勇者の憤怒
バンヘルトはリブの森で半魔族の攻撃を受けるも……。
翌朝になり野菜を練り込んだクッキーを急ぎ食べる。この食べ物や飲み物はリンナの家から拝借して来たのだ。
食べ終えると身支度を整える。次いで地面に敷いてある布を丸め棚に仕舞った。
「再び戻ってこれるのか? 今の状況じゃ無理だろうな」
そう言いながらフードを被る。
(シオンの居るタンギニスの村は、ここから遥か東南東だ。すんなり辿り着ければいいんだけどな)
そう思いながらデルティアの洞窟からマイキア草原に出ると、バンヘルトはタンギニスの村の方角へと急ぎ足で向かった。
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空は何時しか日が沈みかけている。周囲は薄暗い。
少しでも早く辿り着きたいバンヘルトは食べ物や飲み物を口に運び歩いた。
(そろそろ休憩するか。流石に疲れてきたしな)
体力がどの位あるのだろうか。このリーバル湿原までくるのに普通の人であれば約二日はかかる。
まあ休憩を取ったり村や町で寝泊まりしているから余計にだ。
それを休まず歩き一日も経過していないのにバンヘルトは、ここまで来てしまった。
(一人だと早いもんだな。もう、ここまで来てしまった。仲間たちも一人で行動した方が早かったのか?)
それは違う、ただ単にバンヘルトが普通を通り越しているため早く辿り着いただけだ。
そもそも普通の人なら休まず歩くなど到底できない。
(夜は見晴らしが悪い。それに休憩も必要だ。この辺で近い所といったら……フバの森がいいか。あそこにはテントを張れるような広い場所があったはず)
進む方向を確認し西へ方向転換し歩き始める。
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湿原を抜け直ぐに森が姿を現した。ここがフバの森だ。
森に入り小道を裂け茂みを暫く歩くと広い場所へでる。
(真面に小道を進んでたら時間がかかる)
面倒なのでショートカットしてきたようだ。
周囲を確認したあと手を前に翳し唱える。
《異収納域 解放!!》
そう言い放つと魔法陣が現れ眩く発光した。それと同時に、ピキッと空間が裂ける。
異空間からテントや寝泊りに必要な道具を取り出した。
全て取り終えると目の前に手を翳し唱える。
《異収納域 封!!》
そう言い放つと現れ出た眩く光っている魔法陣と共に空間が閉じていった。全て閉じると魔法陣は消える。
「これだけあればいい。あとは狩りや燃えそうな枯れ木を探したいが……どうする?」
自分から逃げる魔獣や獣を狩るのは困難。枯れ木を探すにも森は整備されていて落ちている物も極わずかだ。それをどう対処するか思考を巡らせていた。
「……!?」
猟奇的な眼差しを背後の木の上から感じる。
(魔物か? いや違う。この感じは……魔族か。それも上位の者だ。オレが勇者だと気づき狙っているのか……)
そう思った瞬間、魔物と思われる者は素早く木から降り立ちバンヘルトを攻撃してきた。
それをバンヘルトは素早く回避する。と同時に魔族と思われる者の腕を瞬時に掴み地面に叩きつけた。
「何者だ!?」
そう言い地面に叩きつけた者をみる。
「クッ……イテェー…………クソッオォォォー!! なんて強さだ……お前、本当に人間か?」
そう言い地面に叩きつけられた者……いや、ピンクの癖毛で後ろが長い髪の魔族の女性はバンヘルトを睨みながら上体を起こした。
背中にはハーピィのような形の黒い翼が生えている。頭には黒い角が二本。その他は人間とあまり変わらないのである。
そう半魔族と言い人間と魔族のハーフだ。
因みに半魔族は普通の魔族よりも知能と武力に優れている。
魔王ガイモンも半魔族で人間と魔族の両方に忌み嫌われていた。だが人間側に就かず魔族を束ね魔王となったのである。
「半魔族か……なんでこんな所にいる?」
そう言いバンヘルトは凍てつくような鋭い気を放ち目の前の半魔族を睨みつけた。
「クッ……動けねえ。お前は何者だ? 人とも思えねえ!」
「人間だが……まあ鍛えてるからな」
「嘘だろ? こんな人間は勇者しか知らねえぞ」
冷や汗をかき半魔族の女性は怯えている。
「ほう……勇者を知ってるのか?」
「ああ、アークステイ城でみているからな」
「じゃあ顔をみれば分かるよな?」
そう言いバンヘルトは被っているフードを脱いだ。
「……!?」
フードを脱いだバンヘルトの顔をみて半魔族の女性は凍りつき何も反論できなくなる。
「どうした? なぜ言葉を発しない!」
「あ……い……や、なな……なんで……勇者……が」
目の前に勇者が居て半魔族の女性は今にも失神しそうだ。
「それはそうと……オレは、お前のことを知らないぞ」
そう言いバンヘルトは力を使い続けるのがツラくなりバッグの中から魔道具【魔力の鎖】を取り出し半魔族の女性を縛った。
縛られて動けなくなるも半魔族の女性は、バンヘルトの放つ鋭い気から解放されて安堵する。
「ボクは逃げたからな。ううん……お父さまが逃がしてくれたんだ」
「父親か。誰かは分からないが、まあいい。そうだな……半魔族とはいえ、なんら人間とかわらない。魔族もそうだ。ただ価値観の違い故に対立している」
「お前……どっちの見方なんだ?」
そう問われバンヘルトは今の状況を踏まえて、どう返答していいか悩んだ。
「なんで悩んでる? そういえば以前と身なりが違う……聖者の一式装備に聖剣も持ってねえ」
「あー……そうだな。あれば……もっと攻撃も守りも強固になるんだろうが」
「言っている意味が理解できねえ。まるで誰かに盗まれたみたいな言い方だよな」
そう言われバンヘルトは苦笑した。
「まあ……似たようなもんだな」
「どういう事だ?」
「オレも理解に苦しんだ。まさか信じていたものに裏切られるとはな」
悔しさのあまりバンヘルトは力み過ぎて凄まじい気を放ってしまい周囲の木々を激しく揺らしている。
「裏切られたって……仲間にか?」
そう聞かれバンヘルトは首を横に振った。
「断言はできないが、アルベガ国の王ハイムと聖騎士長アルクにだ。オレは……」
そう言いバンヘルトは、ここまでの経緯を説明する。
かなり鬱憤が溜まっていたのだろう。勇者とも思えないほどの汚い言葉を交え言い放った。
「身ぐるみを剥がされて城を追い出されたうえに仲間の一人を殺された、か。それも勇者が魔王に乗っ取られたって……お父さまには、そんな力なんかねえぞ!」
「まさか、ガイモンの娘なのか?」
驚きバンヘルトは後退りする。
「そこまで驚くことねえだろ!!」
「いや、あの魔王に……こんな可愛い娘がいたなんて思えなかったからだ」
「まあ……それは、よくみんなに言われる」
可愛いと褒められて嬉しくなり半魔族の女性は照れた。
「なるほど。それはそうと……今更だが、なんでオレを襲った?」
「本当に今更だなぁ。まあいいけど……。さっき襲って来たヤツの仲間だと思ったんだ」
「さっき襲われたって、そいつはどんなヤツだった?」
そう聞かれて半魔族の女性は脳裏に思い浮かべながら話し始める。
「確か……青いローブのようなマントで右胸の方に緑色の紋章があったぞ。それに髪は水色っぽい感じだった気がする」
「そいつは……もしかしたら、 グレンライズかもしれない!」
「知り合いなのか?」
そう問われバンヘルトは首を横に振った。
「直接は話したことがない。だが知ってはいる……リンナを殺したヤツだ」
再び怒りが込み上げてくる。
バンヘルトの周囲を風が吹き荒れて葉っぱを散らしていった。
「クッ……なんて力だ! 頼むから気持ちを沈めてくれねえか」
「悪い……」
深呼吸を何度もしてバンヘルトは気持ちを落ち着かせる。
その後もバンヘルトは半魔族と話をしていたのだった。
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