第12.5話 不知火 凛の気ままな行動
……凛会長。今すぐ、この見積書の山を直視してください」
放課後の生徒会室。副会長の森田 吹は、こめかみに浮き出た青筋を必死に抑えながら、机に一枚の書類を叩きつけた。
そこには、図書室の特注書棚の修理費用と、昨日の焼肉店から請求された『皿の破損代』の合計金額が、可愛くない数字で並んでいる。
「ふむ……吹、君は数字に固執しすぎる。この金額は、いわば青春という名の投資、あるいは未来へのパスポート代だよ」
「そのパスポート、今すぐシュレッダーにかけていいかな?」
吹はメガネを指先で押し上げ、冷徹な視線で会長を射抜く。
彼女は不知火凛という「暴走機関車」のブレーキ役を自認しているが、最近そのブレーキが、新入生の孤崎透という男が関わると、面白いように焼き切れることに気づいていた。
「大体、何なの? その『不信感担当』っていう謎の役職。そんなの生徒会規定のどこにもないよ」
「吹、君は分かっていないな! 孤崎くんのあの『世界すべてを疑う眼差し』……あれは、権力に腐敗しがちな生徒会に緊張感をもたらす、いわば『歩くコンプライアンス』なんだ!」
「ただの女子嫌いの偏屈な子にしか見えないけれど?」
吹は溜息をつき、手元のスケジュール帳をめくる。
「明日の朝イチで校長室に謝罪、昼休みは図書局長への菓子折り持参。あ、菓子折り代は凛の自腹ね」
「なにっ!? 厳しい、厳しすぎるよ吹! 私の今月のガンプラ予算……いや、活動資金が底をついてしまう!」
「自業自得。……それと、これ」
吹が差し出したのは、昨日会長が図書室から回収(拉致)してきた、孤崎透の『不信感フィルター』のメモが挟まったままの数学の教科書だった。
「これ、本人に返してきなさい。……ただし、変な勧誘はなしだよ。彼、最近本気で怯えてるんだから」
「分かっているとも! 私は彼に『信頼』という名の光を届ける使命があるのだ!」
「……その光が、彼にとっては一番の騒音だってことに気づきなさい」
嵐のように生徒会室を飛び出していく会長を見送り、吹はドサリと椅子に深く腰掛けた。
「……ほんとこの学校に、この会長ありだね」
彼は、自分が一番の「被害者」であることを再認識しながら、胃薬を炭酸水で流し込む。
窓の外では、夕日に照らされた校庭を、会長が「孤崎くーん! 教科書を届けにきた英雄だぞー!」と叫びながら爆走しているのが見えた。
「……ま、退屈だけはしないね。この行動力には......」
吹は、少しだけ口角を上げると、すぐに無表情に戻り、山積みの事務作業へと再び没頭し始めた。




