22・前夜
前触れなく現れるマーカスの行動は意味不明だ。
気持ちはもやもやするけれど、私にはマーカスに振り回されている時間はない。
「オーディション当日の進行表について確認なのですが…」
「当日行う演奏会の…」
「書類審査の合格者について…」
なぜなら、公開オーディションはついに明日、本番を迎える。
「それなのに、こんなにもやることが山積みなの!?!?」
すべて確認して進めていたけれど、頭の中では成立していも、実際、リハーサルしてみると間に合わなかったりして所々で小さな問題が発生していた。
「ゔうぅー…」
思わず頭を抱えたくなるほどに。
「なんとかなるよー」
「ジムノさん…」
ジムノさんにはかなり頼らせてもらっている。
この公開オーディション項目には、演技審査、歌唱審査を公開して行う。
舞台に興味がある人間なら「どの子が選ばれるんだろう」とか楽しめるだろうけど、この舞台オーディションに興味がなく、舞台にも関心がない「なんとなく話題だから」といった興味本位の人も楽しんでもらえる公演にしたいと考えていた。
そのため公開オーディションに加えて、劇場公演としても遜色ない音楽公演を披露する2部構成になっている。
ジムノさんは、舞台の音楽である劇伴を作ってもらった上に、当日は、演奏公演そして音楽審査もしてもらうのだ。
「でも…」
「気にするな。普段、悠々している人間だから、コキ使える時には使っとけ」
そしてソポさんも。ふわぁとあくびをしながら部屋に入ってきた。
「ソポひどいよぉ。ボクのあふれんばかりの気品で悠々してるようにみえるかもしれないけど、ちゃんと働いてるのにー」
ソポさんは絶対、自分の部屋から出ないマンだと思っていた。でもダメ元でお願いした審査員を『あぁ、わかった』とすんなり快諾もらえた時はびっくりして声が出てしまった。
ソポさんは当日の劇場集合に不安があるため、前日に劇場入りしてもらっている。
「お二人とも、お忙しいのに本当にありがとうございます。無理しないでくださいね」
「お二人ともなんて、アリシアちゃんは優しい子だよねぇ」
よしよしとジムノさんに頭を撫でられる。
「アリシアちゃんもすっごく頑張っているから、無理しないでねぇ」
「あ、ありがとうございます」
「ジムノ。そう思うならアリシアの邪魔をしないで休ませろ」
「ソポはわかってないなー。こういう息抜きが必要なんだよぉ。ねー?」
ジムノさんは、はぁと大きな息を吐いた。
「アリシアも、邪魔なら邪魔だとハッキリ伝えた方がいいぞ」
「そんなことは…」
「ソポぉ、言い方に遠慮がないよー」
「いまさら、お前に遠慮もクソもあるか」
二人のやりとりは場所が変わっても、変わらない様子になんだかほっとしてしまう。
肩の力が抜けて、ふふっと笑い声が出てしまった。
「ジムノさんも、ソポさんもありがとうございます」
「いーえ、どういたしましてぇ」
「オレは別に…仕事を全うしたいだけだ」
ジムノさんはふんわりと笑って、ソポさんはふんと鼻を鳴らした。
「量はありますが、微調整するだけなのでコツコツ1つずつ終わらせます」
ちょっと落ち着きを取り戻せば、それほど大きな修正が必要な問題はない。
「ね。息抜き、大事でしょー?」
「そうですね」
「まったく。ほどほどにするんだぞ。オレは先に寝かせてもらう」
ぽんと私の頭を触れたソポさん。
「はい。あ、朝、起こしにいきますね」
「あぁ。よろしく頼むぞ」
ソポさんは笑って、部屋を出て行った。
ジムノさんはソポさんの姿が見えなくなるとクスクスと声をこぼす。
「ほら、ボクたちは頼られてばかりじゃないし、頼っているから。明日はお互い頑張ろうねぇ」
「はい!」
ついに明日、公開オーディションが開幕する。




