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俺の女性不信が加速している件について〜美少女に取り込まれる地獄。それでも俺は一人でガンプラを組んでいたい〜  作者: 新詳カサト


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第十話 反省文の打ち上げってなんだよ

放課後の教室には、西日が長く差し込み、埃が光の粒となって舞っていた。

 本来なら今頃、俺は自宅のデスクで昨日届いたばかりのニッパーの噛み合わせをチェックし、至福の「無」に浸っているはずだった。


だが、現実は残酷だ。

 目の前には、白々しいほど真っ白な原稿用紙が二枚。


「……反省、ね」


俺はシャープペンシルを走らせる。

『私は、学校が用意した迷宮のような旧校舎において、物理的な床の腐朽を予見できなかった。また、同行した生徒会長の暴走を制止するだけの権限と筋力を持ち合わせていなかったことを痛感し、以後、重力に従って落下したことを深く反省します』


もはや反省文ではなく、嫌がらせに近い報告書だ。

 すると、隣の席でサラサラと(おそらくは完璧な優等生風の謝罪文を)書いていた斉木雫が、クスクスと肩を揺らした。


「相変わらずだね、透くん。そんなこと書いたら、松岡先生の血圧がまた上がっちゃうよ?」

「……誰のせいでこうなったと思ってるんだ」

「ふふ、何のことかな?」


雫は小首をかしげ、純粋無垢な瞳で俺を見る。だが、その瞳の奥には昨夜、俺の部屋で「ぐちゃぐちゃにしてあげようか」と囁いた時の、あのどす黒い執着が澱のように溜まっているのを、俺のフィルターは見逃さない。


「終わったー! 完! 全! 燃! 焼!」


突如、静寂を切り裂いて不知火会長が立ち上がった。彼女の原稿用紙には、文字ではなくなぜか「燃える拳」のようなイラストが描かれている。


「さあ諸君! 理不尽な弾圧を乗り越えた我々には、今、祝杯が必要だ! 第十回記念・反省文提出完了記念打ち上げを挙行する!」

「……第十回ってなんだよ。今回が初めてだろ。あと勝手に人を数に入れるな」

「固いこと言うなよ、孤崎くん! 灰原くんも、ほら、涙を拭いて肉を食べに行こう!」


隅の席で「反省文なんて、内申に響いたらどうしよう……」と、さっきから一文字も書けずに震えていた灰原が、顔を上げた。


「えっ……お肉? あの、焼肉とかですか……?」

「そうだ! 札幌駅近くに、会長御用達の『食べ放題・飲み放題ソフトドリンク』の名店がある! 孤崎くん、君の奢りだ!」

「なんでですか! 払うわけないでしょ!?」


結局、会長の強引な牽引と、雫の「私も、透くんと一緒に行きたいな」という逃げ場を塞ぐような圧力、そして灰原の「ぼっちで行くの、怖いんです……」という計算された(と俺が断定した)涙目のコンボにより、俺は夜の札幌駅前へと連行されることになった。


駅前の喧騒。ネオンが不信感を煽る。

 案内されたのは、やたらと威勢の良い店員が歩き回る焼肉店だった。


「さあ! 焼いて、食って、忘れるのだ!」


会長がトングを振り回し、カルビを網に乗せていく。煙が立ち込め、脂の弾ける音が響く。

 俺は、最も警戒すべき雫から一番遠い席を確保したはずだったが、気づけば彼女は当然のように俺の真横に陣取っていた。


「はい、透くん。あーん」

「……やめろ。自分の箸で食べる」

「もう、照れちゃって。お肉に毒なんて入ってないよ? 入っているのは、私の『真心』だけ」

「それが一番の猛毒だって言ってるんだ」


俺は彼女の箸をブロックし、自分の皿に盛られたタン塩を凝視する。

(——ステップ一、食事という無防備な時間に親密さをアピールする。ステップ二、間接キス等のイベントを発生させ、心理的な障壁を破壊する。……甘い。俺のフィルターは、この店自慢の秘伝のタレよりも濃厚な不信感でコーティングされている)


すると、向かいの席の灰原が、トングを握りながらおどおどと口を開いた。


「あの、孤崎くん……さっきは、庇ってくれてありがとう。お礼に、私が焼くね」


彼女は丁寧に肉を裏返し、俺の皿に置いた。その動作は家庭的で、一見すると献身的だ。

 だが、俺は見逃さなかった。

 彼女が肉を置く直前、チラリと雫の反応を伺い、「私は孤崎くんを巡る競争に参加するつもりですよ」という宣戦布告の火花を散らしたことを。


(……灰原。お前、さっきまで泣いてたよな? なぜ肉を前にした途端、そんな百戦錬磨の女戦士みたいな目をするんだ)


「はっはっは! いいぞ、もっと争え! 混沌カオスこそが生徒会の本質だ!」

 会長がジョッキのコーラを煽りながら笑う。


期待は裏切りの前兆。

 親睦は対立の準備。

 打ち上げという名のこの宴は、俺にとって、三人の女たちの「化かし合い」を特等席で見せられる地獄のショーケースに過ぎなかった。


ふと、雫が耳元で囁いた。

「……ねえ、透くん。明日、私の家で反省文の『本当の裁き方』、教えてあげようか?」


その声は、焼肉の焼ける音にかき消されそうなほど小さかったが、俺の耳の奥まで確実に、鋭い楔となって打ち込まれた。


「……お断りだ」


俺は冷めたウーロン茶を一気に飲み干した。

 加速する不信。止まらない肉欲。そして制御不能な生徒会長。

 

 高校生活、わずか十日目。

 俺の不信感メーターは、もはや一周回って、「明日もこの騒がしい絶望が続くのか」という、妙に落ち着いた諦観へと到達しようとしていた。


「……なんなんだよ、この打ち上げ……」


煙の向こうで、雫が妖しく微笑んだ。

 札幌の夜は、まだ始まったばかりだった。

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