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7.エクスプローーージョン!!

 切りのいいところまで書こうとしたら、第1話の倍の長さになったので出発前の買い物をバッサリ切ってしまいました。

 ショコラ4袋で貴族をやりすごし、どうにかブルグンドへたどり着いた。

 アゼリーナさんに魔石の使い方を聞きたい。まずはギルドへ。小さな街だ、ゲートから真っすぐ3分も歩けば冒険者ギルドに到着する。


「こんにちはフェレーナさん。アゼリーナさんいますか?」

「あら、久しぶりに表れたと思ったら堂々と浮気?」

「ええ~..そんなわけないですヨ?オレは一途ですよ。今日だってここに真っ先に現れたし」

 あ~、こういうやり取りは苦手だ。


「ほら、オレ、アゼリーナさんの研究を手伝うことになったし。彼女にも合わないといけないんです。はい、これ、フェレーナさんにお土産」

 フェレーナさんお気に入りの赤ワインだ。陶器に詰め替えてある。


「ん。アナタの想いは確かに受け取ったわ。アゼリーナならリューズライト伯爵と出かけたわよ」


 オレとフェレーナさんのやり取りに周囲の男たちが何やら不穏な反応を示す。チッと舌打ちしたやつもいる。


「伯爵ってさっき街を出た黒い馬車かな?」

「ええ、それね。リューズライト家の馬車だわ。伯爵ご一行はこの先の遺跡へ向かったわよ。アゼリーナはその手伝いね。時々駆り出されてるけど、どうせあいつ、ここにいても何やってるか分からないし」

「そっか。ありがとうございます」

「あんな魔女より、冒険者たちの憧れの的、受付のお姉さんの方がお勧めよ」


 最後にフェレーナさんは、小さく指さして小声で教えてくれた。

「スターグ達ね、いい噂聞かないから用心した方がいいかもよ」


 さっき舌打ちしたやつだ。オレを睨んでる。こりゃ相当性格が悪そうだ。オレは振り返りながら脳内録画した。期待通りの雑魚面だ。顔は覚え..られないが録画した。そいつらは5人組だった。


 お前らの頭上に名札をつけてやったぜ。オレにしか見えないがな。この名前表示機能は、相手の本名を知らなくとも雑魚A、B、Cみたな適当な名前を付けることができる。今回はオレ1人で来たから、ついに定番イベントのフラグが立ったな。まあ、美人受付嬢と親しげにしていればこうなって当然ではある。


 -リューズライト伯爵家の馬車-


 アゼリーナがショコラをひょいひょいつまんで、一息ついてから話す。

「エド君は、私も、、知らない呪文を使う。そして、魔法の威力はけっこう強力。おまけに、こんな美味しいものを、もう一つ」

「こら、少しは遠慮せんか。これは妾への献上品じゃぞ」


 リューズライト伯爵。

「アゼリーナも知らない呪文か。おまけにこのショコラ。やはりフリントロックゆかりの者であろうな。実にうまい。まとまった数が手に入れば、これは使える。もう2つもらうぞ」


「伯父上まで!これはもう仕舞っておく。手出し無用じゃ!次はいつ手に入るか分からんのだぞ」


「ブルグンドの冒険者なのであろう。ならば今度、ブルグンド邸へ招待するがよい。まずはショコラの取引でも持ち掛けて縁をつなごうではないか。ジゼルマインよ、早まって手を出すなよ」


 -犬肉亭-


 オレがこちらへ戻る予定は伝えてあったので、3人組が待っていてくれた。

「よー、エド、調子はどうだ。今日戻って来るって話だったから、朝一にギルドで4人でやるのによさそうな依頼を取ってきたぜ」

「おっ、そりゃ楽しみだ。出発する前に服と革鎧を買いたいんだが、構わないか?手早く済ます」


 中古服と革鎧を買った。緊急用の特級ポーションも買った。残金は金貨119枚だったのが、51枚になった。

 着替えて革鎧も装備したし、これで見た目は完璧にこの世界の冒険者だ。靴だけは日本から持ってきたやつだが。



 街を出て討伐依頼の目的地である山を目指す。

 今回討伐するのは、前回ザック達が調査したのとは別の、もっと小さいゴブリンの巣だ。前回調査した巣は、オレ達4人じゃ手に負えないらしい。ちなみにオレのMPは34になった。


 最初の目的地は街から北東へ半日くらい歩いた山の麓だ。そこで夜を明かしてから山へ入り、ゴブリンの巣を襲撃する。今日知ったのだが、巨木の森がある方角が街から見て北だった。

 そろそろ車を出したくてうずうずしている。「ウマ無し馬車」が走っているのを見ても、現地の人にはその意味なんて分らんだろうし。それでも一回くらいは普通の冒険者と同じことをやってみたかったので今回は歩く。


 巨木の森の横を通る道を進み、道が川と交差するところまで来た。ここから道を外れるので全員の荷物をオレのアイテムボックスから出す。途中までしか運ばないのは、ここから先は万が一にでもオレが死ぬ可能性が無くは無いからだ。


「この川にはうまい魚がいるんだがなあ。槍や弓で狙えないこともないが..」

 歩いて腹が減ったし、夕食にちょうどいい時間だ。

「美味いのか。それなら、オレの新魔法の威力を見せようじゃないか」

 みんなの頭上に?が浮かぶが、構わずオレは例の呪文を唱えた。


 「エクスプローーージョン!!」


 続けて本当の呪文を唱えた。

 川の上流へ向かって白く輝く光点がす~っと飛んで行き、水面に少しだけ沈むと大爆発が起きた。周囲にザーッと雨が降る。残念ながら、キノコ雲はできない。


「うひょ~~。すげーなあ、エドの新魔法か」

「こ、これは、乱用できないな」

「ぬう..さすがエド。Dランクで使える奴は珍しいぞ」

 アドルがちょっと悔しそうだ。彼は魔力量が少なく、本職の魔法使いになるのはあきらめている。


 水面に浮きあがった大小の魚が流れてくるのを待ち構えて、オレが日本から持ってきたタモ網で拾い集める。でかいのは鮭の近縁種のようだ。

 焚火の点火はアドルがやった。さすが、ファイヤーボール一発で焚火に炎が上がる。


「おい、あれ」

 ロンセルが川の方を指さす。見ると川から魚のような人型の生き物が上がってくる。両手の指は長い爪のようになっていて、身長2mはある。猫背だ。中身が生体の巨大ロボ初号機のような姿勢と言えばイメージしやすいと思う。水から上がると、ちょっとヨタヨタした。


「うげっ、川サハギンじゃねーか。さっきの爆発に巻き込まれたか」

 3人が即座に戦闘態勢をとる。どうやら敵らしい。

 オレもストーンバレットを詠唱開始。敵は素早そうに見えるので、命中率優先で少し拡散させる。


「ファフィヤーボール!」

 アドルが火の玉を飛ばしたが、買ったばかりの高性能な杖をもってしても効果が薄い。サハギンに命中した火の玉は、本来のように激しい発熱を起こす前に散ってしまい、広い範囲で炎が上がる。薄くなったせいで、あまり温度が上がらないようだ。


「やはり、サハギンに火は効かないか」

 そうは言うものの、サハギンも全く平気そうではない。

 続けてザックとアドルが弓を放つが1本は躱された。


 サハギンは先頭のロンセルめがけて跳躍した。ストーンバレット発射。命中したが、これも効果が薄い。跳躍するのを見て焦ったオレは、ストーンバレットを拡散させすぎたのだ。サハギンの全身を小石が叩き、血まみれにしたが、まだ倒れない。跳躍中に石弾を食らったサハギンは、着地でふらつくと、そのまま前に一回転して体勢を立て直した。見事な前転受け身だ。

 飛びついてくるサハギンを回避したロンセルは、それを追って槍を突き刺した。鱗のない脇腹に、刃を水平にして肋骨の間を通すように刺している。さらに1歩前進で突き込む。人間なら横から肺と心臓が串刺しになっているところだ。

 やったか?

 ロンセルはまだ手を緩めず、突き刺したまま槍を短く持って、サハギンに足払いをかけて前に引き倒した。そのまま槍を完全に貫通させて地面まで突き通した。さらに頭を踏みつけて、暴れるサハギンが完全に沈黙するまで抑え込んだ。

 ロンセルカッコいい。


 抑え込んでから沈黙するまでずいぶん長く感じた。30秒くらいだろうか。

 人間なら数秒で動かなくなったはずだ。

 心臓を刺してはいないのか、それとも心臓を刺しても数秒では死なないのか?

 肺はあるのだろうか?


 ロンセルが一仕事終えた顔になった。

「うん、倒した。装備を新調していてよかった。前の安物の革鎧だったら、足を抉られていたかもしれん」

 今回、ロンセルの装備は要所が金属板で補強された革鎧になっていた。その脛にはサハギンの爪跡が残っている。盾役になることが多いロンセルは、ブラックボアの分け前の大半を使って鎧を新調したようだ。


 サハギンの鱗革は火属性魔法に耐性のある防具の素材になる。思わぬ収穫だ。とりあえずアイテムボックスに入れておく。

 熱に強いだけの大トカゲの革と違い、サハギンの鱗革は着弾した火属性魔法が高熱を発する前に散らす効果がある。


「こいつは爆発に巻き込まれて弱ってたみたいだけど、もし、そうじゃなかったらサハギンって強いのか?」

「強いな。オレ達が積極的に狩る相手じゃない。勝てなくはないが怪我人が出るだろう」


 安全のため焚火の場所を川岸から離したら晩飯の続きだ。焚火で串に刺した魚の丸焼きも冒険者として1回やってみたかったのだ。やろうと思えば日本でもできるが、今オレが冒険者であることに意味があるんだ。


 焼きあがるのを待ちながら雑談する。

「今日、貴族が乗った馬車とすれ違ったんだが、すれ違う時の礼儀作法とかあるのかな?」


 ザックが答える。

「そんなもん無いぞ。ブルグンドは自治都市だ。周辺の土地も、どの国にも属してない。とはいえ、実際のところは力関係次第だな」

「そりゃそうか。1歩外に出れば無法の荒野だもんな」


 実際は草原だけども。「無法の草原」じゃ締まらない。

 この中ではザックが一番権力嫌いのようだ。


 ロンセルの考えはこうだ。

「冒険者に礼儀作法など期待してはいないだろう。それでも、頭の一つも下げないと機嫌が悪くなる貴族はいるだろうな」


 オレの対応は正解だったらしい。膝をつくのはやりすぎでも、頭くらいは下げた方がいいといったところか。


 魚が焼きあがった。焼き魚に塩コショウも大好評だ。

「なるほど、塩で香辛料をかさ増しするのか。塩も安くは無いが」

 ロンセルの解釈はなるほどだ。この世界では香辛料がとても高価だから。


 そこからは川に沿って山の麓まで来た。空はまだ赤いが、日が沈み、地表はだいぶ暗くなってきた。オレ達は麓から少し登ったところにある、垂直に切り立つ岩壁を背にして野営することにした。これで背後を警戒せずに済む。そこから南を向いて川を見下ろすと、斜め左、2~3キロの場所に一群の建築物のようなものが、薄暗い中にかろうじて見える。


「ありゃ何だ?この辺りに街なんてないって聞いたぞ」


「あれは先史文明の遺跡と言われているな。冒険者に人気の探索場所の一つだ。この地域には、似たような遺跡が散在していて、この地にブルグンドの街ができた理由の一つでもある」

この中じゃアドルが一番こういうのに詳しそうだ。


 近くに湧き水が溜まって出来た池がある。荷物を下してから、その池で交代で水浴びすることになった。

「池って、またサハギンが出たりしないだろうな」

「大丈夫だ。奴らが住むには小さすぎるし、水が澄んでいる。隠れようがない場所にサハギンは住みつかない」


 革鎧を脱いで身軽になると、木の間を抜けて池へ向かった。マップ上に青い点が見える。先客か動物かな?

 日暮れ直後の薄明りの中にオレが見たものは、仰向けに池に浮かぶ女だった。意図せずして見てしまったのだ。水になびく長い髪と完璧に均整の取れた肢体にオレはつい見とれてしまった。別の青い点が接近するのに気が付かなかったのも仕方がない。

 背後から膝の裏を蹴られ、一瞬で地面に抑え込まれた。オレの首筋にナイフを押し当てているのは、革鎧を着た女だ。


「ご、誤解だ。オレも水浴びに来ただけだ。刃物をどけてくれ」

「それをどう証明する?」

「証明など出来ない。だが、オレがあんたより弱いのは分かっただろう。それで十分じゃないか?そうだ、離してくれたら甘いものをやる」

「.....いいだろう。信用したわけじゃないが、必要ならいつでも骨の1、2本折ってやれるからな」


 ここじゃ砂糖すら貴重だ。甘いものに釣られた女はオレを解放した。そのまま順番を待って水浴びすることができた。


「ん、約束を果たしてもらおうか」

「わかった。荷物はあっちに置いてある。ロンセル、アドル、ザックが一緒だが、知ってるか?」

「なんだよ、それならそうと早く言えばいいだろ」

 そうだった。ブルグンドの冒険者はお互いに顔見知りであることが多いのだ。


 彼女達は、魔法使い2人に槍と剣士の4人組で、Dランク冒険者だ。剣士の女に押し倒され、ではなく、組み倒されて分かったが、女といえど近接戦闘職はオレが腕力で勝てる相手じゃない。

 池で見た、水に浮かぶ女は耳長さんだった。水浴びが終わって出てきた本物のエルフを間近で見たオレは、現実離れした美しさに息をのみ目が離せなくなってしまった。そうやって呆けていると、女剣士に頭をはたかれた。

「イテッ。仕方ないだろ。本物は初めて見たんだよ。あんまり綺麗なんで心臓が止まるかと思った」

 エルフの長い耳がぴくっと動いた。


「あきれた。口説くでもなく、素でそういうこと言うのね」


 その後、オレ達のキャンプに来た彼女達に、ショコラという名のピーナッツチョコを配り、見事懐柔に成功した。

「どうだ、これなら文句ないだろ?」

「ん~~~っ!はまひ。これは、もっと」

 手を差し出す女剣士。

 ショコラを口にしたエルフはフリーズしたように見えて、完全に固まってはいない。遠い目をしてチョコを口に含んだまま微妙に左右に揺れている。

「んん~~~..。何ということでしょう。このような物がこの世にあるなんて」

 オレは催促されるまでもなく、エルフさんに追加でチョコを差し出す。

 女剣士がジト目でオレを見るがそんなの気にしない。


 短い交流が終わると彼女らは自分たちのキャンプに戻った。ショコラの出処は口止めしたが、さらにショコラを要求された。思わぬ収穫に彼女らはホクホクだ。



 空が真っ暗になり、星がよく見える時間になると、下に見える遺跡に明かりが灯っているのに気が付いた。人がいるのだろうか。

 一瞬、骨まで震えるような振動が体を突き抜けた。それと同時に遺跡から光の輪が広がるのが見えた。巨大な青白い多重円に、ところどころ赤やオレンジの光が混じる複雑な模様が見える。


「おーーっ!なんだあれ?!もしかして魔法陣か!!」


 オレはこの異世界に来て以来、最高に興奮していた。光の環が大きくなり、数秒で安定するとゆっくり回りだした。何が起こるのかと期待して見ていたが、何か起きた様子はなく、その幻想的なイベントはすぐに終わってしまった。その後もしばらく、呆然と同じ方向を見つめ続けていた。気が付くと涙が流れていた。


「&%&((’&%%」」

「#”‘{*@@」


「え、何て言ったんだ?」


「#”‘{*@@」


 ザックとアドルが何を言っているのか分からない。まるで外国語のようだ。って、当たり前だろ、彼らは日本人じゃないし。


 ....翻訳されてない!?

 ちょっとまて!!


 言葉が通じない。脳内投影も消えている。オレは頭が真っ白になった。


「起動!、再起動!、ステータスオープン!!、ニューロリンク、超次元量子リンク、ログイン、サインイン、再起動!、再起動、再起動..」


 思いつく限りの単語を唱えた。それが有効だったのかどうかは分からないが、すぐにまたMPゲージやマップが見えるようになった。謎翻訳も再び機能し始めた。


  アドルがオレの様子がおかしいことに気がついた。

「エド、大丈夫か?」

「あ、ああ、あんなのは初めて見た。ちょっと感動しすぎたようだ」

「あれは伯爵が遺跡で実験をやってるらしい。ここ数年は、毎年何回か目撃されて噂になっている。しかし、すごいな。さっきの体がきしむような振動に、巨大魔法陣だ。とんでもない魔力量だったはずだ。オレも始めて見たぞ」


「フェレーナさんに、リューズライト伯爵があっちの方へ向かったとは聞いたが..」

「その伯爵だ」

「何者なんだ?」

「隣国の辺境伯で、魔道具開発で有名だ。機械好きの伯爵っていえばリューズライト伯のことだな。ときどきブルグンドにも来るぞ」

「それで、その遺跡って何なんだ?」

「魔法陣が展開された場所は、時間要塞と呼ばれているな。それが何なのかは知らん」


 時間要塞とすごい魔法陣...。

 これは、あまりにも気になる。くっころさんご一行とは会いたくないけど。


 寝るまでにはまだ時間がある。すでにゴブリンの活動圏内に入っているので、4人とも夜半まで起きていて、寝る時間になったら2人交代で見張りに立つ。ゴブリンどもは夜活動するから、ゆっくり寝るわけにはいかない。巣を襲撃するのは明るくなってからだ。


 ゴブリンは夜目が効く、とはいえ、もともと大して視力は良くないらしい。もし夜間にたまたまこの付近へやってくる奴がいたとしても遠距離からの攻撃は無いはずだ。

 アイテムボックスを使って運んだ岩を地面に並べた。

「もしゴブリンどもの夜襲があったら、オレがここで砲台になる」

「砲台って、カタパルトか弩砲でも持ってきたのか?」

「いいや。この位置から魔法を撃つ。この位置から見た地形は覚えたから、敵の姿を視認できなくても気配だけで魔法を当てられると思う」


 そういう練習もしたのだ。

 定位置に立ち、その方角の風景写真を脳内投影で視界と重ね合わせれば、真っ暗でも地形が分かる。脳内マップの敵を示す点で敵の方角も分る。魔法を拡散させれば命中率を上げることもできる。もともとゴブリン程度の相手には威力がありすぎるので、2~3倍の大きさに拡散させても十分な殺傷力があるだろう。


 ザックがあきれたように言う。

「いったい何の達人だよ。これは突っ込んだら負けなのか?とりあえず、言わせてくれ。お前はいったい何者だぁ?あー、答えなくていいぞ。言わないと気が済まないだけだ」


 夜が更けるのを待つ合間に、オレはトランシーバーや双眼鏡の使い方を説明した。

「ちょっと待て。こんなもんを当たり前のように出すな。こんなの伯爵でも持ってないんじゃないか?もし戦争に使えば...ほんっとに、お前いったい何者だ?」


 4ロータータイプのドローンもあるが、音がうるさいので今回は使わないことにした。


 空を見上げると、山の木よりも少しだけ高い位置に月が上っていた。月は1つだけか。だが、地球の月と明らかに違うのは嬉しい。地球の月よりも少し大きく見え、幾何学模様が入っている。


 また遺跡から魔法陣が広がった。今度のは最初のやつより小さく、振動は来なかった。その魔法陣が出た直後に脳内投影が止まった。たぶんオレの顔は青ざめていたと思う。だが今度は数秒で脳内投影が戻った。まだ小さい魔法陣は出たままだが、今はマップも謎翻訳も機能している。その魔法陣も20~30秒で消えると、もうその夜は遺跡から光の輪が出ることは無かった。


 もし、脳内投影が止まったままになったら、地球へは帰れないんだろうな。そうなると、謎翻訳が止まってしまうのが一番困る。今回は短時間で戻ったし、大丈夫なのかもしれないが、大丈夫だと考える根拠が何もない。帰れなくなっても生きていけるよう準備しておく必要がある。


 最後の秘密、異世界人であることを打ち明けることにした。


「ほら、注意して見ると声と口の動きが合ってないだろ?」

「確かに...」

「おあ、マジか...」

「なるほど、エドと話すときの違和感はこれだったのか」

 ロンセルは相変わらず冷静だな。せっかくだから驚く顔を見たかった。


 それでも今更だ。これまでさんざん驚かせた後で、みんなそれほど驚きはしなかった。別の世界から来たというくだりは理解されなかったようだが。その後は、謎翻訳を一時的に切って現地の言葉を教えてもらったり、明日の襲撃の段取りについて話しながら夜が更けていった。

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