごく面白かった。メロディラインをきっちりと守ったかと思えば、大胆に動いて人物を表現していた。度胸もあってボク的には二重丸つけちゃうよ…って」
審査側の視点もコメントも、個性が出る。
「なるほどな」
「ジムノの意見もわかるけれど…難しいわね」
激論というほど荒々しい言葉合戦はないものの、熱くお互いに意見を出し合い、おおよそ2人の参加者に絞られた。
「さてと。最後に決めるのはアリシア、お前の役割だよ」
いつもぽやぽやとしている父が真剣なまなざしで私を射抜く。
胸の中にある心臓がどくんと跳ねる。
ーー私のひとこと。決定で、ひとりの人間の人生を変える。
頭では理解していたつもりだったけれど、いざ、目の前に突きつけられると途端に水の上に立っているみたいな気持ちになる。
「えっと」
いま最終候補として上がっているのは、2番のオーロラと、6番のミリセントだ。
2番のオーロラは演技経験がない子だ。それでも、まっすぐな伸びる純真な歌声と思わず応援したくなるような誠実な演技をしていた。イメージするキャラクターではないけれど、可能性を感じさせる子。
そして6番のミリセントは暗く悲しい歌を披露して観客と審査員ともに強いインパクトを残し。彼女は歌のインパクトだけでなく、会場にいた観客が聞き入るほどの実力も兼ね備えていた。演技は独学で勉強をしている。一番、台本でイメージしていたキャラクターを演じていた。
素直に考えれば、6番のミリセントを選ぶべきだと思う。
だけど、彼女は貴族出身。オーロラは平民で、今回の新たな主役を発掘するという点で考えれば、平民出身のオーロラを選んだ方がシンデレラストーリーで魅力的に見える。
どうしよう。
身分は関係なくって思っていたのに。目に入ってしまった情報は消せない。
前世で見ていたオーディション番組やデビュー記事で「なんでこの子が選ばれたんだろう」「大人の事情かな」なんて面白おかしく考えたことはあった。
でもその内側に入って、最終決断をする責任の重さを知る。
「もうすこし…考えさせてください」
私は悪あがきをする。
そろそろジムノさんの演奏時間が終わってしまうのに。
「うん、いいよ」
「あぁ」
「そうね」
だけど、そんな私をその場にいるみんなが優しく受け入れてくれた。
「ありがとう、ございます」
私は楽屋を出て、劇場の裏口から外に出る。
外の空気が吸いたかった。だれの手も加えられることのない、空が見たくなった。




