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努力だけで超能力者になった俺、就職せずに人生舐めて生きる  作者: ももの樹


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株式会社の名前が決まらない

 九月。俺と楓は法人設立の手続きに入った。

 資本金一千万。代表取締役・九条蓮(二十二歳・大学四年生)。取締役なし。従業員は経理一名とマカオ駐在一名。事業目的は「投資業、海洋資源の調査及び引揚業、経営コンサルティング業」——楓いわく事業目的は将来やりそうなことを広めに書いておくのが定石らしい。

 順調だった。社名以外は。

「『株式会社クウカン』」

「能力バレを社名でやるな」

「じゃあ『九条ホールディングス』」

「ホールディングって何も持ってないだろまだ」

「『株式会社まじめに納税』」

「税務署にこびるな。……というか楓、さっきから全部ふざけてるだろ」

「半分ね。社名ってその人の本音が出るから、出してるの。じゃあ九条くん、あなたの本音は? この会社、何する会社?」

 俺は少し考えた。スクラッチの透視。パチンコの玉。バカラのシュー。沙の金庫。製油所のタンク——俺がやってきたこと、これからやることの共通項。

「……視えないものを視て、値段をつける」

「……ふぅん。いいじゃん。じゃ、『株式会社ミエル』」

「ひらがなにしたら間抜けだな」

「カタカナです。登記します」

 こうして株式会社ミエルは二週間後、法務局に爆誕した。設立日に楓が作った名刺の肩書は「代表取締役」。学生証と並べると、就職せずに社長になった男の出来上がりである。人生、舐めてる。

 設立祝いの夜、事務所(俺のアパートから徒歩五分の小さな賃貸オフィスに昇格した)で第一回・事業戦略会議が開かれた。議題は投資部門の初陣だ。

「マカオで盗み聞き——じゃなくて市場調査した件、覚えてるか。ヘッジファンドは衛星画像で製油所や備蓄基地のタンクを撮って、原油在庫を統計発表前に推定してる。タンクの屋根は原油の量で上下する『浮き屋根』だから、影の長さで中身が分かる」

「で、九条くんは衛星の代わりに自分が飛ぶと」

「そう。衛星より低空で雲も夜も関係なく、しかも透視でタンクの中身を直接視られる。影の推定なんて回りくどいことをしなくていい。世界最高精度の在庫調査だ」

「はい、経理からツッコミ二点。一点目、それ法律的にどうなの」

 いい質問だった。俺も調べた。俺がやるのは公道ならぬ「公空」から視えるものを視る行為。インサイダー取引は「会社関係者が未公表の内部情報で株を売買する」ことだが、俺は誰の内部者でもなく盗んだ書類でもなく、物理的に外から観測できる事実を観測する。衛星画像分析と、原理は同じだ。合法。ただし限りなく前例のない合法。

「グレーの白寄りってとこね。二点目。負けたらいくら失うの」

「先物はレバレッジ次第だが……最初は種銭の一割、七百万まで。俺のルールに一個追加する。『相場では、視えた事実にしか賭けない。予想には賭けない』」

「……ん、それなら経理としては承認。ちなみに参考までに聞くけど、視える事実って原油の他に何があるの?」

「港のコンテナの量。工場の稼働。駐車場の車の数。船の喫水——積み荷が重いほど船は沈むからな。あとは……穀物サイロの中身とか」

 楓がぽかんと口を開けた。それから電卓を持ったまま、遠い目をした。

「……九条くん。世界中のアナリストが血眼で推定してる数字を、あなた目視できるのね」

「できる。今までスクラッチに使ってた目だぞ、これ」

「宝の持ち腐れすぎる!! よし、方針決定。当面この会社は、世界一足で稼ぐ調査会社です!」

 その夜、会議のホワイトボードには初陣の作戦が書き上がった。

 標的:国内の製油所・原油備蓄基地、計六箇所。

 手段:深夜飛行+透視での在庫実測。

 照準:毎週水曜(日本時間木曜早朝)発表の米国在庫統計——ではなく、まずは国内需給とタンカーの入出港。足元の、視える事実から。

 窓の外は秋の夜だった。マカオのネオンとは違う、静かな日本の夜空。

 あの空の上が明日から俺の仕事場になる。通勤時間、ゼロ分。

 ……あ、いや、あった。一つだけ先にやるべき仕事が。

 週末、俺は久しぶりに駅前の宝くじ売り場の前に立った。習慣というのは怖いもので、足が勝手にスキャンを始める。ハズレ。ハズレ。二百円。ハズレ——

 そして俺は、見た。

 束の上から七枚目。

 一等、一万円。

「……あった」

 七百枚視て出会えなかった伝説が、そこにいた。売り場のルールはあの日、骨身に刻んである——くじは選べない。束の上から順。つまり上から七枚まとめて買えば、七枚目のあいつは俺のものだ。俺は震える声で「上から七枚ください」と告げ、千四百円を払い、公園のベンチで六枚のハズレと共にそれを削った。

 一万円。正真正銘の、一等。

 七千二百万円の男は公園のベンチで、人生で一番のガッツポーズをした。

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