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5.地球へ...

 すごい大物を仕留めた。


 街への帰り道、皆が大金が入ったらどうしたいかや、ブラックボアの肉はうまいという話題で盛り上がっていた。


「俺の分け前には肉も腹いっぱい食えるだけもらう」

「俺も!」

「にゃ!」

「あたいもだ」


 猫耳さんたちの尻尾の動きが軽い。触ってみたい。

 ロンセルが提案する。


「いちばんうまいところを少しと、中くらいのところを腹いっぱい食えるだけ取り分けてもらうか」


「「「「「 賛成!! 」」」」」」


 一番いいところばっかり食ったら売り上げが減るからな。この中ではロンセルが一番冷静だ。大剣使いだが脳筋じゃない。見た目もムキムキというほどでもないし、でかい奴、ではなく背が高くて優しいお兄さんといった雰囲気だ。


「高級肉だぜ」

「ブラックボアなんて食ったことないぞ」

「小さい肉片なら食ったことあるが、オーク肉よりうまかったな」

「黒ウサギも美味いが、こいつは今回はいいか。3匹丸ごと売っちまおう。それほど珍しいもんじゃないしね」


 角の生えた三羽の黒ウサギは足をしばって棒にぶら下げられている。その棒を斧持ちと弓持ちの猫耳2人が担いで歩く。こうしてぶら下げておけば街に着くころには血抜きが終わっているわけだ。


 ウサギの角をじっくり見せてもらった。人差し指くらいの長さで、上側がノコギリ刃になっている。刺すときにはあまり抵抗なく入り、抜くときにはざっくり切れる角度のノコギリ刃が根元まで付いている。

 この角を使った『ウサギ矢』は貫通力が高い。角2本が小銀貨1枚で売れるという。小さい魔石も出る。黒ウサギ一匹まるごとだと大銀貨1枚より少し高いくらいで、茶ウサギはもう少し安い。黒でも茶でもウサギにしてはでかい。地球にいる最大級のウサギくらいか。


「そうだ、囮になってくれたザックにもウサギの分け前を渡さないとね」

 大斧の姐さんがニヤつきながらザックを見る。

「そんなもん、いるかよ!」


 冒険者ギルドまで戻ってきた。


 アイテムボックスで大物を運んできたことを伝える必要があるが、受付周辺にいる無関係な連中に聞かれたくない。

「大丈夫だ。まずオレが受付のフェレーナに話してやる」


 *


「よしエド、手ぶらで行って、荷物を運んできたと言えば理解してくれる。いいか獲物じゃなく『荷物』だ」


 冒険者登録したときと同じ、受付のフェレーナさんのところでザックの指示通りに話したらそのまま解体場へ案内された。


「やあっぱり隠してたわね、すごい特技を」

 言いながら肩を接触させてくる。


「大丈夫よ。大容量アイテムボックス持ちは貴重だから、ギルドが守るわ。これからは私があなたの担当になるのでよろしくね。..浮気しちゃダメよ」


 最後のところだけ、腕を取って耳元で囁かれた。これはゾクッと来る。こんなのは初めてな上に、相手は文句なしの美人だ。おまけに胸が当たってる。


 もちろん分かってる。この人には最初から、からかわれてるし、変な誤解はしないぞ。しないったら、しないからな。


 だが...、お茶に誘うくらいなら問題ないのではなかろうか。


 -ギルドの解体場-


 すぐに猫耳3人組とアドル、ザック、ロンセルも来た。

 魔法猫が得意げにギルドの解体担当の親方みたいな、ハゲでごっついおっさんに戦闘の状況を説明している。


「大威力の魔法と重い武器で頭を集中攻撃か。まるで腕のいいBランクパーティーみたいな、きれいな仕留め方だな。お前達そんなに強かったか?」


「こっちの雌は昨日エドが1人で倒した。そして、この雄はエドが半分以上ダメージを入れた。わたしもストーンバレットを2発当てた。ほら、このへん」


「この、頭の見事な切れ込みはウインドカッターか?」

「そう。敵が迫ってもエドは動じずに詠唱を続けて、目前まで引き付けてから魔法を放った」


 引き付けてません。腰が引けて動けなかっただけです。


「マジかよ。とんでもなく肝が据わってるな。魔法ってな、ちょっと気が散ると発動しないって聞くぞ」


 おっさんがしげしげとオレを見る。ウソついてるみたいでいたたまれない。

 ロンセルと斧姐さんが付け加える。


「俺達がぶっ叩いた後はエドも避けると思っていた。引き付けてトドメを刺したのには驚いた」


「あの破壊力にはしびれたぜ。敵の間近でぶっ放したら強いのが良く分かった。次に大物を狩るときには、うまくエドまで誘導してやるからな」


「いやいや、違うから。いや違わない?敵は通さなくていいから。止められるなら止めて。オレ、遠距離攻撃大好きだから」


 親方が話に戻る。


「こいつは間違いなく高値が付く。こういう大物は商業ギルドの肉屋連中を呼び出して、この場でセリになる。お前らへの支払いは通常の3割増しだな」


 どう解体されるかを説明してもらった。値段が付くのは主に、肉、毛皮、骨、牙、魔石だ。査定額は、もし丸ごと売るのなら、手数料を引いて、オレが倒した雌が金貨108枚、今日倒した雄が金貨135枚だ。

 後ろ足をしばって、吊るされた状態の長さが5m以上ある巨大猪だ。自分たちで食う分の肉を取り分けてもらったところで大した違いはない。


 オレが仕留めた方の雌は、魔石と肉60Kgを残して他は売った。金貨88枚になった。魔石を何に使うかは知らないが、だって魔石だぞ。憧れていた異世界名物の1つだ。


 みんなで倒した方の分け前だが、通常なら大ダメージを入れた上にアイテムボックスで運搬したオレが半分持っていくことになるらしい。だが、7人の均等割りでいいということで押し切った。一人当たり19枚だ。端数が2枚出るが、それはオレに押し付けられた。


 1人で倒したやつとの合計で、109枚の金貨を手に入れた。


 大物が運び込まれたと聞きつけて暇なギルド職員達が見物に集まってきた。

 ブラックボアが新鮮なまま、丸ごと運び込まれたという情報が商業ギルドへ伝えられた。すぐさま肉の仕入れに肉商人達が飛んでくるだろう。貴重な高級肉の大物が綺麗に仕留められた上に、新鮮、丸ごとだ。滅多にあることじゃない。


 大物の解体に使う、ミスリルの解体刀を見せてもらった。薙刀の柄を切り詰めたような刃物だ。「こいつで俺様がぶっ叩けば、巨大猪のあばらも一発だ」とハゲオヤジが自慢する。


 ミスリルだよ!

 それは薄緑色に光る金属だった。日本へ持ち帰って元素分析したい。


 見物人の中にはギルドのお偉いさんと思われるおっさんも2~3人混じっていて、妙にニコニコ顔だ。商人への卸値が高額になるのは確定だからな。


 横に立ったおっさんに話しかけられた。

「君がエドウィンか。少し話を聞きたい」


 フェレーナさんがギルド長の部屋まで案内してくれた。お茶も出してくれる。お茶菓子まで出た。部屋の壁には鞘に入ったカッコイイ剣と、宝石が付いた杖、巨大な斧、刃が薄緑に光る槍が飾られている。


 ギルド長はカイゼル髭を生やした渋いオッサンだ。ナチュラルに目つきが鋭い。どうみても只者じゃない。間違いなく元高ランク冒険者だろう。


 異世界のお茶と菓子には興味があるが、落ちついて味わえそうもない。


「まずは礼を言う。あのブラックボアは今年一番の素晴らしい獲物だ。それが2頭も。君は間違いなく、このブルグンド・ギルド支部で今、一番期待されている新人だ。本題に入る前に、これを受け取ってほしい。酒と、こちらの箱は菓子だ」


 そう言ってギルド長は、菓子が入っているという細長い小箱の蓋をずらして中身を見せてくれた。布敷きの木箱に等間隔で綺麗に並べられたチョコが5個入っている。酒は陶器に入った葡萄酒だった。


「これは、ショコラといって大変珍しく貴重なものだ。値段は聞かないでくれたまえ。黒い菓子など始めて見るかもしれないが、甘くてうまいぞ」


 なんてこったい。オレが売ったやつだよ。パブロックさん、いったいいくらで売りつけたんだよ。

 ギルド長はさらに得意げに説明した。オレが言ったセリフほぼそのままに。


「これは手で長く持っていると体温で溶けてベタベタになるからな。これくらいの気温なら大丈夫だが、日光には当てるなよ」


 なんという因果応報。まるで悪事の証拠を突き付けられた気分だ。悪いことはできないねえなあ。してないけど。


「はあ、こ、こ、これは貴重なものを。甘いものは大好きです。こちらこそ何とお礼を言っていいやら」


「成体のブラックボア2頭が入るほどのアイテムボックス持ちは極めて貴重だ。おまけに雌の方は君1人で仕留めたんだってね。今日の戦闘での活躍も聞いたよ。君が入れたというダメージも検分した。Eランクに登録したばかりだが、話を聞く限り君の実力はBランク相当だ。低く見積もってもCランク上位だな」


 森の中での戦闘の流れを詳しく話した。ソロで大猪を狩る実力があるわけじゃなく、運が良かっただけだということを理解してもらうために。


「なるほど。それでも大容量アイテムボックス持ちであることを加味すればCランク相当だ。Eランクのままにはしておけない。Cランクまでなら、特別に依頼達成回数を無視して上げることができる。君を昇格させたい」


 ランクにはあまり興味がないことと、アイテムボックスを使う条件の仕事を受ける気はないことを話した。


「もし、情報洩れを心配しているのなら無用だ。関係者には罰則付きの守秘義務がある。もしその気があれば、一部の優良顧客からの依頼でアイテムボックスを使う割りのいい仕事を回せる。もちろん、依頼者にも罰則付きの守秘義務がある。依頼遂行中は必要に応じて護衛もつく」


 うへー、大ごとになってきたぞ。その優良顧客って、貴族とかだろ。関わりたくないぞ。

 結局、ギルドとしても強制はできないので、アイテムボックス関連の依頼は基本受けない条件で、Dランクに昇格することになった。


 一応、どの程度の実力かは測る必要があるので魔法を見せることになった。


 訓練場みたいな場所に来た。身内の6人以外にも、暇そうな見物人が10人以上いる。職員は、ギルド長、受付のフェレーナさん、解体場の親方、魔法担当職員。野次馬の冒険者もいる。魔法はどうしても隠したいわけじゃないので、見物人の入場制限はお願いしていない。それでも、できるだけ他人にオレの戦闘力を把握されるのは避けたい。


 ギルドの魔法関連を担当するのは、魔法使いっぽいローブを来た女性だ。黒髪ぱっつんのロングヘアーで美人だが、眠そうな目をしてクマがある。髪の毛跳ねてるし。


 彼女が気だるそうに話す。

 おまけに変な区切り方をする。


「ボアの、頭を切り裂いたのは、ウインドカッターよね。至近、距離だったことと、杖の性能を差し引いても、、けっこうな威力ね。...十分Cランク、だわ。杖を、見せてもらってもいいかな」


 杖を渡した。


「ふ~ん、Eランクにしては、上等ね。Dランクなら、、ちょっと頑張れば買える、程度かな。うん、返す。それじゃあ、あの標的に、一番得意な魔法を、撃ってみて」


 この場で杖は使わない。どれが得意とかは無いのだが、ウインドカッターを選択した。理由は背後の石壁が十分頑丈そうに見えたからだ。標的を切り裂いたあとは石壁に当たって消滅するだろう。そうすれば標的を切った後に残ったエネルギーは石壁で散ってしまい、本当の威力は分からない。


 詠唱開始。


「’&%##&()(’&&$”{‘@」


 自動詠唱が始まると、案の定、みんなが「えっ?」て顔をした。

 横向きで発射されたウインドカッターは、標的が取り付けられた丸太ごと上半分を切り落とした。そして期待通り石壁に当たって消滅した。傷跡は残ったが。


 魔法担当の眠そうな人は、目がしゃっきりして速足でオレの真横に来た。


「今の呪文は何?何なの?説明を要求する!」


 野次馬達は楽しそうに歓声を上げる。


「おお、すっげーな!!ボアの頭を切り裂いたってのはこれか」


 今回は説明を考えてきた。


「いや~、実は自分でも呪文の中身は理解してないんです。魔法を撃つ、と意識すると口が勝手に動くので。何かに憑りつかれてるのかなあ、あはははは」


 ウソは言っていない。質問攻めにされたが「それ以上分からん」で通した。その代わり、今後は時々、彼女の魔法研究に付き合うことになった。付き合うというか、研究材料だよね。


「わかった。もう一回、撃てる?今度は、あなたが、敵が迫っても、動じずに詠唱を続けて、魔法の、、、威力も落ちなかった、ていうところを見たいわ」


 フェレーナさんが手を上げた。


「敵役は私がやります」


 んん?何すんの?

 まあいいや。

 詠唱開始。


 その直後に彼女はオレの背後にすいっと寄ると、腰に手を回して背中に自分の胸を押しつけながら耳元で囁いた。女の子が言ってはいけない単語を。最後に、耳に息を吹きかけられた。


 「こしょこしょ、〇××&%$XXX。ふ~っ」


 ちょ、ちょっ、何てことを!?ゾクッとして心拍数が跳ねあがった。


 だが、その程度で自動詠唱は止まらない。止めようと意識しない限り止まらないのだ。たとえぶん殴られても、もしかしたら、気絶してすら詠唱は止まらず魔法が発動するのじゃなかろうか。


「おお~、すごいわねえ。このわたしの攻撃を受けて平然としてるなんて。しかも威力が落ちもしないなんて、ちょっと悔しいわね」

「いえ、ぜんぜん平気じゃなかったです。十分心乱れまくりでした。心臓がどきどき鳴ってます」


 あ、魔法担当の人、『ちっ』とか舌打ちしたぞ。また早口になったし。

「はいこれまで!今日はこれで終わり!この続きはあとで、わたしと、ね」


 ふう...ここは自由人ばかりか。



 ***



 -犬肉亭-


 名前の由来は、狼の肉料理が看板料理だからだ。女将が猫であることも関係あるのかもしれない。こっちの猫はコスプレみたいなやつじゃなく、もっと猫っぽい獣人だ。


 猫耳3人とオレ達4人はここにブラックボアの肉を持ち込んで、勝利の祝杯をあげている。誰かが酒(薄いエール)も買ってきた。場所と厨房を貸してもらうので、代金代わりにオレが持っている肉10kgを宿の猫女将に渡した。女将は大喜びだ。


 準備を女中のシェリーとシーランが手伝ってくれた。この時間は暇らしい。お子様のシーラン(12歳)にはとりあえず、飴玉を渡しておく。シーランが「ん~~っ!」と飴玉に反応する。


 そんな見つめないでも、もちろんシェリー(16歳)にもあげるから。君は大人だし、子ども扱いしない方がいいかと思ったんだよ。


 宴会が始まると、なぜかギルド受付のフェレーナさんと魔法担当の人も混ざっていた。


「当然よ。わたしはあなたの受付担当だもの」

「あなたは、わたしの研究、、パートナー、こんな美味しいものを食べる、、のは一緒よ」


 後半本音になってるぞ。

 エールに並べてギルド長からもらった酒を出した。木箱入りショコラは出さない。日本から持ってきた塩コショウも出す。


 まずはエールが入った木のコップを掲げて。

「エドっちのDランク昇格と、俺達の勝利を祝して---乾杯~~~!」


 エールまくない。期待通り、この世界の酒造技術は低いな。


「うお!この塩と香辛料が混ざったのを振りかけると、もともと美味いボア肉がもっとうまくなるぞ!」

「香辛料がこんなに..これもギルド長からもらったの?」


「ギルド長に気に入られたんだな。まあ当然か。あのボア2頭の利益は、ここのギルド支部全体としてもそれなりに大きいはずだし」


「こいつ、薄めてないぞ。チョビ髭オヤジめ、いい酒出しやがったな」


 ここで焼酎を出した。お徳用2リットル紙パック入りだ。紙製の容器と表面の模様を見て変な顔をされたが追求はされなかった。日本ではどっちかというと安酒扱いだが、冒険者が普段飲むような安酒と比べたらはるかに美味いと好評だ。


「かーっ!うめーっ!つえーっ。きついだけじゃなくて飲みやすいぞ」

「これ好き」

「うん、きついけど悪くない」

「こんなに強い酒は初めて飲んだぜ」

 ザックが焼酎をきゅーっと流し込む。


「その酒はオレの故郷では、オーガ殺しといわれてるんだ」

「おお、分かるぜ。こいつにぴったりの名前だな」


 皆に酔いが回ってきたところで、さらに赤ワインを4本出した。1本1000円くらいで評判のいいやつから選んだ。もし、この世界でガラス製品が超高価だったりすると悪目立ちするから、みんなに酔いが回るのを待ったのだ。


「美味しい..なに、この葡萄酒?すっごい高級品でしょ。ガラス瓶入だし。ほんとに、あんた一体何者?」

 オレ担当のフェレーナさんが絡み気味だ。

 魔法担当の人は、自分の酒をがっちり確保して、黙々と食っている。


 みんな葡萄酒は飲みなれているみたいで、4本はあっという間に空になった。空瓶は回収した。紙パックも空になっている分は回収した。


 飲みなれない焼酎でさっそく何人かへべれけだ。さらに酔わせるべく焼酎を出した。

 ここいらでシェリーとシーランに、ピーナッツチョコと飴玉を多めに渡して、つぶれた奴らの面倒を見るよう頼んでおく。2人はブツを即座にポケットに突っ込むと気持ちよく了承してくれた。


 ぐだぐだになってきたところを見届けると、『じゃ、行ってくる』とだけ言い残して宿を出た。

 オレの予定は伝えてあるし、たった数日だし。


 さよならは言わない。



 暗くなる前にあの森を抜けなくてはならない。




 - 地球へ... -




 街のゲートを出た。まだ日が高い。徒歩で4時間ちょっとの道のりだ。


 思わぬ大冒険だった。

 死にかけたりもしたが大収穫だ。

 さあ、地球へ帰るぞ。


 街から森までの前半は、空に向けて魔法を試し撃ちしながら歩いた。MPは4発で空になる。0になってから、20まで完全回復するのに3分半くらいだ。何度も試し撃ちできたおかげで、威力を上げる方法があることに気が付いた。


 中間地点までは何事もなく進んだ。


 道のりの後半は、MPを満タンにしておきたいのでカラ打ちはやめる。その代わり『虚空抜刀術』の練習をする。鉈をアイテムボックスから出すのと同時に切りつけるのだ。1万回くらい練習したら使い手を名乗ってもいいよな。


 森が近くなると、道の両側に広がる草原には背が高い草が多くなり、まばらに生える木の密度も上がってきた。オレの脳内マップに角ウサギと思われる点が増えてきて、若干緊張する。だが、オレに死角は無い。奴らが攻撃する前には、青い点が赤に変わるのだ。気が付かないふりをして、あえて攻撃を誘ってやることにした。


 ウサギ相手に魔法はオーバーキルだ。そもそも詠唱が間に合わない。

 虚空抜刀術の練習台にしてやる。


 結局、4回襲撃を受けたが、ウサギを斬ることはできなかった。角が生えているとはいえ、見た目はもふもふでデカかわいいのだ。別に迎撃する必要はない。背後の5m以上離れた位置からジャンプしてくるのがマップで丸分かりだ。ひらりと回避するのが楽しい。できれば捕まえてモフりたかったが、角が怖いので手は出さなかった。


 道は前方に見える森を迂回するため、ゆるく右にカーブしている。


 道が森の境界と平行になっているところまできた。そこからは、電チャリを出して必死に漕いだ。一番パワーの出る登坂モードだ。この巨木の森は、木の間隔がまばらで下草も少なく走りやすい。地面は柔らかいが、パワーさえあれば自転車でも難なく走れる。何かに襲われることもなく、脳内マップが示すホームポイントへ到着した。




 今、目の前に地球と異世界をつなぐ扉がある。




 たった1泊2日の旅だったが、地球を発ったのは何日も前だったように感じる。ここは言わねばなるまい。


 「地球か、何もかも、みな懐かしい....」


 鍵を回そうとしたところで背筋が寒くなる考えに思い至った。


 まさか、浦島太郎になってないよな....

 最悪、知り合いどころか、文明が滅びている可能性もある。


 扉を開けて納屋に入り、通り抜けて外に出てみると、文明は滅びていなかった。目の前には夕日に照らされた自宅がある。見える範囲に人はいないが、何十年も経過した様子はない。自分の部屋に入って電波時計を見ると、たしかに出発した土曜の翌日、日曜日だった。異世界と地球で時間経過に違いはないようだ。



 ニャア、と猫がすり寄ってくる。

 はあ~~~~~~~っ。

 本当に帰ってきた。

 長い旅だった。



 しばらく畳に寝転がって猫をなでながら、戦利品の金貨をいじりつつ、次の異世界旅行で何をやろうか考えた。




 土日はまた、1泊2日で異世界への旅に出る。

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