20・準備も佳境!
いろんな人の協力を得ながらも慌ただしい時間が過ぎ、オーディション準備も佳境に入った。
「街で噂になっている劇場公演ご存知?」
「たしか新作舞台の主演オーディションを公開するとか…」
「マリィ・フリンジさんが参加されるそうだぞ」
「あの美貌を近くで見られるならチケットを買ってもいいな」
最近、街で行き交う人たちが公開オーディションについて噂していることを耳にするようになった。
ソポさんが参加してくれる時点でも話題になっていたけど、観客側というより演劇関係者側だった。それがマリィさんが審査員として参加することになったことが観客側の注目度が一気に上がった。
本当にマリィさんには感謝しかない。
「まぁ! 宮廷音楽家のジムノ様が演奏で参加されるのねっ」
そして忘れがちだったジムノさんの本業、宮廷音楽家ということと。
「あの春風のような穏やかな微笑み」
「演奏されているお姿はまるで神聖な絵画のようで」
「実はわたくし、ジムノ様の姿絵を…」
頬を染めながら語り合う乙女たち。
うん。ジムノさんのスペックの高さを感じる。
そうだよね。宮廷音楽家として演奏してる姿はたしかに・・・神々しかった。
すこし前に、ジムノさんに招待してもらって、宮廷音楽団の演奏会に観に行った。一緒にいる時のジムノさんはマイペースでのほほんとしているから、どれだけそのギャップにびっくりしたことか。
でも…わかるよーわかるっ!
異世界の紳士淑女の皆さま、カッコいいもカワイイも全世界共通で推したくなっちゃうよね!
カッコいいもカワイイと言うのは顔だけのことじゃない。
胸をときめかせる、声でも、お芝居でも、仕草でも、好きだと思えるところを発見した時に生まれる感情が推しの第一歩。そこからズブズブと底無し沼の推し活にハマっていくんだよね。
「アリシア様? なにか分かりにくいところなどございましたか?」
ハッとする。
話の途中だと言うのに耳に入ってきた話し声がつい気になって、意識がそれていた。せっかく忙しい中、来てくれたと言うのに、私はなんと失礼なことを…社会人失格だ。反省。
「いえ…イルドさんの説明はわかりやすかったです」
イルドさんは商会に融資相談したあの日に言ってくれた言葉通り、助力してくれたようだった。おかげで希望額には届かないものの融資してもらえることになったのだ。
「それならよかったです。融資の審査が通ってよかったです。分からないことがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね」
イルドさんはメガネのブリッジを動かして、ふっと笑った。
以前、商会の窓口で私を担当してくれた時も思ったけど、イルドさんって本当に優しいな。癒される。
「はい! 本当にありがとうございました!」
ひと通り融資についての説明をうけて、今後の予定や報告などの確認した。
「それでは今日はありがとうございました」
さすがに今日はソポさんの部屋で打ち合わせはせず、劇場の一室で打ち合わせをしていた。
劇場の入り口までお見送りをする。
「なにか困ったことがありましたら、お気軽にご相談してくださいね」
「そ、そんな」
「いいんです。本当に楽しみにしているんですよ。個人的に」
「あっありがとうございます」
そうしてイルドさんの背中が小さくなるまで目で追う。
人の波の中に消えたのを確認して、気合をいれる。
「よーし! 融資の目処が立ったことだし、これで会場の準備やスタッフさんも雇える。もうひと踏ん張り頑張るぞー! いっ!?」
握った両手を振り上げた瞬間、ゴッと何かにぶつかった。
「ぐぅっ!」
そして、うめき声も同時に頭上が降ってきた。
じんわり痛む手をさわりながら振り返ると、そこにはアゴに手を添えたマーカスがいつの間にか近くに立っていた。
「え? なに…って、マーカス!? なんで!?!?」
「・・・うるさい」




