第百三話 洗脳
神崎碧は震えながら、しかし拳を握り締近づいてくる。
「冬至…… 私は許されないことをしました」
ずっと泣いていたのか、目は赤く腫れている。
「アリスを手中に収めるため、……あなたを騙して、傷つけてきました」
涙を流しながら、一生懸命に言葉にしている。
「許してほしいなんて事は言いません。すぐにでも目の前から姿を消します。ですけど、罪滅ぼしはさせてください」
………。
「父は…… 道満は、私が止めます」
しっかりと俺を見据え、そう答えた。
「いつから、俺のことを騙してたんだ?」
その問いかけに、彼女は俯きながら答える。
「3年前、中学2年生の頃、あなたと初めて話した時からずっとです。」
「そうか、なら俺は5年前からずっと碧のこと騙し続けていたことがある。……実は、アリスは召喚の儀式で呼んだわけじゃないから、正式には俺の召喚獣ではないんだ」
「…え?」
思った答えからかけ離れた返答が返ってきたためか、きょとんとした顔をする碧。
あの日、アリスは俺を助けるために、文字通り空から飛んできた。
召喚士が召喚の儀式を行い呼び出す事で、召喚士と召喚獣の間で相互承諾があったとされ、正式に契約されたとみなされる。
アリスは自身の力で強引に俺の元に現れたため契約したとは言えない。
「厳密に言えば召喚獣と契約していない俺は召喚士ではない、親の権力を使って無理やり召喚士育成学校に通っているんだ。 ……まぁ、つまり、騙していたのは碧だけじゃなかったって事だ」
誰しも隠し事の一つや二つある。なんなら、俺は生徒数百人単位に対し一年以上騙し続けている。罪の重さで言えば俺の方が何倍も重い。
「……許すと言うつもりですか?」
「許すも許さないもない、それだけのことだろ。そもそも碧は道満の野郎にに命令されてただけだ。だから、もういい、これでこの話は終わりだ」
「で、ですが……」
「なら、飯を奢ってくれ、それでチャラにしようぜ」
「…………はい!」
碧は涙を流しながら笑みを浮かべ、そう答えた。
「よし、じぁあ、道満が戻ってくる前にさっさと帰るか」
ふと後ろに振り返った。屋敷は潜入した頃と比べ人が住めないほど、ひどく損傷していた。
そういえば、魔法の流れ弾が数発当たっていたような……。
深くは考えないようにしよう。すべて道満が招いた結果だ。全てあいつが悪い。
責任転嫁先について思考を巡らせめにると、視界の端に悪友が見えた。
一生懸命に手を振って何か叫んでいる。
なにやってんだあいつ? カブトムシでも見つけたのか?
「………」
「そんなに睨みつけてやるな、落ちてたエロ本でも見つけたんだろ」
「………そうですね。では、最後に一つ聞いても良いですか?」
いつの間にか、近くに移動していた碧に問いかけられる。
「ああ、なんだ」
碧は少しだけ笑みを浮かべ、口を開いた。
「本当にガキは馬鹿であつかいやすいよな」
「………⁉︎」
背筋が凍る感覚が走る。間違いなく碧の声だ。だが、間違いなく碧じゃない。
「おま……… ぐっ!」
そして腹部に強い衝撃を受け、思わず膝をつく。
視界がぐらつき、意識が朦朧としてくる。
クソっ、こいつ!
「道満!」
「”道満さん”だ。ちゃんと敬称をつけろ。クソガキが!」




