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6.働きたくないでござる

 1泊2日の長旅から帰ってきた。

 戦利品の魔石と金貨109枚を畳の上に出してニマニマしている。


 初めて手にした金製品が異世界産とは。500円玉よりちょっと大きくてぶ厚い。エッジが甘く、鋳造技術が低いことが分かる。そこがまた味があっていい。


 魔石は10cm程度の丸餅くらいの大きさで、黒曜石のようだ。中に極小の金粒が無数に入ったような光がある。ルーペで拡大しても、光の大きさが極小のままだ。これを握っていても地球側ではMPが回復しない。


 今度ギルドへ行ったら、魔石の使い方をアゼリーナさんに聞いてみよう。酔った受付お姉さんが煽っていたので名前を覚えた。魔女アゼリーナ、二つ名はアズバルフの災厄。どちらも本人に言ってはいけない。


 オレの呪文に興味は示しても、魔法の威力は特に気にしていなかった。やはり「魔女」なのだろうな。


 フェレーナさんの攻撃は効いた。次に会ったらどういう顔をしよう。他の窓口に行くわけにもいかないし。犬肉亭での宴会中に遠回しじゃない言い方で、他の窓口に浮気するなよ、と釘を刺されたのだ。酔ってはいたけど、目が本気だった。


 次の週末までにいろいろ準備しなければ。金貨は1枚売ってみるか。地金の重量分の値段しかつかないと思うけど。


 MPが増えて26になった。帰り道で試し撃ちを繰り返したおかげだ。経験値っぽいものは無く、ひたすら回数をこなす筋トレ方式らしい。25になった時点で魔法が1つ増えている。


 その名も、エクスプロージョン。


ファイヤーボール  5

エクスプロージョン 12 <--- コレ

ストーンバレット  5

ウォーターボール  5

ウインドカッター  5


 かの有名な、爆裂魔法の使い手には遠く及ばない。しょせん、消費MP12の威力だし。


 効果は熱と爆圧だけだ。弾穀無しで火薬だけ爆発させるのと同じ。利点としては、破片が発生しないので自分が巻き込まれる危険が少ない。


 それより、もっと使えそうな発見がある。

 ウインドカッターがなぜ縦向きや横向きに撃てるのか?


 答えは、魔法の発動をイメージで制御できるからだ。


 そうしたいとイメージさえすれば、ストーンバレットをもっと細かい多数の石にして広範囲に散弾のようにばらまくこともできる。ファイヤーボールをでかくて薄い火の玉にすることもできる。ウインドカッターをでかくすると草刈りが捗る。


 もちろん、広がれば薄くなって硬いものは壊せない。

 逆に収束させることもできる。ただ、あんまり圧縮は効かない。


 ストーンバレットを超高密度の、小さくて重いビー玉サイズのイメージで発射してもその通りにはならなかった。圧縮は杖無しだと隙間なく密集した石の集団になる。杖アリだと1個の大きめの石になる。まんま散弾とスラッグ弾の関係だ。


 同じ重さなら、ばらけない方が格段に貫通力が高い。これなら大猪を一撃必殺かもしれない。やはり貫通杖はいい買い物だった。この杖にカッコいい名前を付けなければならない。


 ウインドカッターもファイヤーボールも似たような感じで、少しばかり圧縮して貫通力を上げることができる。


 ウォーターボールは圧縮できなかった。もともと隙間はないし、水だし。拡散させるのは簡単で、めいっぱい拡散させたら霧になった。ハズレ魔法だと思っていたが、煙幕代わりに使える。


 密林通販からクロスボウと熊よけスプレーが届いた。

 ピーナッツチョコもさらに買い込んだ。ブランドものの高級チョコは投入する必要が無いと思っている。そんなのより日本製のミルクチョコの方がうまいし。そう思うのはオレだけか?


 硝安なる肥料とケロシン燃料を混ぜて名前がアホに近い爆薬を作った。良い子は真似しないだろう。真似してもどうってことないのだが。これだけでは使えないが、なんとかなりそうだ。花火も大量に買い込んだ。


 混ぜてはいけない2種類の洗剤を混ぜないで準備した。

 古い天体望遠鏡を引っ張り出した。


 脳内録画を外部出力する方法は無いようだ。オレの頭にはUSB端子もLANポートもついてないし。なので、次回は撮影にスマホも使うことにした。納屋の扉がゲート機能を停止しても夢落ちで終わらせないために証拠を残しておきたいのだ。データは自宅とネット上の両方にバックアップを取って確実に残す。


 他には今のところ用途を思いつかない物もいろいろアイテムボックスに突っ込んだ。これで、でかいバッグが4個になった。何でも持ってる青狸みたいだ。


 巨木の森で拾った秘密の切り札も入れてるし。荷物が戦闘を想定したものに偏っているが、そこは男の子だし仕方ない。

 負傷にも備えた。「回復魔法さえあれば」と言わずに済めばいいが。


***


 働きたくないでござる。


 仕事が手につかない。てか、もう辞めたい。異世界は楽しすぎた。

 早くまた魔法をぶっ放したい。試し撃ちじゃなく実戦で。


 オレは仕事を辞めるべき理由を探した。考えるより前に気持ちとしては最初から結論は出ていたのだろう。一応穏便に辞められるよう準備を進めることにした。もちろん、その時が来たら「辞職願い」ではなく「辞職通知」を出す。


***


 夢でうなされて目が覚めた。オレは黒い巨大猪に牙で突き上げられ、内蔵をまき散らしながら地面に転がった。食われかけたところで目が覚めた。


 すぐまた寝なおしたが早朝に目が覚めた。また悪夢を見たわけではない。子供のころに日曜や夏休みの朝だけはパチッと目が覚めていたのと同じ気分だ。特に夏の朝は妙にどきどきする。


 -月曜の朝-


 起きたら素早く顔を洗って納屋へ走り、異世界への扉を開けた。こっちの世界も朝だ。まだ仕事に出かけるまで2時間はある。時間ギリギリまで扉の周辺を探索したり、魔法の試し撃ちをする。


 散歩していたら朝露に濡れた枯れ葉を踏んで、すてーんと滑って転んだ。盛り上がった枯れ葉の下には黒い球体が頭を出していた。つるつるだ。もし掘り出したら直径5m以上ありそうだ。その後の探索で扉を中心にこの球体が8個埋まっていることが分かった。


 石のように見えるが違うかもしれない。扉を開いている間はこいつの表面に薄ぼんやり光る文字のような模様が浮き上がる。きっと、超次元なんとか装置の類だろう。夢が広がりまくる。今度アゼリーナさんに似たような遺跡とか存在するのか聞いてみよう。


 扉から森の奥へ5分くらい歩いた位置には、ねじくれた巨木がある。雰囲気が恐ろしいので避けることにした。他にもねじくれた巨木はあるが、そいつの怖さは別格なのだ。


 -火曜の朝-


 双眼鏡で気色の悪い人型生物を発見した。ゴブリンにしか見えない。きっとゴブリンだ。まだお互い、戦闘距離まで接近したことはない。


 -水曜の朝-


 妙なキノコを見つけた。食えそうな色だが形は気色悪い。

 巨木の上には、結構な数のでかい鳥がいることに気が付いた。食いでがありそうだ。

 果物っぽい木の実も見つけた。手が届かない。酸っぱいに違いない。


 -木曜の朝-


 薄暗い森の中では珍しく、朝日が差し込む場所を見つけた。白い花を付けた高さ30cmくらいの草が群生している。10本ほどアイテムボックスに収納した。


 引き抜かずに収納できるか試したらできたのだ。細かい根まで切れることなく完全な状態で確保できた。この草の価値はともかく、アイテムボックスの有用な使い方を発見した。今度、薬草の採集依頼を受けてみよう。


 -金曜の朝-


 もう仕事に行く時間だ。足も気分も重くなってきた。

 ....たくないでござる。


 -土曜の朝-


 準備万端、オレはまた冒険の旅に出る。しかも今回は3連休だ。月曜は無理やり有休にした。


 これまでの探索で比較的安全な方角は把握できた。最短コースよりも少し左に迂回する。オレはまた電チャリを必死に漕いだ。赤い点が索敵範囲ぎりぎりに見えたりもしたが無事に道まで出た。今回はここから軽トラックを使う。前方に人が見えたらすぐに車から降りてアイテムボックスに入れるつもりだ。


 しまった、この時間は街から出る人が多い。すぐに馬車が見えた。オレは逆行するので、車を隠すつもりならほとんど歩くしかない。まあいいや。朝の空気が気持ちいいのでブルグンドまで歩こう。


 「よっ!」とお互い手を上げ、軽く挨拶して荷馬車とすれ違った。

 時折、背後から襲撃してくる角ウサギを華麗に躱しながら街を目指した。


 黒い箱馬車だ。


 馬車を引く2頭の黒馬が美しい。革鎧の護衛が乗った、3頭の馬に先導されている。後ろにも1頭、護衛が付いている。


 オレは護衛の3人に胡散臭いと思われているようだ。早く現地の服を買わねば。先頭の白馬に乗った女騎士(兵士かもしれん)は、ロングだと思われる薄い色の金髪を後ろにまとめた気が強そうな完璧美人だ。これ「くっころ」さんじゃね?


 すれ違う時の礼儀作法とかあるのだろうか?

 無礼打ちされたらたまらん。

 オレは道端によけて軽く頭を下げ、馬車が通り過ぎるのを待った。


 目の前を通過する馬車には、いかにも貴族な紋章が付いている。通り過ぎた後に馬車を見ると、中の人と目が合った。白い可憐なドレスの美少女だ。15歳くらいだろか。オレの心拍数が上る。


 ふう。無事にやり過ごしたな。

 いいものを見た余韻を楽しみつつ、ブルグンドを目指して歩き続けた。


 護衛が軽装で4人しかいないのは、この辺はまだ比較的安全だからか?大猪もああいう集団は襲わないのかな。馬を食っているところは想像しずらいし。この付近に貴族領は無いはず。目的地はどこだろうか。

 不意に馬の足音が止まった。後ろを振り向こうとしたら、それより先に声をかけられた。


「そこの男、止まれ!」


 あちゃ~。なんで?

 さっきは通り過ぎたじゃん。

 最後尾の馬がこちらへ走ってくる。


「あっ、怪しいものではございません」

「そんなことは言っていない。お前、ショコラというものを知っているか?」


 ぬう。またしてもショコラつながりか。ショコラの出処は口止めしてなかったしな。どこで手に入れたか聞かれたら困る。ここは知らんで通そう。こういう状況を想定した奥の手もあるし。使いたくはないが。


「『しょこーら』でございますか?聞いたこともございません」

「そうか。ふむ、ときにお前、仕立てのいい服を着ているな。それほど目の細かい布に、細かく揃った縫い目の服など見たことがない。もしよければ、その服を仕立てた店を教えてもらえぬだろうか?」


 いちおう質問形だが口調は命令だ。ショコラの出元はオレで間違いないと思ってるな。パブロックに売ったのはこの付近だったし、こんな怪しい男は他にいないだろうし。さて困った。


「私は最近、ロナークからこの地域に移ってきました。この服もロナークで買ったものです」


 また出た。考えてもいないウソが出たよ。だが、その設定は使える。


「それはまた遠くから来たのだな。名は何という?」

「エドウィン・フリントロックです。ブルグンドで冒険者登録をしたばかりです」

「ロナークのフリントロック....。しばし待たれよ」


 男は馬車まで戻って中の人と話をしている。

 はたして、オレは無事にブルグンドまでたどり着けるのか。


 今度は男と一緒にくっころさんまで来た。絶対逃がさない構えだな。

 くっころさんが言う。

「何か事情があるのは察する。どうだろう、何も聞かぬからショコラを少し譲ってもらえないだろうか?言い値で買おう」


 馬車から顔を出した白いドレスの少女が期待に満ちた目でこちらを見ている。


「ふう。分かりました。今お譲りできるのはこれだけです。お代は結構です。これは、あちらのお嬢様への献上品としてお納めいただけると恐悦至極」


 20個入りの小袋を3つ出した。少女の顔がぱあっと満開になる。

 くっころさんがニマリとして眼力を強める。

 オレはしぶしぶといった調子でさらに1袋追加した。

 くっころさんは小さくうなずいた。しかし、眼力を少し弱めながらもまだオレを見つめている。


 く~~っ、美人の刺さりそうな視線はご褒美です!


 オレは情けない顔を作って、無言で「勘弁してくだせえ」と言った。

 情けない顔は得意だ。テンパっていてもこれくらいできる。


 くっころさんが、ふっと笑って頷いた。


「すまぬな、恩に着る。この謝礼は冒険者ギルドを通して必ず。また会おう、フリントロックの者よ!」


 くっころさんと男は馬車の横まで戻り、少女がオレに微笑んでくれた、ように見えた。


 はあ~、今度こそやり過ごした。

 あれは「主人に忠誠を誓う自分」が大好きなタイプと見た。やっぱりくっころだな。また会いたくは無いが、もしまた会ったら望み通り「くっころ」言わせてやるからな。


 さっきの反応だとフリントロックも実在する名前か。おかげで助かった。

 しかし完全に足が付いてしまったぞ。この前売ったのはたった100個だし、あちこちにばらまいたとも思えない。おそらくギルド長とさっきの貴族は知り合いだ。


 そこから先はトラブルも無く進み、街の近くで猫耳さんたちと出くわした。この前とは髪の艶が違う。


「エドだにゃ!」「エドか、おかえり」「エド、おかえり」

「この髪を見た他の女どもがうるさくて大変だったにゃ。女の秘密は教えないにゃ」


 おう、こっちもか。下手したら第二のショコラになるな。てか、石鹸・シャンプーの類が貴族に流れたらもっと面倒くさそうだ。


「アレのことは今後も秘密にしてくれよ。絶対だぞ」


 彼女らはギルドの依頼を受けて、1泊2日の予定で出かけるところだった。オレは今回も犬肉亭に泊ることを伝えてから、ブルグンドの街へ入った。



 ***


 - ジゼルマインとくっころ -


「これを。

 ぜひともお嬢様に献上したいとのことでありました」


「うむ。でかした!」


 じい~~っ


「ん、どうしたのじゃ?下がってよいぞ」


「いっ、いえ、ジゼルマイン様、ここは、私が毒見をするべきかと!」


 くっころは毒見をするべき理由を滔々と述べた。

 そして最後に、その役目には自分こそがふさわしいと強調するのだった。


「お主の忠義には痛み入る。それだけに、万が一にでもこんなところで倒れて欲しくはない。ここは副長にでも頼むとするかの」


 .........。


「そんな顔をするな。

 あい、わかった!

 お主の忠義、しかと見届ける。

 エレジーナよ、このショコラを1つ、毒見してみせよ!」


「はっ!この命に代えて!!」


「ん~~っ!!これはあまりにも.....。

 中毒になる恐れが...。

 おそらく危険です。もう3つほど毒見をして様子を見るべきかと!」


 ジト目になるジゼルマイン。


「.....お主の忠義は重過ぎるのう。

 やはり次からは副長にでも頼むか」


 この世の終わりのような顔をするエレジーナを見て満足するジゼルマインであった。


(ショコラは使えるのう。ん~~~っ、たまらん。

 しかし、フリントロックとはまた、思わぬ僥倖じゃ)

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