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漂流軍艦  作者: 青葉 加古
17/19

籠城

前回久しぶりの投稿でした。読んで下さった皆様ありがとうございました。PVが5000、ユニークが2000を突破してました。ありがとうございます。ブックマークも本当にありがとうございます。励みになります。では新規投稿します。また宜しくお願い致します。

 昨日に続き、プラージュ市街には不気味なサイレン音が鳴り響いていた。これには、またかとザワつきながら不安げな表情で空を見上げる記者達である。


 ところが、どこを見渡しても機影はない。しばらくするとサイレンが止んだこともあって、胸を撫で下ろした彼らは、我に返って一斉に本来の職務に取りかかりだした。


「中の状況は、どうなってるんです!?」


「女性が一緒のようですが、人質ですか? 東洋人と逃げてたという目撃情報があるんですが!?」


「今回の騒動について、警察に責任はないとお考えで? 第4艦隊に何か言いたい事があるんじゃないですか? 警部、一言お願いしますよ」


「諸君! 静粛に静粛に」


 警部と呼ばれた初老の男は、めんどくさそうな顔つきで記者達を宥めながらこう告げた。


「残念ながら、詳細は不明だ。今のところ警察としては、君達を満足させる情報を何も把握していないのでね」


「詳細不明だって!?」


 詳細不明の言葉で目を白黒させる記者達を尻目に、警部は話しを続けた。


「ところで、この事件に関する責任の所在についてだが、警察としてはコメントしない」


「それは軍の行動に、やはり問題有りと警察は見ていると?」


 間髪入れず質問してきた記者に、警部は厳しい顔つきで応じた。


「ノーコメントだよ。しかし現在、我々は海軍第4艦隊陸戦隊と協力して目下事件解決に向け全力で取り組んでいる最中である。その点はご理解いただきたい。また、ここの指揮権は海軍にあり、警察はその指揮下に入っている。だから……」



「詳しい事は海軍に訊けっ、て事ですか?」


 記者の声に、警部が頷いた。


「その通り。だがその前に……。あんたらは、我々の仕事の邪魔にならんよう今すぐここから下がってくれたまえ」


 そう告げて警部が顎をしゃくった。すると待ってましたとばかりに、警部の後ろで待機していた警官の群れが記者達を力ずくで規制線の外、野次馬の中へと一斉に摘まみ出しにかかってきた。


「さあ、下がれ、下がれっ! お前らがここにいたら邪魔なんだよ!」


「イテッ! やめろ乱暴はよせ!」


「痛たたたっ! 逃げてないで警部、質問に答えてくださいっ! 市民は謎の東洋人に怯えているんですよ!」


 飛び交う悲鳴と怒号で辺りが騒然とする中、さらに輪をかけるようにして、大音声の雄叫びをあげる者が現れた。


「わっー、なんだこれは!? 俺の、俺の店があ!!」


 胸を激しく叩き、地面を足で何度も何度も踏みつけて、男は慟哭した。


 その男が着ているコックコートの背中は、うす茶色に汚れていた。次いでに言えば、顔は涙と鼻水だらけである。そう、彼は惣太郎に投げられて今の今まで気を失っていた、ジャコブなのだ。


 哀れジャコブは、意識がない間の経緯をまったく知らない。気づいてみれば、自分の店の前に軍隊と警察、そして人の山だ。なんだろうと見てみれば、ボロボロに変わり果てた店の有り様にかなりショックを受けてしまったのも、頷ける話しではないか。


 尋常ではないほど、悲嘆にくれるジャコブの姿を目の当たりにして、もちろん記者達がほっとく訳がない。記者の一人が興味津々に訊いてみた。


「どうしたんです? あれは貴方のお店なので?」


「あっ!? そうだとも。じゃないと、人前で恥さらして泣くもんかい。おい、教えてくれっ! あんたらなら知ってるんだろう? 俺の店がどうして、ああなったのかをよ」


「おー、そうですか。貴方が立て籠り現場の主さんなのですね」


「ん? なんだよ、立て籠りって?」


 ジャコブが事件現場の店主だと判ったとたん、記者達の目の色が変わった。


 たちまち彼らに取り囲まれるジャコブである。そして取材を通して知りうる限りの事を語る記者の話しに、涙をぬぐい鼻を咬み、真剣な表情でジャコブは耳を傾けた。それから程なくして、店の惨状の訳とコリーヌがあの東洋人と一緒に居ることを知って、卒倒しかけるのだった。






 その頃、惣太郎はサンドイッチ屋の2階、閉じられたカーテンの隙間から階下の様子を、そっと窺っていた。


「野次馬があんなに……。それに、これだと到底逃げられそうには……」


 身体極まった感の惣太郎が、思わず唇を噛みしめる。


 惣太郎の眼下には装甲車やトラックを背に、物々しく完全武装したリブル海軍兵達が隊列を組んで展開していた。その数たるや、この小さなサンドイッチ屋など簡単にグルリと完全包囲している事であろう。


 その外側には、警官隊だ。現場には事件の顛末を見届けようと、海軍部隊を上回る程の野次馬が押し寄せていて、警察が懸命になって規制している。


「どうにかして、逃げられませんか?」


 部屋にあったソファーをバリケードに使ったおかげで、床に腰を下ろし膝を抱えているコリーヌが、不安そうな眼差しを惣太郎へと向けている。


「そうしたいのは山々なんだけど、この中を一緒に突破するのは危険すぎる」


「そうですか……。でも、よく観察すれば何処かに隙があるかもしれませんわ。よいしょっと」


「あっ! コリーヌさんはこっちに来ちゃダメだ」


 不意に立ち上がったコリーヌが窓際に来ようとしているのを察知して、惣太郎は慌てて制止した。


 そう言ったのには、余りにも遠慮のないリブル海軍兵達による行為があったからだ。装甲車からの無警告射撃。そしてドア越しに聞こえた迷いのない手投げ弾を要求する声で、身の危険を感じていた惣太郎の思いは確信へと変わっていた。


(アイツら、自分もろともコリーヌさんも殺すつもりだった。気をつけて行動しないと……)


 でも、そんな惣太郎の心配事はコリーヌに通じていないようで、明らかに彼女の表情は不満げだった。


「どうして? 私も外の様子を見たいだけなんですが?」


「それがイケないんだ。奴らのやりくち見たでしょ? 何処かに狙撃手が居たらコリーヌさんだろうが撃たれるかもしれないんだから、君は大人しく座っててくれ」


「それなら清水さんも座って下さい」


 真剣な表情になって言うコリーヌに、惣太郎の目が点になった。


「ん? なんで自分が?」


「窓際にいると危ないんですよね? あなたが撃たれたらどうするんですか? ここまで来た意味がなくなります」


「心配してくれるのは有難いんだけど、もう少し外の様子を探りたいんだ。早くここから脱出したいからね。だからその忠告は遠慮しとくよ」


「でも……。あっ、そうだわ!」


 何かを思い出したコリーヌが、クルリと回れ右である。そして、すぐさま部屋の奥へと歩きだし、目ざとく見つけていたラジオの前に立ち止まった。


「窓からだと視界が限られているけど、これなら外の様子が居ながらにして、わかるはずです。しかも安全に」


「なるほど、その手があった」


 弾む惣太郎の声だ。ニコリと笑って、コリーヌがラジオのスイッチを入れたときである。


『バカ野郎、誰が協力者だって!? 冗談じゃない、コリーヌはうちの大事な看板娘だ!』


 と、ラジオから強烈なガナリ声が響き渡り、思わずコリーヌは驚きの声をあげていた。


「まあ、ジャコブさんだわ」


「ジャコブさん? 誰? 知り合いかい?」


「ここのお店の主……。つまり、さっき清水さんが投げ飛ばした男の人」


「ああ、あの人か。よかった。伸びちゃったんで心配だったけど、思った以上にピンピンしてるね」


「えぇ、一応日々体を鍛えあげてる事を毎日自慢してたから……」


 だから、そんなに心配する必要はない、と言いたげなコリーヌだったが、サンドイッチ屋の惨状を思い出して顔を曇らせた。


「でも、なんだか悪いことをしてしまったわ。まさか大事にしてたお店が、こんなになってしまうなんて。どう謝ればいいのかしら」


「君が謝る必要はないよ!」


 おろおろしだしたコリーヌに、惣太郎はズバリ言った。


「君たちの軍隊が無遠慮に攻撃をしたから、こうなったんだ。悪いのはアイツらだよ。民間人が一緒なのに酷すぎる」


「でも……」


「でもじゃないね。ジャコブさんの店に逃げ込んでなければ今頃二人とも死んでたところだ。仕方がなかったんだよ。そんなことより、気になることを言ってるよラジオから」


「気になること?」


「気づいてないのが凄いなぁ……。どうやらリブルの人たちは、君が自分の仲間だと思っているようじゃないか」


「えぇ!? 私がですか? ……でも、それって間違いではないですよ」


「…まあ、確かにね」


 真顔になっていた惣太郎も、コリーヌの笑顔に吊られて自虐的な笑みを浮かべた。


「だけど、変だな? 自分がお尋ね者なんだから、コリーヌさんは被害者になるはずだよね普通は。なるほど、そうは見てないから、あんな荒っぽい仕方をするんだ」


 一人だけ納得して腕を組んだ惣太郎の顔には、憂いの表情が浮かんでいた。


(これ以上自分が一緒に居ると、彼女に万がいちって事もあり得る。でも、どうやって誤解を解こうか?)


 コリーヌの身を心配して、思案する惣太郎だ。ここまで怪我もなく、運よくたどり着けたのが奇跡と言える。でも、今後ともその悪運が続く補償はない。何かが起こってからでは遅いのだ。


 そんな危険な状態にコリーヌが身をおいてるとは露知らず、大勢の野次馬が注目する中、マイクを向けられているジャコブは、物怖じもせず堂々と言いはなった。


『このジャコブ、神に誓って言う。俺はコリーヌ・メディウムを愛している! だから彼女が東洋人の協力者だなんて信じるもんか』


 突然の告白に、野次馬から拍手喝采だ。冷やかしの指笛と、ヤジが飛ぶ。


「!! ちょ、ちょっとジャコブさんたら……、ラジオで何を言ってるの??」


「いや、でも勇気あるよこの人」


 

 顔を真っ赤にさせて狼狽えるコリーヌだ。予想もしなかった告白に、頭をハンマーで叩かれたような気分である。その横で妙に感心しながら惣太郎は苦笑いを浮かべていた。


『看板娘のフルネームは、コリーヌ・メディウムとおっしゃるのですね。それにしても、とても珍しいお名前なことで。ところで、雇い主だけあって彼女の事をよく知ってると思うのですが、店で怪しいそぶりなど、なかったんですか?』


『もちろん、あるはずがない。俺の目に狂いはないぜ。だから、これ以上彼女にあらぬ嫌疑をかけるような真似は、もう終いにするこった』


 記者達を睨みまわして「フンッ!」、と鼻を鳴らし威嚇するジャコブである。ところが、そんな子供騙しのようなジャコブからの最後通告や威嚇も虚しく、こんな状況に慣れっこな記者は涼しい顔つきで、さらなる質問を浴びせるのだった。


『しかしですねジャコブさん。残念ながら、コリーヌ・メディウムは東洋人の協力者、またはリブルの裏切り者と思われるような行動を取っていたふしがあるようなのですが、それについて一言』


『なに、協力者だけでなく裏切り者だと!? 許せん! 俺の愛するコリーヌを裏切り者呼ばわりする奴は八つ裂きだあ!!』


 ジャコブの逆鱗に触れた記者は、その場に立ち竦んだ。それもそうだ。子どもが駄々をこねるようにして、彼が暴れだしたのだから。


「また言ってる!? もう恥ずかしくて、お店に行けない!」


 愛してると、愛するの連発に反応して、顔を両手で被い、イヤイヤするコリーヌの耳へと次に突き刺さってきたのは、記者の悲鳴だった。


「いたっ! いてっ! 誰か助けてくれっ!」 


 コリーヌを裏切り者呼ばわりした記者は、ジャコブから強烈なワンツーパンチを食らっていた。さらには向けられていたいくつかのマイクの一つを素早く奪い取り、記者の頭めがけて連打を浴びせるものだから、現場はたちまち騒然となった。


「誰だ? 誰が裏切り者と言っている! お前だよな? お前だよね? 今、言ってた」


「違う違う、私じゃない! 言ってるのは取材した海軍兵に警官だよ! コリーヌは自宅から脱出するときから、東洋人の手をとって率先して逃走を手助けしてたんだ!」


「なんだってぇ!? アイツは俺も触れたことのないコリーヌの手を、しっかり握ったと言うのか!?」


 ジャコブが動揺して叩いていた手の動きを止めると、彼を囲む人々がその隙を逃さなかった。宥めながら、この暴れん坊へじりじりと近寄った。


「ジャコブさん、もうそのへんで!」


「落ち着いてください、ジャコブさん!」


「今だ! 押さえろ、早く早く!」


 記者と野次馬の集団に腕を足を全身を掴まれて、ようやくジャコブの動きが止まった--かに見えた。


「東洋人野郎、許せんぞぉ!」


 ところがである。ジャコブは雄叫びをあげながら瞬時に怪力を発揮して、信じられないことに幾人もの人々を自身の体からひっぺがえしだしたのだ。


 怪力の源は、もちろん惣太郎がコリーヌに触れたことである。彼女の事を一途に想うジャコブの怒りは、人間とは思えない予想外の馬鹿力を生み出したのだ。


「ガッシャン!」


 惣太郎とコリーヌが籠る部屋の窓ガラスが割れたのは、その直後だった。同時に床には、「ゴロリ」と何かが転がっている。


「危ないっ! 手投げ弾だ!」


「きゃあ!?」


 惣太郎は反射的にコリーヌを抱き抱えて床に伏せていた。惣太郎は覚悟した。この部屋の狭さで爆発すれば、ほとんど助かる見込みはないであろう。運が良くて、背中の肉を抉られて悶絶するかどうかである。自然とコリーヌを抱く手に力が入るというものだ。ところがである。


(……?)


 てんで爆発がない。さすがに変だなと思い、惣太郎が恐る恐る頭をもたげた。


「なんだ、あれ?」


 安心したと言うより、怒りも含めて色々な感情が混ざった惣太郎の声色だった。


 その訳は、床に転がっていた物体の正体にあった。てっきり手投げ弾が投げ込まれたと思いきや、それはジャコブによって投げ込まれた、コードが引きちぎられたマイクだったのだから。


「よかった。コリーヌさん安心していいよ。手投げ弾なんかじゃなかった」


「えっ? ホントに?」


 惣太郎の声にコリーヌも恐る恐る頭をもたげ、マイクを確認した。


「はー、びっくりした。胸がとってもドキドキしている」


「胸が?」


 無我夢中だった惣太郎は、ここではたと気がついた。体がコリーヌと密着していることに、顔がとてつもなく近いことに。その時だ。


『コリーヌと一緒に居るもやし野郎! ラジオを聴いているのなら、貴様に言っておく!』


 とジャコブの殺気だったガナリ声がラジオから響き渡って、二人はカエルのように跳ね上がって慌てて離れた。


『よくも俺のコリーヌに手を出してくれたなぁ……』


「えっ? 手を出した? 自分が?」


 目が点になる惣太郎だ。冗談かとも思ったが、ジャコブの声色は真剣そのものだった。


『今すぐ彼女を解放しろ。さもなくば俺がお前の首根っこをへし折ってやるからな!』


 迫力のある言葉だったので、思わず惣太郎は生つばをゴクリと飲み込んでいた。


「あはははは。面白い人だ。でも、なに言ってんだろう? まだ何にもしてないのに」


「まだ何にも?」


 コリーヌから、好奇心に満ちた眼差しを向けられる惣太郎である。



「……。あっ!? いやいや、これから何かしてやろう、ってことじゃないから!」


 惣太郎のドギマギした不自然な態度のおかげでコリーヌは、今だ変わらない包囲網の中、面白そうに「クスクス」と肩を揺らすのだった。







 

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