勇者の困惑
バンヘルトはルシファーナと魔族領土へとくるも……。
……――三ヶ月後。
ここはサルカナ島。場所は地図上で北西側に位置する。
この島の南西側にある火山地帯付近の麓にはアークステイ城がある。
アークステイ城よりも北東にあるセム草原にはバンヘルトとルシファーナがいた。
二人はアークステイ城に向かっている。
「もう少しで着く……そろそろ人間の姿から元に戻らなきゃ」
「そのままのが可愛いと思うぞ」
「そ、そうか? だけど……城の連中になんて言われるか分からないからな」
そう言い目の前に両手を翳し交差するとルシファーナは人間から元の魔族の姿へと変わった。
「オレも変身したい」
「何に変身したいんだ?」
「強い魔族だ」
相変わらず無表情なままバンヘルトは何処か遠くをみつめる。
「そのままでも強いと思うけど」
「そうか? だが……今のままじゃ強いと思われない気もする」
「いや……十分すぎるぐらいの威圧を放ってる。見た目を強くしたら誰も寄り付かなくなるよ」
ハァーと溜息をつきバンヘルトはルシファーナへ視線を向けた。
「別にオレは誰も寄せ付けたくないぞ。もう仲間なんて必要ないからな」
「なんか寂しい気もする」
「失った時のツラさは仲間が多ければ倍増する。もう……これ以上ツラい思いはしたくないんだ」
心配に思いルシファーナはバンヘルトをみている。
その後二人は魔族領土の敷地内へと足を踏み入れた。
★★★★★
魔族領土に入り暫く歩いていると、ダークストーンでできた鉄のような壁がみえてくる。
その壁は見上げるほどに高く円状に周りを囲っていた。
「ここにくるのも久しぶりだな。なんか変な気分だが」
「そうだろうね。それと……分かってると思うけど」
「ああ……城に辿り着くまではフードを脱がなければいいんだろ」
それを聞きルシファーナは頷きバンヘルトへ視線を向ける。
「あと可能なら気を抑えていた方がいいよ」
「どのぐらい制御できるかだがな」
そう話しながら二人は門の前まできた。
門の近くには魔石を嵌めこむ台座が置かれている。
ルシファーナはその台座に持っている魔石を嵌めこんだ。
すると門が――ゴゴゴゴゴゴ……――と音を立てて開いた。
それを確認するとバンヘルトとルシファーナは歩みを進め中に入る。
★★★★★
中に入ると大小様々な建物がみえてきた。
一番大きい建物が巨人族。最も小さな建物が小人族だ。
そうこの世界で魔族とされる者たちは人間以外の種族なのである。
そのためエルフ系の種族も魔族と呼ばれていた。
他にも多種族の者たちが自分たちのテリトリーを決め暮らしている。
「なるべく攻撃的じゃない種族の区域を通っていく」
そう言われてバンヘルトは頷き無言で歩き出した。
その横をルシファーナがついて歩いている。
その間ルシファーナはすれ違う者たちに声をかけられていた。
(魔族とはなんだ? オレは今まで何をみていた。人間と同じような感情を持つ者もいる。あの時……魔王も人間のような感情を……だから躊躇ったんだ)
そう思いながらバンヘルトは、フードを深々と被り周囲を警戒し歩いている。
……――かつてバンヘルトは仲間と共にここを訪れた。そう魔王ガイモンを倒すためだ。リンナとシオン、その他二人の仲間と一緒にである。
リンナとシオン以外は城外の魔族たちと戦った。
その間バンヘルトとリンナとシオンは城に侵入し多種な魔族を蹴散らし魔王ガイモンが居る部屋までくる。
既に魔王ガイモンはバンヘルト達が来ることを知っていたため待ち構えていたのだ。
バンヘルトは魔王ガイモンの前までくると身構えた。
だが魔王ガイモンは溜息をつきバンヘルトを見据える。
『勇者よ……我々が何をしたというのだ』
『何もしていないと言うのか?』
『うむ……我は、この地を監視しておる。お前たちの言う魔族が悪さをしないようにな』
それを聞きバンヘルトは怪訝に思った。
『意味が理解できない。じゃあ……人間区域で悪さをしてるのは誰なんだ!?』
『恐らくは人間族の誰かだろう。我は広範囲におる者どもの監視などできん。そのためここに人間族以外の者たちを集め外に出ぬように見張っておるのだ』
『それを信じろと云うのか?』
哀れな目で魔王ガイモンはバンヘルトをみている。
『信じられないのも無理はない。お前たちは魔族を毛嫌いし悪きものと決めつけておるのだからな』
それを聞きバンヘルトは困惑していた。じゃあ今までの自分が歩んできた道のりはなんだったのかと思い頭を抱える。
『バン……口車にのるんじゃねえ。相手は魔王だぞ! お前を混乱させて利用しようとしてるかもしれねえ』
『ハッ! 悪い……シオン。危うく信じる所だった』
そう言いバンヘルトは聖剣を構え直し魔王ガイモンを鋭い眼光で睨んだ。
『愚かな……我が死すれば、この地はどうなる? 誰も治安など守れぬぞ。それとも、お前が我の代わりとなるのか?』
そう問われバンヘルトは再び困惑する。
(魔王の言っていることは正しい。確かに……この地を統べる者がいないと魔族どもは暴走するかもしれない)
そう思っているとバンヘルトの肩をリンナが軽く叩いた。
『何を躊躇ってるの? もしそうだとしても、バンヘルトは国から重要な使命を受けて魔王を討伐に来たのよね?』
『ああ……そうだな。それにオレの国がなんとかしてくれるはずだ』
『本気か? 人間は平気で裏切る。ましてや自分たちよりも強者に対して悪魔や魔王と呼びな』
それを聞きバンヘルトは一瞬躊躇うも持ち堪える。
『惑わされるもんか!』
そう叫びバンヘルトは魔王ガイモンを攻撃した。
その後バンヘルトは死闘の末に魔王ガイモンを討伐することに成功する。
だが未だにバンヘルトの脳裏には魔王ガイモンの言葉が問い責め立てるように残っていたのだ。
……――その時のことを思い出しバンヘルトは忠告を聞いていればと思い後悔していた。
(今に思えば、ホント……オレは馬鹿だったよ。だけどガイモンが言ってたように魔族どもは、ここから逃げ出していないようだ)
そう思いバンヘルトはルシファーナをチラッとみる。
「ここから外に出た魔族はお前だけか?」
「うん、そうだよ」
「今は誰も治めていないのに治安も前と変わってない。いや……前よりもよくなってないか?」
それを聞きルシファーナは笑みを浮かべ口を開いた。
「勇者バンヘルトの影響って言ったらどうする?」
「どういう事だ?」
「というか……ボクが勇者バンヘルトを連れてくるって言ったんだ。そのあとから、みんな大人しくなったんだよ」
全然意味が理解できないバンヘルトの脳内は混乱状態だ。
「なんでオレなんだ? それに、どうして大人しくなる!」
「お父さまを倒したからだ。ここでは力と知能の両方に長けていないと王になれない」
「それとオレとどう関係してる? そういえば、ガイモンにも言われた。自分が死んだらこの国をとな。だがオレは断った」
それを聞きルシファーナは真剣な表情になりバンヘルトをみる。
「今も王になる気はないのか?」
「そんなガラじゃない。ここに来たのも……行く宛てがなくなったためだからだ」
「でも魔王になるって言ったよな?」
そう言われバンヘルトは首を横に振った。
「言ったが、ここに再び訪れて改めて無理だと思った」
「ボクはそう思わない!」
「オレはお前にとって父親の敵でもか?」
そう問われてルシファーナは迷いなく頷きバンヘルトを見据える。
「そんなの関係ない。確かにバンはお父さまを殺した。だけど恨む気はないよ。それだけバンが優れてたってことだもん」
それを聞きバンヘルトは困惑していた。
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