初恋のひと
運命というのは衝撃と共に訪れるものだと、かつて君は言った。
「このっ、不埒者おおおおおお!!」
「えっ、なにガボバッ――!?」
それが事実なら、あの時点できっと私たちは運命だったのだろう。
あまりの衝撃に、少し意識が遠くへ飛んでしまうくらいの。
「あれ……? あれれっ!? 子ども!? うっそぉぉおおお!!」
焦る君の声を聞きながら、あれ以上の衝撃的な出会いなど今後訪れることがないのだと、その時の私はまだ知る由もなかった――。
「いたっ」
「ごごご、ごめんなさい……」
「いや……もういいよ……」
自身の魔力で創り出した氷を、露天で買った古布に包んで顔を冷やすために持っていた少女が、低姿勢でひたすらに謝り続けていた。
自らよりも少しだけ幼い、可愛い少女が地面に頭を擦りつける勢いで謝まっているのを、通行人がひそひそと通り過ぎざまに見ているのに気付いて、少女の謝罪を止めるための許しと共に思わずため息が漏れた。
「でもっ、私の勘違いのせいでこんなに酷く顔を腫らしたのに……」
少女が青褪めた顔をしているのは、単純に話し合いの前に突然思いっきり顔を殴って、見るも無残なぼこぼこに顔を腫らしてくれた所業についてだろう。
殴られたことに関して思うところが無いわけではなかったが、傍から見れば殴られて良い理由はあったので、そこまで気にしていなかった。
「――勘違いじゃないよ」
「え?」
そう、勘違いするような場面ではあったが決して勘違いではない。
「君がどう思って殴ったかは見当がつくけど、勘違いじゃない」
「……はあ?」
青褪めた顔は引っ込めたが、少女は途端に胡乱気な顔でこちらを睨んだ。
まだ幼いのにどこか冷たい印象を与える顔だなと、この時は暢気にそんなことを考えていた。
「じゃあ何? 布切れ一枚の女性を道端に捨て置こうとしたってこと?」
「そうだね。しかもあの女が初めてじゃない」
「さいってー!」
「ごふっ……」
日常茶飯事の出来事だったし、まさか全く関係ない、見た目がかなりか弱そうな少女から再び重い拳で殴られるとは思わなかったから受け身が間に合わなかった。
……さすがに冷やしている最中の顔ではなく、腹に何発かだったが。
「……どうしてそんな最低なことしてるの」
何発か殴ってスッキリしたのか、改めて横に座って頬杖をついた少女がやっぱり胡乱気な顔でいかにも適当に尋ねてきた。
普段であれば受けたことのない扱いに、少々面食らってしまった。
「――どうしてかな。……僕もよく、分からないんだ」
少し次に出すための言葉には詰まったが、……気を取り直そうと、いつもの流れを取り戻すための努力をした。
しかし、どうにか気のせいだと誤魔化すように出したいつもの言葉に続くはずだった流れは、続く前にばっさり彼女に切られてしまったが。
「あ、これ長くなるやつ? 手短にお願いね」
「――――」
こう言えば相手がこう返す、という流れが全くもって通用しないだなんて想像もつかなかったからか、彼女に続けるはずだった言葉はすぐに空回ってどこかへ消えてしまった。
まだ幼いくせに黙っていれば落ち着いた独特の雰囲気だったせいか、それともその可憐な容姿とはあまりに逆の言動で遠慮なく振る舞う彼女だったせいなのか。
気付けば、言われるままにいつもの流れをすっ飛ばしてしまっていた。
「……。僕は僕だけの愛を探してるんだ」
「へえ」
「「…………」」
手短にと急かして聞いておいて、ちっとも興味ありませんという顔で髪を弄り出した時には、さすがに口が引きつった。
だから彼女のあんまりな態度のせいで何か意地になっていたのか、私は黙って彼女の顔を訴えるようにじとっと無言で凝視し、見続けた。
「……だからって、現実でおねしょたはどうかと思うけど」
「おねしょた?」
「普通の人はしない、禁断の関係ってこと」
はあ、と無言で訴えるこちらの視線に耐えかねて、諦めたように言葉を絞り出すように発した彼女の単語の意味が理解出来なくて質問した。
……どうやら一種の男女関係を表現する言葉らしいが、どうにも聞いたことが無い言葉、概念、常識だった。
――とても不思議に思った。
彼女はどこか、今まで会ってきた女性の誰とも違うな、と。
「禁断なのか……? 男女関係で年の差が離れていることなんて、どこでもよくあることだろう」
「中世ファンタジーまじファック」
「ふぁ……? なんて?」
「ううん。なんでもないの」
女性と話すときはいつもどこかでそういう雰囲気を出されてしまい、その度に嫌悪するような性質だったからか、どこまでも色事の含みの無い、純粋で気楽な彼女との会話は思っていた以上に楽しく感じていた。
だからこの時にはもう、ちょくちょく挟まれる彼女の謎の言葉に関しては、もうあまり気にしていなかった。
「それはどういう意味――」
「これはこういうもので――」
やがてどうしてか、いつの間にやらなんとかこのまま彼女との楽しい会話を続けたくて、彼女の話をよく聞いてあげていた。
こうすることで、女性は何故か気分が良くなってなんでもかんでも話してくれるようになるという経験からだった。
「実はそうすることで――」
案の定、嬉しそうにこちらが知らないと言った謎知識を得意げに語る彼女は、どこまでも純粋で楽し気な会話をし続けてくれた。
そして、そうしているうちに彼女も気分がやっと変わってくれたのか、――私もいつの間にか会話が楽しくて忘れていた、こちらの適当だったはずの話にもようやく乗って来てくれて、――わざわざ逸れ始めた話を戻してまで言葉を続けてくれた。
「それで、その愛とやらは見つかりそうなの?」
――本音を言えば、本気で愛とやらを探していたわけではない。
ただあまりに薄っぺらによく耳にしたその言葉に、それを望みどおりにほのめかせば勝手に勘違いして、それであっさり捨てられたら裏切りだなんだと身勝手に騒ぐ憐れな女性たちの姿に。
――何とも思ってなくとも何度でも平気で嘘で言えて、それでも勝手に勘違いさせてしまう程度の都合の良い単なる言葉が、彼女たちの信じるそれが一体どれほどのものなのかと気になっていたのは事実だった。
だからそれで彼女に愛を探してるなんて言ってしまったのは、女性を口説く時のいつもの軽い常套句だったからで、それしか咄嗟に口に出せなかったからでもあった。
他とは違う雰囲気の彼女との会話をなんとなくこのまま続けてみたくて、思いついてすぐ適当に言っただけのつもりだったのだ。
だから、――。
「分からない……でも、まだだと思うんだ」
いつも通りそれらしい言葉で、そう口にすることしか出来なかった。
そうしたら、
「でしょうね! こんな探し方してたらいつまで経っても無理よ!」
「えっ……!」
「なんで驚いてるの!?」
この時はまだ分かっていなかったが、私は確かに彼女のことがとても気になり始めていたのだろう。
彼女の言葉に驚いてしまったのは、単純に彼女の反応が想定外だったからで、おそらく彼女が考えているような理由ではなかった。
冷たいな、と思っていた綺麗で透き通る目を可愛いまん丸にして、彼女はとても驚いた顔をしていた。
そのいかにも少女らしい表情に、最初の印象よりももっとずっと幼くて、意外と感情豊かな顔をするのだと思った。
「……君なら、僕がどうしたら見つけられるか分かる?」
――だからそれは、また咄嗟に出てしまったいつもの挨拶のような軽い口説き文句みたいな口癖だったが、いつもとは違った期待に満ちた言葉でもあった。
しまった、と思った時にはするするっと口から滑って出てしまって、もう戻せないものとなっていた。
気楽なはずの彼女との楽しい会話が、出した言葉のせいで途端に何かに穢されたように感じてしまったのは普段の行いのせいだったかもしれない。
やり直せるならやり直したかった。
……やり直したところで、もしかしたらまた同じ過ちを犯したかもしれないが。
他と違っていて、変わっている彼女の反応がこの後どうなることか、この時だけは異常に気になって気になって、変な汗を掻いた。
確かに最初は彼女もいつもの遊びの範疇で癖みたいに口説こうとしたが、だんだんと会話しているうちに、とっくにそのつもりでは無くなっていたはずだったのに。
――なんで急に、段階を全て飛ばしてしまうような、半ば本気の口説き文句なんて言ってしまったのか。
「――私だって知らないわよ、そんなこと」
「え……」
大いに混乱しつつも待った彼女の言葉は、いくつか想像していたどれでもなく、まるで感情を感じさせないようなとても冷たい声だった。
彼女が言葉を溢した時、――終わったと、本気で思った。
別に何かが始まったわけでもなかったのに、終わったと。
それくらい肝が冷えるような、恐ろしくも冷淡な声だったのだ。
「でも、少なくとも……」
遠くを見つめるようにして溢した彼女の言葉は、ここに在ってここに無いと感じるものだった。
触れたら、あっさり溶けて消えてしまいそうな――。
思わず彼女の存在を確かめようと動かした手は、彼女が急に立ち上がったことで触れられずに空振りとなってしまった。
後姿のまま、先程の姿はまるで幻だったかのように明るい声で彼女は言葉を続けた。
「――もし、私があなたの愛だったなら。女性をあんな手酷く扱うような男に愛をあげようとは全く思わないわね!」
ぐさ、と何かが胸に突き刺さった気がした。
「――それに私、もうとっくの昔に決めてるの! いつか心の底から唯一を愛する時がくるのなら、私の名前を一番愛おしく呼んでくれる男にするってね!」
「そう、か……」
輝くような笑顔で告げた彼女を見て、何故か心がざわついた。
そしてふと、彼女の名前を知らないことに気付いた。
「……そういえば、君の名前は?」
「話聞いてた? この流れで軽々しくあなたみたいな最低な人に、名前を教えるわけがないでしょう!」
「ごはっ……」
「あっ!?」
流れるように再び腹に一発食らったのは、さすがに理不尽だと思った。
ただ彼女の名前が知りたかっただけで、殴られるようなことをしたのだろうか、と。
「どうして……?」
「どうしても何も、――すっ、好きな人にだけ呼ばれたいからに決まってるでしょ! 察しなさいよ、この鈍感男!」
好きな人――。
桃色に色付く可愛らしい頬と、鼻息荒くまくしたてる彼女のむすっとした顔に、その言葉に、呆気に取られた。
「そう……うぐ!?」
「ご、ごめんなさいっ、つい!」
そして何故か再び、理不尽な一発を腹にもろに食らった。
そろそろ骨や内臓の状態は大丈夫だろうか……。
避けようと思えば避けられたはずだが、どうにも呆気に取られていたせいなのか身体が動かなかったため、上手く避けることが出来なかった。
殴られた腹を摩りながら彼女の話を聞いていて、――どうしても気になったことがあったので、悟られないようにさらっと聞く。
「そもそも一番なんて、どうやって判断するの……」
「そんなの簡単ね!」
人を何度も理不尽に殴っておいて、何事も無かったかのようにしれっとまだ真っ平らで成長途上の胸を自慢げに張るようにして、彼女は高らかに宣った。
「――その時になれば運命だって、ビビッと来るから!」
「びびっと……?」
びびっというのが何かの表現なのは、彼女の今までの謎言葉のおかげでなんとなく分かったが、いまいち理解までは出来なかった。
良く分かっていないのが伝わったのか、すぐさま彼女がびびっとについて、いわゆる感覚的なものだと説明してくれたが……。
……正直、そんな不確実なものに委ねるしかない運命や愛とやらには不安しか覚えなかった。
だってそんなの、その時の気分次第と言ってるようなものだったから。
「それは運命って言って良いの……?」
「良いの! 運命は衝撃と共に訪れるものだから! その人と出会うだけじゃ分からなくても、長く一緒に居れば分かるかもしれない。長く一緒に居ただけでは分からなくても、いつか死ぬときに分かるのかもしれない」
死ぬまで運命や愛かどうか分からないなんて、――。
やっぱりなんて不確実な代物なんだろうと、この時は考えていた。
「――でも、そんなの死ぬまで待ってられないでしょう?」
いたずら顔で急に転換した話に、思わず目をぱちぱちと瞬く。
死ぬまでは分からないと言っておきながら、同時に待ってはいられないと語る彼女の言葉の意味が咄嗟に理解出来なくて、頭が混乱したのだ。
「だから確実に分かる、別の方法で考えるの」
「確実に分かる、別の方法……?」
「そう! 別の方法!」
不確実ではない方法を語っておいて、確実な方法があると言う。
ならば先にそれを言ってくれれば、と考えた思考を遮るように彼女は諳んじる様に楽しく言葉を紡いだ。
「――その人と出会った時の、他の人との胸の高鳴りの違いを比べるの。その人に名を呼ばれた時の、他の人との鼓動の速さの違いを比べるの」
「胸の高鳴り……鼓動の速さ……」
そっと、彼女と出会ってからずっと感じていた妙な胸騒ぎに気付いた。
他の異性と惰性や暇つぶしの遊びで会ってる時とはまるで違う、ずっと先程から彼女だけに感じている妙な高鳴りと鼓動の正体。
これが、まさかそうなのだろうか――?
「人の鼓動が一生のうちに脈打つ回数って、大体決まってるらしいの」
一転して、真剣な眼差しで彼女は言葉を紡ぐ。
「だからきっと出会えば必ず逃すまいと、警告のように自然と心は高鳴って、鼓動はどこまでも速まってしまうはずなの」
「自然と、――」
もしも今、彼女の言葉通りなのだと認めたら、――不確実な運命や愛というものを認めることになるのだろうか……。
彼女の言葉は信憑性の無いもののはずだったのに、あまりに楽しそうに、けれど真剣な顔でそんなことを言うものだから思わず信じたくなってしまって――。
「まあ時々、命の危険で高鳴ってただけで運命だなんだと勘違いする人も多いけど」
「…………」
「吊り橋効果って言うの、そういうの」
そうして何故か、彼女の言葉でその期待は台無しにされた。
付け足すように、遠回しにも分かりやすいくらいに怪我人がどうだとか、攻撃を受けた時の危機感がどうだとか、いかにも同じ状況の人がいますと言わんばかりにぺらぺらと……最初に口説き落そうと適当なことを言って弄ぼうとしていたのは、こちらだったはずなのに。
私の言動の何かへの意趣返しのつもりなのか、楽しんでる顔まんまで吊り橋効果とやらの解説をする彼女に、勘違いだと良いように弄ばれたような心地だったのに、――存外悪くない、と思ってしまったのはどうしてだったのか。
「まあその方法も無理なら次ね、次」
「――次!?」
まだあるのか――!?
あっけらかんと楽しそうな顔から切り替えて、他にも方法はあると簡単に言う彼女に心底驚いた。
そんなに方法があったなら、私ならそのうちのひとつくらいはとっくに知っていても良さそうなものなのに、と。
「といっても、少し現実的でつまらない方法だけど」
「現実的で、つまらない……」
また一転して、自嘲するような少女らしからぬ冷めた顔を見せた彼女の言葉の真意が、分からなかった。
数々の女性を弄んできた豊富と自負するような経験がありながら彼女に関してだけは、どれが本物の彼女の心なのか、それとも全てが本物の彼女の心だったのかと何も判断出来ないのは初めてのことだった。
だからか、何かを言いたくとも彼女の言葉を繰り返すくらいしか他に言葉は出てこなかったのかもしれない。
特に日ごろから女をその気にさせるだけさせて、こちらに靡いた途端に何もせずに捨てるという遊び半分の行為で弄んできた分際で、何かを彼女に言えた立場ではなかったというのもあったが……。
さすがに自分よりも幼なそうな年頃の少女から、恋愛に関して現実的だとかつまらないだとかいう言葉を聞くことになるとは思っていなかったという想定外だったからなのかもしれない。
――女というのは皆、物語のような非現実的な恋愛が好きではなかったのか?
「運命だと思ったその人以外と生きた場合の、自分の未来を想像するの」
「未来?」
咄嗟に、言われた通りに彼女以外との先を想像しようとして――。
「それが自分にとって幸せな未来になるのなら、まあ運命と結ばれるなんてちっぽけな夢はとっとと忘れて良いと思うの」
「忘れ、……は?」
想像は中断された。いや、想像する前に思考を止められたのだ――。
それはつまり、いつか運命だと思う人が居ても無視するってことか!?
運命の相手が分かってながら、あえて他を選ぶってことなのか……!?
一番かどうかを判断するための方法を話していたはずなのに、何故かその一番を選ばない選択肢についての話にいつの間にかすり替わっている。
彼女の言葉の裏を返せば、その人でなければ幸せにはなれないと感じなければ運命の人ではない、ということが言いたいのだろうが――。
「言ってることがめちゃくちゃだ……」
「人生なんてそんなもんよ。誰かにとっては命よりも大事な運命の愛かもしれない。でも、他の誰かにとっては運命の愛よりも大事な命かもしれないでしょ」
彼女の淡々とした口調が、胸を締め付けてくるようで――。
「そんな、極端な……」
それでも達観したような顔で何でもない事のように言った彼女に、それは違うと否定することは出来なかった。
たとえまだこの先の一生が長くとも、既にそれを否定するような生き方はしてきていなかったから。
数々の女性が語る愛を、路傍の石も同然に切り捨ててきた。
愛を語っておきながら、執拗に愛を求めてくる姿を蔑んだ。
ここでそれは違うと彼女の考えを必死になって否定したかったなら、そうした非道な振る舞いをして生きるべきではなかった。
だが、もう、それは変えられない過去で――。
「――だからいつか、本気で心の底から唯一を愛する時がくるのなら、私の名前を一番愛おしく呼んでくれる男にするの」
「――――」
一番、愛おしく――。
「たとえ最後まで結ばれなくったって、心は自由なままでしょ?」
心は、自由――。
「たとえどんなにその相手が最低最悪の極悪な男だったとしても。そこに本気の愛を少しでも感じ取れたなら、――結ばれても結ばれなくても私はその愛だけで変わらずにずっと愛し返してあげて、……そうすれば死ぬまでずっと、お互いだけをひたむきに想ってずっと、――そのまま最期まで幸せなままで死ねると思うの」
「――――」
――羨ましい、と思ってしまったのは何故だったのか。
それほどの愛を躊躇することなく返せるという彼女の覚悟か、それともそんな彼女に愛されるだろうまだ見ぬ相手に対しての嫉妬なのか。
彼女を見続けていると、なんだか思考がだんだんぼんやりとしていって、まるで判然としなかった。
だがなるほど、命と比べられるくらいにはとてつもなく重い愛。
どうりで彼女が他とは違うと感じたのだと、理解した。
似たようなことを言ったうんざりするほどにしつこい女も居るには居たが、それらはどこまでも己と周囲を騙そうとするような、表面的に取り繕っただけの自己中心的な自己陶酔で酔ってるだけの薄っぺらな欺瞞でしかなかった。
だが彼女の場合はそれらとは明らかに本質が違っていて、もっとずっとひたすらにただただ唯一だけに執着して渇望するような、終わりの無い深くて暗い底なしの海のようでもあるのに、かと思えば見渡せば果てのどこまでも広がるような寛容さで、気ままに何かに囚われることもなく執着の欠片がどこにも見当たらないような揺蕩うだけの明るい大空が混ざったような、そんな異質なものだった。
――彼女の唯一になるだろう男は、一体どんな人間なのだろうか。
ふと、そんな考えが浮かんでしまったのは――。
「――そもそも! あなたの探す愛って、単なる男女愛だったの?」
お互いの沈黙で変になった空気を変えるように、彼女が詰め寄った。
己の考えに没頭していたために、突然の彼女の声には動揺し油断した。
「男女愛……? 愛に種類があるのか……?」
そのせいで、ついぽろっと思ったことがそのまま口に出てしまう。
特に、彼女の本気の愛について聞いた直後だったから、余計に。
「はあああ!? 本気で言ってるのッ!?」
「く、くるしい……」
華奢な手で胸倉を掴んで持ち上げられ、首を絞められながら彼女の説教を聞かされる。
説教といっても、いくつか彼女の考える愛の種類について講釈をされただけだったが。
「――あ、ごめんなさい! なんだか、あなたの腫れてるカッコ悪い顔で、いかにもな惚けて済ました態度をされるとついつい腹が立ってしまって!」
「僕のせいじゃないじゃないか……」
「だから謝ってるでしょ!」
やっと死にそうな顔に気付いてくれた彼女が、手をぱっと離して謝罪してくれた。
……といっても、謝罪にしては余計な言葉が続いていたが。
げほげほと咽る背中を優しく撫でながら、どこか気まずそうに彼女は手を動かし続けた。
やがてこちらが落ち着いたころに、彼女も先程までの勢いが治まったみたいで、ぽつりと言葉を溢した。
「……愛の形なんて、この世には数えきれないほど存在するものなの」
「そんなにあるの?」
「当たり前でしょ! 人の数より多いかもしれないくらいよ!」
「そんなにあるのか……」
キッ! とさきほどよりは勢いのない目で睨まれた。
「だから、まあ……あなたの求めてる本当の愛が何か、どれか分からなくなる気持ちは少しだけ理解出来るけど」
「少しだけなの?」
また怒らせて睨まれるかと思っていたが、予想に反して彼女は鼻で笑って明後日の方向へと視線を向けた。
「言ったでしょ? 私はもう、私の愛を決めてるの」
「それは、さっき言ってた男女愛ってやつ……?」
「はああああ……あなたって、思ってたよりもひどく子どもなのね」
呆れたように、感心するように、けれど思ったよりもどこか優しいような口調で彼女はこちらを茶化すように笑った。
「――将来の夢があるの」
将来の夢だと穏やかに微笑んで言っておきながら、彼女の言葉はどこか精彩を欠いているようだと感じた。
「素敵な夫と結婚して、たくさんの子どもに恵まれて、最期には家族全員に囲まれて、――惜しまれるように夫よりも先に幸せな死を迎えるの」
「……夫よりも先に?」
「そう。夫よりも先に。だって逆に見送るなんて絶対嫌なんだもん」
「嫌って……そんな理由で……」
普通は、だなんて言えた義理ではなかったが、彼女の語るその普通らしいような夢は、普通なようでどこか空虚に感じるもので――。
「――死ぬときは、幸せなまま死にたい」
「幸せなまま……」
それは彼女の心の底から湧いて出た純粋な本心だ、ということにはすぐに気が付いた。
だがどうして、どうしてまだうら若き少女のうちからそんな最期への夢を持つかは分からなかったから、――なんだか堪らなくなってしまって落ち着かない。
「だから家族に囲まれてっていうのも、幸せというひとつの形。もしかしたらいつか別の幸せを見つけるかもしれないけど、今はまだ見つけてないもの。とりあえず幸せの第一歩として、理想的だと思える最期を考えたの」
「君はまだ、子どもじゃないか……」
絞り出した言葉はどこまでもありきたりなもので、――普段ならばもっと、上手いこと言って垣間見えた彼女の傷を慰めることも出来たのかもしれない。
……だが、そんな適当に重ねてきた軽いだけで少し上手いだけの言葉を彼女に向けることは、何故かしたくなかった。
「あなたに言われたくない……でも、愛を探してるなんて大真面目に言ってるあなたでも流石に分かるでしょ? それがひとつの愛の形だって」
「――――」
言葉に詰まったのは、大真面目ではなく不真面目から出た言葉だったからで、軽い遊びのつもりで適当に言ってしまった言葉を彼女がかなり真剣に考えてくれていたのだと分かったからだった。
だから逃げるように目を地面へと逸らして、普段ならば言わないような答えをどくどくとうるさく騒ぐ心を紛らわすようにぶすっとした小さな呟きで彼女へしてしまったのは、確かに彼女の言う通りまだ子どもだったからなのかもしれない。
「……どうかな」
「呆れた! あなたって子どもな上にお馬鹿さんなのね!」
その言いぐさには思わずムッとしてしまったが、言い返すことはしなかった。
何故か彼女にそう言われると、そうなのかもしれないと思えたから。
「ひとりは寂しくて怖いの。すごくすごくすーっごくね!」
「寂しくて怖い?」
寂しい、怖いと言うわりには心底瞳を輝かせて楽しそうに言う。
言葉とは裏腹な逆だろうと言いたくなる表情や声でずっと彼女との会話を続けていて、もう頭は混乱してばかりだった。
「そう。だから誰もが怖くて寂しくならないように、自分だけの愛を探し求めるのよ、――あなたみたいにね」
「――――」
適当に言った言葉。そのはずだった。
「世の中の見知らぬ多くの人は、自分だけの家族を愛して愛されて、死ぬときには独り寂しくないように見送ってくれるようにって相手を心から愛するの」
「――――」
こちらの心の内の全てを暴くように、彼女の言葉が奥まで響く。
「だけど実際にそうやって家族を愛して愛されるには、まず一番に生涯の伴侶を愛せないとそんな理想の幸せな家族なんて到底出来っこないのだけど」
「――――」
まるで実際に見てきたような言葉の羅列は、じんわりと沁みて――。
「つまり理想と現実とが真正面から向き合って、いつしか向き合うだけに飽き足らずお互いに激しく戦って削り合って、――それでも微かに残ったものがあれば、それが愛なのかなって」
理想と、現実。
ぼんやりと、思わず今までの己の所業を振り返っていた。
――もしかして、彼女の言う通り実は無意識に探していたというのだろうか。
幾人もの女性を意図的にその気にさせておいて、嫌悪感で手酷くして捨てていたのは。
あの家に帰りたくなくて、彷徨う内に軽薄に遊んでいる時が一番気楽だと感じたのは。
ただの暇つぶしの軽い遊びのつもりでしていた、酷く自分勝手で残忍な憂さ晴らしはそこまで深く考えてしていたことではなかったはずなのに。
いつから――。
「僕に理想なんてない……」
そもそも、上辺だけで良心の欠片もなく、酷いことを省みることもなく厭うこともなく、むしろ積極的に繰り返してきたような最低な男にそんなとても純粋で綺麗で高尚なものがあっていいものなのだろうか――。
そうして私がさらに深い思考に囚われそうになるのを救いあげるように、彼女がなんてことない当たり前のことなのだと断言するように言葉を紡いだ。
「――無いはずないでしょう」
呆れたように、彼女は首を横に振ってお手上げの仕草をした。
むしろ何故無いと思うのか、と彼女に責められたように感じた。
「たとえ無かったと思っていても、原型の夢があるから愛を探し求めて最低なことしてたんでしょうが」
「そうなの……?」
「まさかの無自覚!?」
彼女の「やっぱさいってー!」と、何故か腹をよじるほどかと思うほどの笑い声が辺り一帯に響いた。
……笑う場面だっただろうか、とまたしても面食らった。
普通であれば、彼女の笑いには腹が立つものなのかもしれない。
だが、笑われたはずなのに彼女ならば不思議と嫌な感じはしなかった。
――その理由を私はまだ……掴みかねていた。
……常識として幾度も酷いことをしているという認識は、あった。
だからそれがどうしたと、非道な振る舞いを繰り返すことの意味を気にすることは今までまるでなかった。
この最低だと言われるような今までの非道行為が、だからこそ夢や理想という対照的で綺麗な言葉とはどうしても結び付かなくて、――彼女が笑ってしまうくらいには、よほど惚けた顔をしていたのだろう。
幾らか笑ってすっきりした後で、彼女は笑顔で。
「ここで自覚出来たなら、後は私みたいに突き詰めるだけね。そうすればいずれ、自分だけの夢や理想は見つかるはずだから」
「――――」
彼女の話の区切りにふと、どうしてこんな話の流れになってしまったのだろうかと分からなくなっていたが、そんな些細なことは彼女と会話をしているだけで別にもうどうでもいいかとも思えた。
だんだんと彼女が話をまとめようとして終わりに近づいていくと分かる居心地の良い時間が、とても惜しくなっていたから。
彼女もそう思ってくれていたら良い、と願っていた。
「まあでも、夢と理想というのはついでね。本当は――」
「本当は?」
だからこそ気付かれないように出来る限り相槌を打って会話を保たせようと頑張ったが、何にでも限界というものがあるわけで。
話してる途中で急に言葉を止めて顔色を変えた彼女に、ぎくりとした。
「……そういえば、なんでこんな話をあなたにしてるの」
「さあ?」
「さあって、……まあもういいけど」
惜しいと思って、もっとこの時間が続けば良いのにと必死になって会話を引き伸ばそうとしてしまったのが悪かったのか、ついに気付かれて焦って言葉が出てこない。
だから敏感になっていた感覚で彼女から終わりの空気を即座に感じ取った時、全身から血の気が引いた。
「そろそろ帰らなくっちゃ」
「どこへ」
咄嗟に去ろうとした彼女の腕を強く掴んで出たのは、ひどく幼稚で疑義を持たれるような言葉だけだった。
結構強く腕を掴まれているはずなのに、彼女は少し顔を顰めたくらいですぐに呆れた風な表情で私を見下ろして言った。
「何言ってるの? 今の家族のもとに決まってるでしょ!」
「なんで……」
このまま何事も無かったかのようにあっさりと行ってしまいそうな彼女の腕を掴んでひたすらに酷く焦るばかりで、出てくるのは彼女へ不躾に問うばかりの拙い言葉だけだった。
なんとか引き留めようと頭を巡らしているのに、彼女相手ではどんな言葉をもってしても引き留められるような気がしなくて、余計に焦燥感が募る。
「なんでって……なんか色々お察しなところだけど、あなたって不器用で朴念仁で鈍感で最低で、まるでなってないのね」
「そんなに言われるほど?」
「そう、言われるほどね!」
少し続いた会話に嬉しくなって拘束が緩んだのか、その隙にさささっと目を見張るほどの素早さで彼女が距離を取って「じゃあね」とすぐさま踵を返した時には手遅れ寸前で。
逃してしまった熱にしばし唖然としたが、人混みに消えようとした彼女を急いで追いかけて何とか引き戻せたのは間一髪のところだった。
「ねえ! 本当はって、何て言いかけたの?」
後ろから掴んでいたために、彼女の表情はまるで分らなかった。
けれど、すぐに振り払って逃げ去ることはなくて――。
「――愛って誰にとっても凄く心地良いものだから。独り占めしたいくらいに、どうしようもなく欲しくなる本能の欲求なの」
「本能……欲求……」
さきほどの会話の続きで引き留めようとしただけなのに、何故か自分が今している行動の説明をされているようでもあって、つい掴んだ彼女の腕をさらに強く握ってしまう。
「愛する相手と愛し合うことが出来たなら、その本能の欲求が幸せに満ちてとても心地良いに決まってるでしょ。だから型に嵌めた一般的な理想を語っても、結局その通りになる人なんてあんまりいないの。言ったでしょ。愛の種類は数えきれないくらいにあるって」
言いながら呆れた顔で振り返ったはずの彼女は、目が合って早々に驚いたように掴まれた腕へ勢いよく視線を逸らした。
「――だからもしも。あなただけの愛を本気で見つけたいのなら、それはきっと本能から欲しいと思ったときなんじゃない? って言いたかったの……」
最後はどこかムスッとした恥ずかしそうな顔で尻すぼみに小さく言い終えた彼女の表情が、――あまりに可愛くて。
……ああ、そうだったのかと。何かがカチリと、やっと当て嵌まったかのようなスッキリとした錯覚を得た。
この不可解な衝動の原因は、全て彼女自身が教えてくれた通りのもので。
だからどうしようもなく――彼女が欲しいのか、と気付いてしまった。
「……どうしたら、本能から欲しいって分かるの」
「――もう、いい加減にして! 帰るって言ってるのにぃ……ッ!」
真っ赤に照れた顔で恥ずかしいこと言わされた、と嘆いてぶんぶん掴んだ腕を振り回した彼女に、心の奥底から確かに湧き出る、今までに得たことのない新鮮な感情が確かに存在していた。
クスクス笑っていると涙目の凄い怖い顔で睨まれて、それがまた今までに女性に対して感じた事が無いくらいにどうしようもなく可愛く感じてしまって――。
「うー。しつこい!」
「それは、ごめん。でも知りたいんだ……」
いつの間にか包み込むように握っていた彼女の手を、口元で口づけ寸前だと見せびらかすようにして、意識的な上目遣いで彼女へ問うた。
そうしたら「うっ、まだ子どもの癖に色気が……」と小さく呻いた彼女から、ぼんっとでも聞こえてきそうなほどの真っ赤な熱を貰ってしまって、……彼女以外の他の誰かであればそうはならなかったはずなのに、思わずこちらも熱を譲り受けたようにどくどくと鼓動が早くなった。
彼女から愛される唯一が羨ましいと思ったのは、彼女を欲しいと本能が叫んでいたからだった。
本能が逃すなと叫ぶのは、彼女が約束する愛にどうしようもなく惹かれてしまったからだった。
だから彼女の愛が、約束されている愛が堪らなく欲しくて欲しくて――。
「――知るか! ボケ!」
急激に迫り過ぎたせいなのか、私が手を離さないことにとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのか、真っ赤な可愛い顔で罵りながら彼女が手を取り戻そうと奮闘し始めた。
だかしかし、思いのほか手をしっかり掴まれていて動かせないと分かったのか、それは何度も失敗する。
このまま逃すものか――。
「ぅぐッ!?」
そうして逃がさないように彼女を拘束出来たことに満足して、ふわふわした初めての熱に浮かされ、解けないだろうと余裕の表情で油断していたところをまさかの足技で攻撃されて呻くこととなるとは思っていなかった。
救いだったのは、距離が近かったおかげか威力がそれほどではなかったことだったのかもしれない。
「私だってまだ見つけてないのに、そんなの分かるわけないでしょ!」
げしげしと足を踏みつけてこようとするのを、行動は可愛くても威力が可愛くない攻撃を何度も食らってたまるかと、今度はなんとか必死に躱そうとして暫く無言の攻防が続いた。
見た目を裏切るような高い攻撃力のせいで薄々感じてはいたが、彼女はどうにも女性にしては体力が凄まじいようで、無言の攻防はなかなか終わらなかったが。
「はあ、はあ、はあ……。分からないなら、もうとりあえず他の人にも聞いて参考にしたらいいんじゃない?」
「参考に……?」
暫く続いた攻防で体力も尽きかけてようやく諦めたのか、荒い呼吸とげっそりとした顔でやけくそのように言われる。
今はもう彼女が言っていた通りだと、心の奥底の本能から彼女が欲しいのだと気付いていて、それを分かったからこそこうも必死にひたすら意識的に彼女を口説き続けているというのに参考、と言われても――。
「――僕、セドリックって言うんだ」
「は? 何、唐突に……」
どうしようかと考えた時に脳裏を過ぎったのは、彼女の言葉だった。
――本気で心の底から唯一を愛する時がくるのなら、私の名前を一番愛おしく呼んでくれる男にするの。
「君がさっき、言っていたから」
彼女が欲しいのだと、これがまだ拙くとも愛なのかもしれないと思って何とか口説こうとはしていたが、それで焦って身勝手に行動して、――そういえばまだ、彼女の気持ちを考えていなかったことに思い至った。
そして同時に彼女自身が言っていた、愛する相手と愛し合うことが出来たなら、本能の欲求が幸せに満ちてとても心地良いというのが実際にどんなものなのかがとてつもなく知りたくなったのだ。
とはいえ、今まで散々彼女が最低だと罵るような非道な振る舞いしかしてこなかったことは洗いざらい話していたせいか、既に彼女に嫌われていてもおかしくはないだろうとは考えていた。
……少し前の軽薄で浅はかな自分をぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
ここでまさかまだまだ発見したばかりの拙い愛の分際で、すでに重い愛を捧げる準備の整っている彼女の名前を、彼女が求めるほどの本気の愛を籠めて呼べるだろう勇気や自信はまるでもっていなくて――。
……万が一にも、そのせいでこの先の一生を選ばれないという被害妄想のような想像をしてしまって怖かったというのもある。
それでも今はせめて彼女から名前を呼ばれてみたい、と厚かましくも願ってしまったのが本音なのかもしれないが。
「……あ、あーなるほどね。分かった分かった。了解!」
何のことだとしばらく固まって考え、すぐに自分の愛は決めてる宣言の内容についてだと思い至った彼女は、呆れたような顔でこちらを見てしょうがないやつだ、と言わんばかりに笑った。
そうして軽い調子であっさり頷いた彼女は、一度呼吸をしっかりと整えてから――思いの外真剣な顔で、こちらの目を真っ直ぐに見据えて名前を呼んでくれた。
「――セドリック」
「――――ッ」
――その、瞬間。
まるで噂に聞いた死ぬ前の走馬灯かのように、数々の光景が脳裏をとんでもない速度で駆け抜けては過ぎ去って、どこかへ呑み込まれて消えて行った。
とんでもない速度で、あらゆる知らないはずのあり得ない光景が駆け抜けているはずなのに、どれもこれも幸せそうな顔の彼女と二人だけで過ごすような似た光景ばかりなせいだったからか、忘れられない跡として脳裏に焼き付いて消えなかった。
「これでいい? 全然違うと思うけど、少しは参考にはなった?」
「あ、ぁ……」
身長差のせいで下から覗き込むように確認してきた彼女の顔を、脳裏に灼けついてしまった光景と重ね合わせ、呆けたように混乱した情けない声で返した。
何が起こったのか、混乱した頭での理解は非常に困難だった。
だからか、無意識に彼女が教えてくれた、どこか分かりやすい表現の言葉が真っ先に思い浮かんでいた。
――ビビッときた、と。
「じゃ、あとは頑張ってね!」
「あ、――」
だが、――初めて訪れた衝撃に惚けていたとはいえ、まさかその間にするりと彼女が再び緩んだ拘束を抜け出し、あっさりと人混みへ消えてそのまま逃してしまうとは、人生で最大級の痛恨の失敗だった。
その後、方々を何年もかけて探し回ったが彼女の姿は影も形も見つからず、ついには嫌っていた家の権力を行使までして探したのに、どこにも見つからなかった。
彼女が高貴な出だろうことは、簡単に行使していた高度な魔法の知識や身体能力、訛りの無い綺麗な言葉遣いを含めて、あまりに詰めが甘くて会ってすぐに見抜いて分かっていたことだった。
それでも一応は隠すつもりで雰囲気も色彩もまるっきり変えて魔法で庶民に変装していたというのに、安易にも後は同じ年頃の少女を特権階級で探せばいいのだと妙な高を括っていた。
――だが、どこにも彼女は見つからなかった。
見つからないとなれば、彼女が居ない日々は前にも増してあまりに色褪せたもので、――彼女に関する色んなもしもを考えては、日に日に心が死んでいく感覚を覚えた。
だから彼女が最低だとはっきり批難していたのに、あれからずっとお飾りなだけの大量の愛人を囲い続けたのは、どこからかまたいつか彼女が鮮烈な衝撃と共に現れるかもと期待したからでもあった。
……だが、思ったよりも自由でいられる時間というのはあまりに短く。
今まで放置されていたのに、ある日久々に呼び出されて渋々向かえば。
――政略結婚が決まったと、淡々と告げられた。
本来であれば王家に嫁ぐ身の予定だった娘だが、隣国との諍いによって争っていたのが急遽外交の成果で婚姻同盟を結ぶこととなった為に、相手国から姫君を迎え入れるのだという。
隣国との戦線を維持する辺境の貴族たちとの結束を固める為、本来であればたとえ側妃となってでも今回嫁ぐことが産まれてから決まっていたはずだった辺境の出の有力貴族の娘は、せっかくの同盟なのに相手国を刺激してしまうからとあっさり婚姻予定を白紙に戻されたのだという。
だがさすがにそれでは、王家としては新たな不穏分子を抱えることになるからと、最も年回りの近い公爵家の嫡男に政略結婚のお鉢が回って来たらしい。
そんないかにもな報告書のような、命令書のような結婚を断るすべなどあるはずもなく――私は歯向かうことなく、慣れた薄っぺらな笑顔の仮面のままで娘との婚姻を唯々諾々と受け入れた。
これは命令だったから表面上は大人しく受け入れたが、内心では従うつもりは毛頭なかった。
下賜するように嫁いでくる気の毒な娘には悪いが、私の運命である彼女以外に触れるつもりは全く無かった。
そもそも彼女と出会う前も、そういう意味で女性に触れること自体が嫌悪の対象だったのだからあまり違いはないかもしれないが。
最初に、婚姻後は相手へ好きに愛人を作っていいとでも言えばこちらの評判に勝手に納得して何も言われないだろう。
そんな、彼女が聞けば最低と殴ってきそうなことを計画しながら、婚姻相手が王都でデビュタントを迎えるからと、あまりやる気もなく遅れてギリギリに顔を出した。
――驚いた。彼女だった。間違いない。
ちょうど、踊る相手をくるくるとすぐさま変えていく方式の踊りの最中だったから、慌てて輪に飛び込むことが出来たのは僥倖だった。
だんだんと近づく彼女に、まずは何を言おうかと無心で事故のようにわざと身体を擦り付けてこようとする女性たちを躱していた。
「「…………」」
そしてとうとう彼女の順番がやってきて抱き寄せたのに、そこから先は情けないことに、踊ってる最中に何かの会話が成立することは無かった。
というより、あまりに食い気味に顔を彼女へ寄せてしまったせいなのか、密着し過ぎて動きにくかったのか、彼女から足で攻撃を受けてそれどころではなかった。
……この感じ、やっぱり彼女だ!
後で思えば、非常識な距離間に緊張させてしまったのだと知ったが、あの時の私は何かと必死だったのだ。
そして彼女が最後まで何も言わずにデビュタントの規定時間通りに粛々と参加して去ってしまった時には唖然とした。
――忘れられている……?
……いや、会ったのが何年も前のあの時だけだったから。
しかもお互いに変装していた上に、当時とは体格も顔つきも雰囲気もそれぞれで変わっているのだから、それですぐに分からなかっただけなのかもしれない。
そんな風に自分に言い聞かせながら、動揺したまま迎えた婚姻相手との顔合わせでは、当初の予定通りに愛人云々を言及するつもりで臨んだ。
運命である彼女が見つかったのだから、尚更だった。
そうして、どんな手を使ってでも――と考えていた私は出鼻を挫かれた。
「はじめまして。私は――」
淡々と、可愛らしくも豊かだったはずの表情を微塵も見せずに、完璧な淑女そのものの一片の隙もない姿で挨拶をする彼女に頭が真っ白になった。
彼女の紡ぐ一線を引いた丁寧な言葉は、まるで静かな拒絶のようで。
「……はじめまして。あなたの夫になる、セドリック・クライモルテと言います」
「――はい。クライモルテ様。未熟で至らぬ娘ですがどうか、よろしくお願い致します」
そこでやめれば良かったものを、……私はこの時ずっと彼女との突然の邂逅によって動揺しており、その完全に忘れられているような他人行儀な態度に頭が真っ白になっていたものだから、思わず当初考えていた軽薄な言葉をぽろりと、そのまま彼女へ言ってしまったのだ。
――大失態だった。
唯一の救いは、彼女以外であれば絶対に嫌だからと拒否しようとした当初の触れ合いについての条件を、彼女との触れ合いならばとなんとかねじ込むことを忘れなかったことくらいのものだった。
頭が真っ白であっても、そこはなんとか無意識にでも言葉を絞り出せたというのもなんとも言えないような情けなさだったが。
私の失言に対してこの時に見せた彼女の顔は、後々を思い返してみても正直言えば一番に凄まじくて怖かったと思われる。
だが、同時にかつての彼女がちゃんと存在しているのが分かって、どうしようもない私は青褪めつつも歓喜に心が躍ったのだが。
そこからの情けない結婚生活に関しては、後から君のあけすけな日記を読んで振り返ってもなかなかに酷いものだったと思う。
君の心のままに書かれた日記は、君が去った後にどれほどの価値ある日々だったかを再度私へ思い知らせ、君への想いを募らせた。
君の手紙も含め、本棚をいくつも埋めるほどの大量の細やかな君の日記が遺されていたおかげで、少しづつ読み進めていくうちに私は卑怯なことにとても安心してしまった。
君は確かに幸せに逝けたのだと、愚かにも安心出来たのだ。
同時に、端々に私という心残りがあったのだと見つけて気付くたび、最期まで心配ってくれていた君を更に愛おしく想った。
たとえ愛されていなくともと、最低の男だとしてもと、なんとか君が幸せであるようにと、かつてこうすれば幸せだろうと君が教えてくれた全ての事柄を、覚えていた可能な限りに沿って叶えようとして、――せめて君に、幸せだったのだと思ってほしかった醜く自分勝手な心は君に全て報われ救われた。
君が最期を迎えるまでずっと君から逃げ続け、君の幸せの中にどうしても私を含めて考えられなかったのは……。
資格が無いと、君にハッキリとそう言われたわけでもないのに勝手にそう思い込んでいたからだったのだと認められた。
事あるごとに愛人たちのもとへ逃げていたのは、君の心と正面から真っすぐに向き合うのが怖かったからだと、今ならば分かる。
君に愛されていないことよりも、君にいつか他に本気で愛する人がいると言われてしまうことが何よりも恐ろしかったのだと。
臆病で情けない男だ……。
だから私は幾度も君が嫌うだろう最低な所業をやめようとしたことはあったが、同時にもしも、――もしも君に本気で愛する相手が見つかった時に邪魔に思われたくはなくて、私が選ばれなかったのだとしてもせめて君には嫌われたくなくて、……結果としては最悪な臆病さを発揮し、君が自由な心で居られるためにという免罪符を身勝手に君に与えるためだけの、君への逃げ道のつもりとしつつ実際には自分が逃げるための言い訳として愛人の件はそのままにしてしまった。
自分でもなんて矛盾した最低最悪な行為だという自覚はあったが、どうにもこの言い訳出来る逃げ道を捨てることだけは、君の最期になってまでも情けなくも決断出来なかった。
愛人たちとは何も無いと言ったところで、君に許されるはずもないと。
彼女と会って以降は女性へ手酷い扱いをしていないと言って、何様か。
全ては君を愛しているからこそしていたことだ、なんて――。
なんて言動に信用の無い愛なのだろうか。
全て彼女を想ってしていた本気であることは事実だったが、それで私を愛していなかったら彼女にとってだからどうしたということになってしまう。
いや、愛していたとしても受け入れてくれる女性は居ないだろうし、彼女も最低だと言っていた行為なのだから、むしろ嫌われている可能性のほうが高かった。
そんな愚かな私が彼女に愛されて、彼女が決めていた愛になっていたのだという考えなんてあるわけがなくて、――。
ただの情けない言い訳だ。結局私は……。
君の手紙が無ければ、私は君から愛されていたのだという確信を手に入れることは出来なかった。
君の日記が無ければ、私は君がどのように私を愛してくれていたのかを知ることは出来なかった。
――私は一度も、結婚前も結婚後も、書類でやっと判明した愛おしい君の名を、結局は君が去ってからもずっと、怯えて一度も呼べなかった情けない最低の男だというのに。
君はかつて私へ語ったように全てを有言実行したというのに。
私はこれほどの愛を貰っておきながら、たったの一言が君に言えなかった。
言えなかったのに、君は私の愛を先に見つけてくれて愛してくれた。
釣り合う自信の無い愛を、唯一無二の無償の愛で私へ返してくれた。
唯一無二の無償の愛で愛し返して、――私の愛を真実の愛なのだと証明してくれた。
君のことだから、こんな情けない男だと知っていて、だから笑うだけで許して見逃して、――愛してくれたのだろうか。
だから手紙も日記も、私が臆病にも逃げ続けて、そのせいで受け取りそびれた君の全ての愛をちゃんと得られるようにとわざわざ用意してくれたのだろうか。
こんな、どこまでも君に頼ってしまうような私はやはり、どこまでいっても性根が臆病で情けない最低の男なのだろうな。
……だが、そんな最低な男ではあるが、私にだってまだ先に去ってしまった君の為に出来ることはある。
――君と最期に交わした言葉を、約束を守ることだ。
といっても、私が情けなくも君の最期にも逃げ続けたせいで、直接的に言葉や約束を交わせたわけではなかったというのが今考えても酷い所業だが。
それでも君がわざわざ私の為に遺してくれたものがあれほどたくさんあれば、唯一二人だけが知る秘密と二人だけの確かな約束があれば、私には身に余るほど充分過分な報酬で――。
「――父さん。聞こえるか?」
近頃はもう億劫になった瞼の開閉は、起きている間はずっと虚空を見つめたまま開きっぱなしだった。
その視線を、寝台の横で跪く老齢に差し掛かった男へと向けた。
「みんな、来てるから」
その言葉に、顔はもう動かせないので目線だけで周囲を見回した。
「――まったく! このような時でも、なんですかその顔は!」
少し嗄れたような声で文句を言ったのは、美しい黒髪に白髪が流れる老女だった。
君がもっと年を取れば、彼女のようになっていただろうか。
「確かにそれには同意する。けれど静かに」
「……ふん!」
「お前ら……」
老女を諫めたのは同じ年頃の同じ黒髪で、分厚い眼鏡をした老齢の男だった。
呆れたように疲れたようなため息を溢した白金髪の老齢の男が、深く皺が刻まれた眉間を揉みほぐすようにして顔を覆った。
――ああ、そうだった。私は……。
「――もう、これ以上の生命維持は不可能みたい」
「そろそろ本当にキツイ。起きたのは奇跡だから」
両側から聞こえた声と共に、どこか感覚の遠くなっていた両手から何か暖かなものが流れ込み、全身が包まれているのを感じた。
……このおかげでまだ、意識が保たれているのか。
私が暢気にそんなことを考えていると、周囲から息を呑むような音が聞こえた。
さすがにもう終わりが近い、という事に関しては分かっていたことだろうに。
「ひいおじいさま、だいじょうぶ?」
ふと、寝台と同じような低い高さから幼く可愛らしい声が聞こえた。
目線を上にやっていたせいで気付かなかったが、よく見渡せば老齢な者よりも青年から子どもまでの若い者が多く寝台の外を囲っていることに気付いた。
「どうしてねてるの?」
「こら……!」
親と思われるまだまだ年若いだろう夫婦が慌てて小さな子どもの疑問を諫めようと小声で静かにするように言い含めていた。
……何故かは分からないが、私はその問いに無性に答えたくなった。
「――これから妻に、会いに行くんだ」
不思議と、もう出るはずがないと思っていた声がハッキリと出せた。
だが、それでもう尽きた声は完全に出なくなってしまったようで――。
「つまってなあに?」
「君の、ひい、おばあさまだ……」
不自然な区切れと共に、白金髪の――長男が子どもの疑問に答えた。
「――心底呆れますわ! お父様ったら!」
先程注意されたばかりなのに、それを忘れたかのように少し震えるような大声を上げたのは、長女だった。
「馬鹿は死んでも治らないって言うけど……父上は大馬鹿者だったか」
呆れている風に、だんだん小さくなる声で言うのは次男だった。
「ママにいっぱい、よろしくね」
「楽しい話、先にしておいて!」
転じて明るい声で言ったのは、覆いかぶさるように視界に無理やり入って来た似ている顔の、しかし子どもの頃とは違って今ではしっかりと男女の区別がつくような顔つきと年齢になった、けれど幼い頃を想い起すような泣き笑いをする老いた双子だった。
楽しい話、楽しい話か……。
――君が望んだ楽しい土産話は、たくさんありすぎて迷ってしまう。
たとえば、君が寝物語に語ったお伽噺を信じた双子が、紆余曲折を経て、お伽噺そのものの勇者と聖女に選ばれてしまい、悪竜や魔王といった伝説の存在を討伐する旅をすることとなった話をするのがいいだろうか。
それとも、君との婚姻に至った原因である隣国との同盟関係が悪化して、君の故郷の辺境領で大きな戦争となり、智謀を巡らせて奇襲で攻め込んだ次男が、利用するために捕まえて人質となったはずの隣国の姫と、何故か大恋愛の末に結ばれた話がいいだろうか。
ああ、それなら長女が結婚後に浮気されたと勘違いしたまま勢いで出奔して、いつの間にか遠い異国の果てまで世直しの旅をすることになり、いつしか大勢の手下を手に入れて国に英雄のように凱旋して夫を勘違いのまま殴ったという話がいいだろうか。
だが、これらの話をするならやはり、まずは裏で弟妹それぞれの後始末や援助に苦労しながらも、私とは違って至って平凡で平和な家庭を築こうと努力した長男の苦労話をしてやるのがいいのかもしれない。
どれもこれも、君の為にゆっくりと見て聞いて、集めた土産話なんだ。
これ以外にも、君が知らない孫や曾孫の話までも、たくさんあるんだ。
君の喜ぶ顔が今からとても楽しみで、――。
「……父さん?」
私の初恋は、君だった。君しかいなかった。
君は散々だったと言っていたけれど、たとえ実は君がとびっきりの悪い女だったとしても、それに私がころっと騙されただけだったのだとしても、――私も君を愛した結果に後悔はしていないよ。
こんな私に、どうしようもなかった私に、これほどの満ち足りた幸せだという感情を与えたのは、確かに君と出会ったおかげで、全ては君を愛して生きたおかげで知ることが出来たもので。
……だから、その全ての運命そのものの必然に、私は――。
「――ありがとう」
――ひとりは寂しくて怖いの。すごくすごくすーっごくね!
だんだんと視えなくなって暗くなる視界の奥に、君の言葉とは裏腹な楽し気な声と輝く瞳を思い出して、勝手に口角が上がったような気がした。
……きっと君の最期も寂しくは無かったと、僕も今なら分かるよ。
――だから誰もが怖くて寂しくならないように、自分だけの愛を探し求めるのよ。
ああ全て君の言っていた通りだった。
やっと最愛の君に会いに行けると思えば、怖くなんて――。
セドリック・クライモルテ。
王国の史実において、彼ほどに有名な遊び人はいないだろうと語り継がれるほどの男である。
だが、真実これほどまでに長く歴史に語り継がれる素晴らしい大偉業とも言える彼の功績の実態はというと、彼の子孫から生まれた多くの英雄や傑物たちの祖であったということに尽きる。
特に勇者や聖女がいい例だった。
多くの特別で優秀な子どもに恵まれたのは、彼が遊び人であり、多くの愛人がいたからこそ成しえた結果だろうと結論付けられてはいるが、今のところ隠し子の子孫がいるという話は自称扱いで眉唾物であるとされる。
何故ならこの話を持ち出すと、彼は彼の妻だけを生涯愛していたと、クライモルテ公爵家が一貫して公式の史実や見解を否認しているからだ。
真実が記されているだろう残された書物に関しては、クライモルテ公爵家にて直系であり、更に当主となってそれでもやっと稀にしか読めないという勇者と聖女が施した古代の魔法で、禁忌の禁書扱いとして厳重に保管されているのだという。
そんな危険な禁書の持ち主であったというセドリックの葬式の際には、唯一多くの真実が書かれていたというとある重要な封筒は共に焼かれてしまい、灰となってしまったというのだから嘆かわしいことであった。
真実はこうして闇に葬られていってしまうのだろう。
禁書を保管するクライモルテ公爵家においては、大事な史料をこのまま未来永劫守り抜いて欲しいものである。
――そうそう不思議なことに、公爵家の語る話が真実だったとしても、そのセドリックが唯一愛したという妻だった女性の名前は、どれほど探しても例の禁書と共にクライモルテ公爵家に保管されているという一族の家系図の中にひとつだけしか存在していないのだという。
国から公式とされる史実にも、生家であるとされているはずの辺境伯家にもその女性の名は残されておらず、しかし実在の人物であったことはセドリックの名と当時の王族の名の下に共に記され証明されている。
勇者と聖女の生母だったというその偉大な女性に何かしらの大きな秘密か、もしくは不都合な何かがあり名が隠されてしまったのか、というような陰謀論的な話は歴史研究の学者の間ではよく飛び交う憶測にもならない遊びのような考察である。
夫と違って、何故それほどまでに徹底してその女性の名前が一緒に語られないのか、残されていないのかは未だに大きな疑問ではあるが、これに関してはもしかしたら意外とクライモルテ公爵家に非があるのかもしれない。
何故なら彼らはセドリックは普通に名前で語るが、その妻に関しては子々孫々に至るまでとある文言でしか徹底して語らないからである。
――クライモルテ公爵家の最愛、と。
最後までこの物語を読んで頂き、誠にありがとうございました。
最終話でまさかの二万字超えとなりましたが、これにて完結となります。
多くは言いません。
というよりか、完結で最後となる後書きなのになんか、なんか何も言葉が出てきませんので。
ただ、感想はお待ちしております。
家族、そして二人の物語へのお付き合い、最後までありがとうございました。
もし未読ならば、是非
【短編】転生した妻の置き手紙 ↓URLからもどうぞ
https://ncode.syosetu.com/n6901hw/




