第十二話 図書室に隠し扉ある学校がどこにある!?
昨夜のHGUC製作のおかげで、俺の精神状態は「皿洗い地獄」の泥沼から、辛うじて表面張力で持ち直していた。
だが、放課後の廊下で待ち構えていたのは、不知火会長よりも神出鬼没な、図書局の勧誘部隊だった。
「孤崎くん。君、休み時間はいつも一人で本を読んでいるわね。……図書局に興味はない?」
声をかけてきたのは、眼鏡の奥に知的な、だがどこか「獲物を定める猟師」のような鋭さを宿した図書局の先輩だった。
(——ステップ一、共通の行動(読書)からの親近感アピール。ステップ二、図書局という『静寂』をエサにした勧誘。……断る理由を探す時間を与えるな、俺の脳内フィルター!)
「いえ、俺はただ静かにしていたいだけで……」
「図書室の奥には、局員しか入れない『特別書庫』があるの。法律関係の古い資料もたくさんあるわよ。……少し、案内しましょうか」
『法律関係の資料』。
その言葉が、俺の不信感という名の防壁に小さな穴を開けた。……策略だ。俺の趣味嗜好が、どこからか漏れている。斉木雫か? それとも不知火会長か?
案内された図書室は、放課後というのに奇妙なほど静まり返っていた。
一番奥にある、古びた歴史書の棚。先輩が特定の背表紙を指先で押すと、ゴゴゴ……という、およそ現代の公立高校にあるまじき重低音が響いた。
「……は?」
本棚がスライドし、そこには暗い下り階段が現れた。
「図書室に隠し扉ある学校がどこにあるんだよ! ここは忍者の里か何かか!?」
「静かに。……ここは旧校舎の地下に繋がっているの。秘密の共有は、連帯感を生むわよ?」
先輩が妖しく微笑む。
(——待て。ステップ三、秘密の共有による『吊り橋効果』の強制発動。旧校舎の地下……昨日の落とし穴事件と構造が酷似している。これは図書局単体の動きじゃない。学校全体が、俺をこの『迷宮』に閉じ込めようとしているのか!?)
第十二話の展開を、不知火会長の乱入による「物理的な解決」と「さらなるカオス」の方向で再構成します。
第十二話:図書室に隠し扉ある学校がどこにある!?(不知火会長乱入Ver.)
案内された図書室の最奥。本棚がスライドし、闇へと続く階段が現れたその瞬間、俺の「公立高校に対する常識」は音を立てて崩壊した。
(——隠し扉? ステップ一、非日常的な空間による心理的動揺の誘発。ステップ二、密室へ誘い込むことによる逃走経路の遮断……。図書局の先輩、あんたも雫の差し金か!?)
俺が絶望の淵で身構えた、その時だった。
「——待たれいッ!!」
背後から、図書室の静寂を木っ端微塵に打ち砕く怒号が響いた。
振り返ると、そこには図書室の重厚な木製ドアを蹴破らんばかりの勢いで立ちふさがる、不知火会長の姿があった。
「不知火会長!? なぜここに……」
「ふっ、私の『生徒会長アンテナ(自称)』が、校内の秩序の乱れを感知したのだ! 孤崎くん、こんな薄暗いジメジメした場所に一人で連れ込まれて……さては、禁じられた魔導書の儀式の生贄にされかかっているな!?」
「そんなわけないだろ! あとアンテナが遅すぎる!」
会長は風を切って歩み寄り、俺と図書局の先輩の間に割って入った。
「図書局長! 孤崎くんは我が執行部の(勝手に決めた)大事な人材だ。彼をこのような地下迷宮に監禁し、不健全な読書を強要することは、校則第百二十条『生徒の自由な移動の権利』に抵触する!」
「……不知火、相変わらずうるさいわね。これはただの資料室の案内よ」
図書局の先輩が呆れたようにため息をつく。しかし、会長は止まらない。
「言い訳は無用! 孤崎くん、安心したまえ。私が来たからには、この隠し扉のギミックごと、生徒会の権限で開放的かつアグレッシブな空間にリフォームしてあげよう!」
「壊す気かよ! やめろ!」
会長はなぜか懐から、昨日皿洗いで使ったのと同じような(そしてなぜか発光している)ゴム手袋を取り出し、隠し扉の回転軸を無理やり逆方向に回し始めた。
ギギギ、ガガガッ!!
「……あ、壊れた」
俺の呟きと同時に、図書室の至宝とも言える隠し本棚が、中途半端な角度で完全にロックされた。
「……不知火、あんた……。これ、修理代いくらすると思ってるの?」
図書局長の目が、雫のそれとは別の意味で「絶対零度」まで冷え込む。
「……孤崎くん。戦略的撤退だ」
「あんたのせいだろ!」
会長に腕を掴まれ、俺は図書室から全力で引きずり出された。
逃げる途中、棚の隙間からこちらをじっと見つめる雫の視線を感じた気がしたが、今は背後から迫る「図書局長の殺気」の方が物理的に恐ろしい。
期待は裏切られる。
静寂は破壊される。
そして生徒会長は、救世主の顔をして状況を悪化させる。
「はっはっは! 助かったな孤崎くん! お礼は今度の生徒会予算の計算(皿洗い含む)でいいぞ!」
「……なんだよ、この学校の全勢力……!!」
加速する不信。止まらない物理破壊。
俺の高校生活は、もはや「不信感」を抱く暇すら与えてくれない、ノンストップの災厄へと加速していた。




