26・劇場裏で
「すぅ…」
深く呼吸をすると、酸素不足だったのかと思うほどに透き通っていく視界。
その反面、責任のプレッシャーもよく見えてくる。
「はぁー……どうしよう…」
ずるずると座り込む。
前世みたいに、画面越しにアレコレ好き放題に言える視聴者側ではない。
私の視界はあっという間に土色の地面と変わる。
「ん?」
視界の端で木影が動いたような?
風も吹いていないのに?
「はぁ。疲れてるのかな…」
公演中の劇場の裏側なんて人が近づくような場所じゃない。
最近、書類ばかり見ていたから前世の時みたいな疲れ目かな。現世の私、まだ若いのに。
「相変わらず、鈍くさいな」
とりあえず目をこするっていると、嫌というほど聞き覚えのある声が落ちてきて顔を上げずにはいられなかった。
「まっマーカス!」
「ほんと…驚きすぎだろ」
大きなため息をついたマーカスは偉そうに腕を組んで立っていた。
「驚きすぎって、なんでここにいるのよ?」
「思考も鈍くさいな」
「なっ! 思考もって…!?」
運動とか色々鈍臭いところがあることは自覚ないわけじゃないけど、けど……いま、それ言う? マーカスは本当にデリカシーがない!
「はぁ。お前が招待したんだろうが。関係者として」
「あっ…んんっ。そうでしたね。そうじゃなくて…そう…”なんでこんな場所に”ということを聞いています」
「・・・敬語。あからさまに動揺している」
「もぉー! マーカスはデリカシーがない!」
ついに声に出てしまった。
なぜかマーカスは不思議そうに瞳をパチパチと瞬かせた。自覚なしなの!?
「そうか? そんなことより、俺と話し込んでていいのかよ」
「ゔっ…そのちょっと…考えるために…気分転換を…」
マーカスに図星を突かれてしまい、小声になってしまった。しかも馬鹿正直に理由まで言ってしまった。あぁ・・・私のバカあほマヌケー!!
「まったく。お前は昔から変わらないな…」
「へ? なに?」
「別になんでも。つーかさ、お前が思うままに決めればいいだろ」
「そんなことできてたら悩んでないってば! あ」
またしても思考がそのまま口に出てしまう。
マーカスはそんな私が面白かったらしく、ふっと口元をゆるめて笑った。
本当に顔だけはいい。心臓がどきりと驚いてしまうじゃないか。
「周りはいろいろ言うかもしれないけど、お前の、この企画に協力すると決めたお前の両親や審査員として参加している人も文句は言わないさ」
「でも」
それはわかっているつもりだ。
文句を言うとは思わないけれど、でもガッカリさせてしまうんじゃないかと不安が過ぎる。
「少なくとも俺は言うつもりはない」
「え?」
「アリシアがふさわしいと思って決めたのなら、信じる。当たり前だろ」
まっすぐに私を見るマーカスの言葉がうまく頭に入ってこない。
「あた、当たり前って」
「変なところで後ろ向きになっているみたいだが、たとえお前の計画が予想通りにならなかったとしても、それは融資を判断した俺の選択ミスであり、アリシアの責任だとは思わない」
「そうなら、うれしいな…」
「そうならじゃない。そうなんだ」
そう言い切るマーカス。じわじわと温かい気持ちが湧き上がる。
「周りの人間もアリシアの責任だとは思わないだろうよ」
「ありがとう。マーカス」
「べつに。俺はーー」
「うん。私、決める! ううん、決めた! みんなに伝えにいかなくちゃ!!」
早く、みんなに伝えるんだ。
観客を楽しんでもらうことも大切だけど、私を信じてくれている人に胸を張れる答えを出すことも大切なこと。見失っていた、大切なこと。
「じゃ!」
「あ、え、おう」
マーカスは急に立ち上がった私に驚いているみたいだったけど、フォローしている時間はない。
いまはオーディションの結果をみんなに伝えるのが先決だから。




