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努力だけで超能力者になった俺、就職せずに人生舐めて生きる  作者: ももの樹


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パチンコは労働である

 平日昼のパチンコ店は、思っていたより静かで、思っていたより騒がしかった。

 客はまばらなのに、音量は最大。軍艦マーチの子孫みたいなBGMと電子音の洪水の中、俺は空いている海物語系の台に座った。隣の島では、常連らしき老人が微動だにせず打ち続けている。

 まず、観察だ。千円分の玉を借りて、打たずに台を透視する。

 盤面の構造は単純だった。上から放たれた玉が、無数の釘に弾かれて落ちる。中央下の「スタートチャッカー」という穴に入ると、デジタル抽選が回り、当たれば大量出玉。それだけだ。

 そして玉の軌道は——完璧に、俺の領域だった。

 試しに一発、打ち出した玉を空間ごと軽く掴み、釘の間を縫わせてチャッカーに落とす。入賞。液晶の数字が回る。

 二発目。入賞。三発目。入賞。四発目、入賞。

 打った玉が、百発百中でチャッカーに吸い込まれていく。通常、千円で二十回転も回れば優良台と言われるらしいが、俺の台は今、打った分だけ回る。永久機関の完成である。

「ふ……ふははは」

 笑いが漏れた。勝った。パチンコ、完全攻略——

 ——と、思ったのだが。

 三十分後。俺は真顔で液晶を見つめていた。

 回転数、二百十回。大当たり、〇回。

「…………おかしい」

 俺は玉の軌道を支配している。チャッカーには入れ放題だ。だが、その先——液晶の中で回る抽選そのものは、一度も当たっていない。

 俺は空間を歪め、台の内部を透視した。基盤。チップ。電子回路。大当たりの正体は、チップの中で毎秒何百万回と回り続ける乱数だった。玉がチャッカーに入った瞬間の乱数値で、当否が決まる。

 つまり、あれだ。

 俺の空間掌握は、物理は掴める。玉も、釘も、空間ごと握れる。

 だが、電子回路の中を流れる信号は——掴めない。正確には、掴んで止めることはできるかもしれないが、何百万分の一秒の世界で「当たりの数値」を狙い撃つなど、人間の認識速度では不可能だ。

 スプーンは曲がる。だが、乱数は曲がらない。

「……なるほどな。デジタルは、俺の管轄外か」

 新発見だった。十三年やってきて、初めて明確な「できないこと」に出会った。悔しいというより、少し安心した。何でもできる人生は、実績解除の余地がなくて退屈だからな。

 ともあれ、方針修正だ。抽選は操作できない。なら、俺にできるのは「抽選回数を極限まで増やす」こと。確率の分母を、物量で殴る。

 俺は打ち続けた。全弾チャッカーイン。回転効率、理論値。

 一時間後、ようやく初当たり。ドル箱に玉が積まれる。周囲の客がちらちらとこちらを見る。三時間後、俺の足元にはドル箱が四つ。閉店前に換金所で受け取った金額は——

 四万二千円。投資一万円、粗利三万二千円。

「……勝った。勝ったが」

 帰り道、俺は計算した。拘束時間五時間。時給換算、六千四百円。悪くない。悪くないのだが、五時間ずっと数百の玉を空間掌握し続けた俺の精神は、フルマラソン後のように消耗していた。しかも店側は出玉をデータで監視している。同じ店で勝ち続ければ、確実にマークされる。

 これは、あれだ。

 労働だ。

 超能力を使った、時給六千四百円の、肉体労働だ。

「違うんだよなあ……! 俺がやりたいのは、こういうのじ�ゃないんだよ」

 夜道で天を仰ぐ。俺が目指すのは、一晩で数百万が動く世界。玉を一発ずつ運ぶ賽の河原ではない。

 だが、収穫はあった。

 一つ、種銭は着実に増やせると分かった。都内のパチンコ店は数百軒ある。店を毎日変えれば、マークは避けられる。月に六十万は固い。

 二つ、俺の能力の限界が分かった。電子乱数は支配できない。この知識は、いずれカジノで生死を分けるだろう。スロットマシンは俺の敵。ルーレットとカードは、俺の友。

 三つ——五時間の玉転がしで、俺の空間掌握の精度と持久力が、目に見えて上がった。さすが一万四千時間の男、練習と実戦を兼ねる才能だけは一流である。

「よし。当面は、パチンコ行脚で種銭作りだ。名付けて……玉転がし期」

 ダサい。ダサいが、実績解除リストに追加された以上、俺はもう止まれないのだった。

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