21・理由も違う
突然現れたくせに、うるさいってなによ。
と言い返したいところだけど、それよりもマーカスにドス黒い影のようなもの見えるのが気になる。
なんとなく野生の生存本能が”近づくな危険”と言っている。
「あ…そう。じゃあ、私はこれで」
そろそろと後ろに下がってマーカスと距離を取りつつ、劇場の中に入る寸前、腕を振り下ろされて引き止められる。
「待てよ」
私は仕方がなく目の前にある腕の主、マーカスを見上げる。
「な、なに」
「さっきまでいたヤツは商会の人間だろ。お前、商会に行ったのか」
商会の人間、イルドさんのことだよね。
こ、こわ。どこから見てたのよー!?
「そ、そうだけど」
「俺の融資が足りなかったのか」
「まっまぁ、そういうことになるのかな」
「はぁ!?」
マーカスの発した声には苛立ちが含まれていた。
私の体は勝手にビクリと震えてしまった。
「な、なによ。商売人として金銭管理ができてないとか、無茶な計画だとか言うつもり!?」
悔しいけど、マーカスの言う通り、経営の初心者として無謀な計画だとは思うけど、いろんな人の助けを借りながらここまで進めてきた。だから、ここで潰されるわけにはいかない。
震えそうになる体を必死に止めながら、マーカスに向き合う。
「アリシア…そういう、わけじゃない」
マーカスは眉を下げて、まるで困ったようなような表情を浮かべた。
声もさっきまでの威圧的な雰囲気から一転して、小さくなっていた。
「そういうわけじゃないなら、なによ…」
そんな風な態度をされてしまうと、私だって困る。
マーカスの行動はいつだって理解不能だ。
「俺になんで言わなかったんだ」
「え?」
「追加融資の話」
なんで、と聞かれても。
予想もしなかった質問に一瞬、思考停止してしまう。
「それは…」
正直、マーカスに頼りたくない気持ちが大きかった。
でも感情だけで決めたわけでもない。前世、なにかのニュース番組で、取引先は分散させた方がいいと見たことがあった。
「1つのところに依存するより、分散させた方がいいって聞いたことあるし…」
「それはいつ、どこで、誰に、言われたんだ」
急に距離を詰めてきたマーカス。
「ひぇっ。お、覚えていないわよ。だれかが話していたのをたまたま聞いたのっ」
私はマーカスの気迫に負け、悲鳴のように叫んでいた
マーカスがここにいることも、融資のことを聞いてきているのも、わけがわからなかった。
「アリシア…」
それをどう思ったのか、マーカスは力のない声で私の名前を呼んだ。
マーカスの反応は気になったけど、またマーカスの強い瞳に負けてしまいそうで、私は視線をそらすことで逃げた。
「あらー? マーカスくん、いらっしゃい」
「おや。2人も、こんなところ立ってなにをしているんだい?」
張り詰めた空気をぶち壊してくれたのは、我が両親だった。
両親の陽気さに困ることもあるけれど、救われることも多い。ほっと息がこぼれた。
「ちょっと、話してただけ」
「…えぇ。近くに来たので、どうなのかなってアリシアとすこし、話していたんです」
もっと何か言うのではないかと思ったけど、マーカスはそう静かに、いつものように好青年の顔で両親の言葉を返していた。
「それじゃあ、俺はこれで失礼します」
いつもだったら居座るのに、今日は珍しくマーカスは両親に誘われる前に断りの挨拶をしていた。
「まぁ、ゆっくりしていってもいいのよ?」
「ありがとうございます。このあと、予定があるのですみません」
マーカスはそう両親に話すと、くるりと私に背を向けて帰って行った。
「マーカスくん、忙しい中、足を運ぶなんて…」
「パパの若い頃を思い出すわ♡」
「覚えてくれていたんだね、ママ♡」
両親はとびっきり仲が良い夫婦だと思っている。誰がどう見ても。
「はいはい。いちゃつくなら劇場の中でお願いします」
マーカスの行動は両親とは違うし、理由も違う。
だって、マーカスは私のことを嫌っているのだから。




