勇者の悲痛
バンヘルトは洞窟で休んでいると何時の間にかに眠ってしまい夢の中でリンナと逢い……。
ここはアルベガの城下町から遥か南東にあるデルティアの洞窟。この洞窟は国で管理されているため整備されていて綺麗である。
洞窟に入って直ぐの場所にはセーフポイントと言われる休憩し寝泊りできる場所が設置されていた。
この場所にはバンヘルトが居て床に敷いた布の上に腰かけ岩壁に寄りかかっている。
(やっと真面な場所で寝れる。三日もかかった。予定では、この洞窟に昨日着いていたはず。立ち寄ったキンラニの森で迷ったせいだ。
それにしても魔獣や魔物が襲ってこないってのも金銭的にも困る)
手のひらへ視線を向けると、バンヘルトは溜息をついた。
(それに逃げてい行くおかげで張り合いがない。強さを求め過ぎた末路がこれか。それに……)
国のために勇者の証を手に入れて尚且つ魔王ガイモンを討伐したにも拘らず、なぜこんなことになったのかと頭を抱える。
(明日は、リンナに逢える。早く逢って相談しないとな。そうじゃないと……おかしくなりそうだ)
理性を保ててるのは信頼している仲間の存在だ。そうでなければ、アルクの下に赴き問い詰めていただろう。
そうアルベガの町の食事処で噂を聞いたあの時、仲間の顔が浮かび冷静を保てたのである。
(リンナは今頃何をしているんだ……相変わらず考古学の研究をしているのか?)
昔のことを思い出しバンヘルトは涙を流していた。
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……――バンヘルトは夢をみている。そこにはリンナがいた。
オレンジ色の長い髪を上の方で束ね眼鏡をかけたキツイ目つきの女性だ。
名前はリンナ・サリュアと云い、三十歳。考古学のために発掘などをしてるトレジャーハンターである。まあ要は盗賊と何ら変わりない。
バンヘルトとは十年前に虹色キメラのパーティーで出会った。
『何をやってるのよ。また壊したの?』
『オレって……そんなに物を壊してたか?』
『つい最近だと折角手に入れた遺物の魔石が埋め込まれた盾を壊したじゃない』
かなり怒っているようだ。
『そういえば、そんなこともあったな。だが今回は違う……オレはクロッキー国の王と王妃を殺してなんかいない』
『でしょうね。魔王の討伐でさえ躊躇った貴方が殺せる訳ないでしょ。それに貴方が何もしていない人を殺せる訳ないわよ』
『そうだとしてもだ……オレは魔王に乗っ取られたって噂を流されたんだ』
それを聞いたリンナは呆れた表情をしている。
『だから? まさか何もしないで逃げて来たって云うんじゃないでしょうね』
『違う……逃げた訳じゃない。城に赴いたら余計にややこしくなるんじゃないかと思った』
『言い訳かしら? だけど……そうね。今回ばかりは、それで正解だったかも。貴方の理性が保ててたなら良かったわ』
リンナは微かに笑みを浮かべていた。だが、どことなく悲しげにもみえる。
『これから何が起きようとも……絶対に理性を保つのよ。いいわね! 分かった?』
『なんで急にそんなことを言うんだ? リンナらしくない』
『そうかしら……そうね。バンヘルト……ごめん、そろそろ……いくわね』
そう言いリンナは軽く手を振り涙ぐんでいた。
『まるで……遠い何処かに行くみたいなことを言うなよ』
『そうね……そうなのかもしれないわ。だけど、こうしてバンヘルトと逢えたことが奇跡なのかも』
『まさか……思念を送っているのか? リンナ!! まさか何かあったんじゃないだろうな!?』
そう問いかけるもリンナの声は聞こえず徐々に姿が消えかけている。
『待ってくれ……!!』
そう言い掴もうとしたが、リンナの姿は完全に消えてしまった。
バンヘルトは嫌な予感がするものの一方で『いや……絶対に違う。そうだ……これは絶対に夢だ〜!!』と思い叫んだ。
その叫びと共にバンヘルトの意識は遠退いていった。
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……――バンヘルトは目覚め周囲をキョロキョロとみる。
「ハァー……そうだよなぁ。夢だ……良かった」
そう思うも脳内にリンナの姿や声が鮮明に残っていた。
(やっぱり気になる……でも夢だ。だけど……あまりにも鮮明すぎる)
立ち上がり地面に敷いていた布を丸めると元あった棚にのせる。
その間もバンヘルトはリンナならこう言うよなと思い涙を浮かべていた。
(まだ……そうだと決まった訳じゃない!)
涙を拭いフードを被ってローブや装備などの位置を整える。
地面に置かれているバッグを肩にかけると急ぎ足でこの場所を立ち去り洞窟の外へと向かった。
外は既に日がのぼり明るくなっている。
その余韻を感じる暇もなくラベンディアの町へ向かい駆け出した。
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デルティアの洞窟とラベンディアとは然程距離がなく、バンヘルトは辿り着き町の入口に立っている。
(確か……リンナの家は町の南西側だったはずだ。変に思われるとマズい。ここは普通に歩いてくか)
周囲をみたあとリンナの家の方へ向かった。
(町の雰囲気が変だ。こんなに人って少なかったか?)
キョロキョロしながら歩いている。
(なんだ? 急に人が増えて来たぞ。それも……あの方角はリンナの家の方だ)
何があったのかと気になって更に歩みを進めた。
「……!?」
人だかりの手前で立ちどまる。
(なんでリンナの家の前で……こんなに人が集まってる?)
人込みに紛れて何が起きているのか探りを入れることにした。
「一撃で殺されたらしい」
「誰が殺したんだ?」
「みつけたグレンライズ様の話だと勇者バンヘルト様の破れたマントの切れ端を手に持ってたらしいぞ」
話を聞きバンヘルトは困惑する。
(オレのマント……多分、城にあるはずだ。それなのに……って、その前に誰が殺されたんだ?)
そう思い気になり人込みを掻き分け前まできた。
「……」
家の中から担架にのせられて運び出されるリンナの姿がバンヘルトの目に入ってくる。
リンナの手には【思念の宝玉】と云われる遺物が握られていた。
それをみてバンヘルトは察する。
(アレは……夢じゃなかった。それなら、もっと違う話をすればよかったのに……できなかったんだ。もうリンナと話すこともできない)
ここに居ることがツラくなったバンヘルトは涙を浮かべ立ち去った。その後、町の外へでる。
★★★★★
ラベンディアの町の外マイキア草原までくるなり、バンヘルトは周囲を見回して誰もいないことを確認すると地面にへたり込んだ。
(なんでリンナが殺されなきゃいけない? オレを殺せばいいだろ。そういえば、なんでカラッカゼ大草原で寝てたんだ?
まさか……オレを殺すためか? だとしてもパンツ一枚にしただけじゃオレは死なないぞ)
ツライはずなのになぜか再びカラッカゼ大草原で寝ていた時のことを思い返していた。
(なんでこんな時に思い出すんだ。そんなの今はどうでもいい! それよりも誰がリンナを殺したかなんだ!!)
涙を拭いラベンディアの町の方へ視線を向ける。
(確かリンナをみつけたのは、グレンライズ。そういえば昔そんな名前の騎士見習いが居た気もする)
思い出そうと試みた。
(あー……そうだ! 確かグレンライズ・モルカ。オレと同じ年でアルクと仲良しだったヤツと同じ名前。でも…………まさかなぁ)
そう思うも可能性は大いにあるのだ。
アルクの馴染みの騎士。それに、もしアルクの下で騎士を続けているのなら指示を受けたグレンライズがリンナを殺したとしてもおかしくはない。
(もしそうなら……許さない。いや待て……リンナは何があっても理性を失うなって言っていた。だが……クソッオォォォー!!)
そう心の中で叫び暫く自問自答を繰り返していたのだった。
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