双子の場合
「さくせん、しっぱい……」
「むだなぎせい、でた……」
どよーん、と落ち込む薄金髪のそっくりな顔の双子が、呟く。
先ごろ双子の重要任務遂行の為、荒ぶる姉の怒りを鎮めようと敢行した作戦を振り返ってのことだった。
「いいてんき……」
「ぽかぽか……」
しかし、それも長くは続かなかった。
逃げ込んだのが外という場所のせいか、燦燦と陽気な日差しが降り注いで双子の気力を着々と削いでいったからである。
「つぎのさくせん、かんがえないと……」
「おひるねしてから、かんがえよう……」
双子はついに、丁度良いお昼寝環境に負け、公爵邸の中庭にて日向ぼっこを満喫することにした――。
『――私は、父だ』
だれ? と尋ねた双子に対して、見知らぬ男は困った顔で初めにそう答えてくれた。
父が何か知らなかった双子は、父とはなにか? と兄姉に質問した。
『う、うーん。改めて何かと聞かれてもなぁ……。あいつが父親としてどうなのかって意味じゃあねーもんなぁ、お前たちが聞いてるのって。まあ母さんの男版。……逆の存在みたいなもん、かな? すまん。考えたが、俺もさっぱり分かんねーや。他の人にも聞いてみな』
と、長男。
母の逆という変な情報を得てまだ情報不足だと判断した双子は、とりあえず兄の助言に従うことにした。
『――あの男が、父ですって……?』
と、長女。
まだ何も聞き出せなかったが、声音だけで早々に危険を察知した双子は、とりあえず全速力で姉から逃げることにした。
『定義という話なら、そもそも男女の――』
と、次男。
何やら小難しい話をずらずらとし続けたが、最初の部分以外は殆ど双子の記憶には残らなかった。
が、一番情報量が多かったため、双子はなんとか父とは何か? についてある程度理解することが出来た。
つまり、――家族のことだったのだ、と。
父とは何かを、見知らぬ男に直接聞くことはしていなかった。
まさか、家族だとは思っていなかったからである。
『知らない人には、ついて行ってはダメ』
『知らない人から、何かを貰ってはダメ』
『知らない人なら、家族と同じではダメ』
双子はよく、母からの言いつけを守っていた。
しかしそれでも家に住み着き始めた、とても兄や姉にそっくりなのに、皆は知っていて双子は知らない謎の男の人が気になっていた。
そうして最後は好奇心に負けて近づいた結果、家族が増えた。
双子の認識は、そういうことになっていた。
そして、家族が増えたと同時に。
家の中が父の存在を中心にして、緊張感のある妙な空気に包まれているのを敏感にも感じ取ってしまった。
『もし家族が喧嘩するようなことがあったら、
――二人が仲直りさせてくれないかしら』
双子は言われた当時、よく意味を分かっていなかった。
家族が喧嘩すると、仲直りさせるのはいつも母だったから。
母が家族を仲直りさせるのが一番、上手いから。
双子はそれを、いつも見ていたから。
それがこのままずっと続くのだと、疑うことも知らなかった。
どれほど母の顔色が悪くとも、寝室から出てくることが減っても、日に日に寝台から起き上がれないようになっても、まさか母が居なくなるだなんて、当時の双子は恐ろしくて考えたくもなかった。
だから、母が死んだときの衝撃は計り知れなかった。
死という概念は幼いながらに理解していたが、真には理解していなかった双子にとっての衝撃。
――それが、母の死だった。
『仲直りさせてくれないかしら』
双子はよく、母の言いつけを守った。
母が大好きだったから。
だから、その言葉は自然と双子の使命となった。
もう居ない母の代わりに、双子が家族の仲を守ってやるのだ、と。
しかしまだ幼い双子にとっては、それはあまりにも難儀な使命だった。
当初は、母の死で暗く沈む家族の様子を窺うばかりで、お互いに喧嘩をしたわけでもない家族に対して、何をしてやればいいのかが分からなかった。
かといって、双子も双子で母の死で沈んでいたために、楽しく遊ぶ気分にもなれなかった。
そうして気分が沈む最中でやっと、いくつかの母の言葉を思い出し、なんとか顔を上げようとしたところだったのだ。
双子は母の死を真に理解した時、とても泣いた。
もうお漏らしをして泣くような歳でもないのに、目からは涙が溢れて止まらなかった。
枯れることがないみたいに、ずっと。
でも、双子以外の家族は誰も泣かなかった。
双子が泣けば泣くほど、ひどく苦しそうで悲しい顔をするのに。
家族が泣けば、双子が母を想っていつまでもひどく泣いてしまうからとでも思って我慢しているのか、誰も双子の前では泣かなかった。
だからか、双子のとめどなく溢れて枯れない滂沱の涙は、家族の分までも涙を流していたせいなのかもしれない。
そんな時だった。
――見てしまったのだ。遠くから。人が泣いているのをこっそり。
何故知らない人が泣いているのか、家族の誰も泣いていないのに。
そんな理由で近付いてびっくりした。父という家族だったのだと。
――そっか。家族だから泣いたんだ。
双子は納得した。そして自然と親近感が湧いた。
そこで母の言葉を思い出したことで、涙はやっと止められた。
いつまでも双子が泣いてても、家族の暗い顔はずっと晴れない。
とはいえ、これがただの喧嘩であれば、母を真似して何とか双子だけでも家族を仲直りさせることは出来たかもしれない。
だが、お互いにだんだんと顔も姿も会わせなくなっていって、会話が減っていく家族はまるで、――相手の居ない喧嘩をしているみたいで。
……どうしたら仲直り出来るのか、双子には見当もつかなかった。
母と同じくらい、家族が大好きな双子にとっては由々しき事態だった。
母ならば、なんとか仲直りさせたかもしれない。でも。
――もう母はいないのだから、誰かが代わりに家族を仲直りさせないと。
それが双子の使命となり、望みとなるのに時間は掛からなかった。
難しい理屈なんて何も分かっていなかったが、本質的な危機を双子は理解していた。
このままにしておいたら、家族が壊れてしまう――。
それはきっと、母の死よりも悲しいことだ。
それを分かってて、きっと母は双子に託したのだ。
双子はそう理解して、なんとかしようと色々考えた。
表面上は、兄や姉たちに変わったところは無かった。
徐々に母の死の前の、いつも通りに戻っていたから。
でも、双子にはそれが偽りなのだとも分かっていた。
何かが欠けたように、何かが足りないように、家族の誰もが無理をしているようにしか感じなかった。
遊ぶこともせず、家族の様子を窺ってばかりだったのは、どうすればいいのかが分からなかったのもあったが、それがとても怖いことだと感じていたのも原因だった。
悲しいはずなのに、家族の誰も泣くところをまだ見ていない。
おかしいことだ、というのは双子にも理解出来た。
そしてこのままではいずれ、どんどんと手遅れになっていくということも。
焦りばかりが募り、どんどん以前の、しかし上辺だけの平穏な日常に戻り始めた時、泣いていたのをこっそり見て知っていた知らない人が家に住み着いたのは、双子にとっては喜ばしくも嬉しい変化だった。
まず、顕著に効果が出たのは姉だった。
その人のせいで、激しい感情を前みたいに表へ出すようになった。
双子の知っている、元気で素直な姉へと。
そして次は、一番上の兄だった。
いつまでも隠しきれないほどにひどい顔のままだった兄が、やっと顔色を少しだけ明るくした。
母が死ぬまでの苦しくて辛い期間を最も傍で過ごした兄だったから、その悲しみは未だ深かったが、それでも少しだけ前向きになったのが分かった。
といっても、何故か以前より余裕は無くなってしまったようだったが。
そして最後は、次兄。
双子が怖いと思った原因の大半でもあった。
変わらな過ぎた。何もかも。
母の死も何も、何事も無かったかのように日常の一部として淡々と過ぎていくかのように、通常通りだと過ごすその姿はまるで、――もう壊れかけであるかのようで。
日々が過ぎれば過ぎるほどに命の気配が希薄となって、双子を何とかしないと、と最も焦らせた要因だった。
一番上の兄や姉も、いずれ似たような状態になるのが理解出来ていたから、頼ることも出来なかった。
次兄になんて声を掛ければいいのか、どう接すれば良くなるのか、双子は怖くて何も行動に移せなかった。
だから、その知らない人が来てからのこと全てに、本気で感謝した。
まるで母が居た頃みたいに、家族の淀んだ空気が動いたから。
――感謝の気持ちを伝えたい。
でも知らない人に話しかけていいものか、母の言葉を思い出してしまって双子は逡巡した。
でも近くでずっとどうすればいいのかと動けず、隠れてじっと見つめていたら、気付いたあちらから声を掛けてくれた。どうした、と。
その声音が何故か母を想い起すような優しいものだったせいか、それとも母の記憶が残る場所にその人が居るせいなのか、双子はもうここには居ないはずの母から直接聞かれたような気がした。
だから思い切って聞いてみたのだ。だれ、と。
知らない人なら、知れば良い。
そんな単純な思考の帰結だった。
そして驚いた。父という家族だったのだ、と。
兄が言っていた、母の逆。
確かにその通りなのかもしれない。
母の場合は好きと笑いが絶えなかったけれど、父の場合は怒りや嫌いが常に家族から向けられていたから。
でも、それで良かった。
双子にとって重要なのは、家族の仲が前のように活発になることで。
たとえそれが負の感情であっても。
お互いに距離を置いて、いつしか会話も何もなくなってしまうよりは遥かにマシだった。
そんな未来は、双子が――母が望む家族の未来ではなかった。
父というのは凄い、と双子は思った。
あれほど静まり返っていた家が、いつの間にか以前みたいな賑やかな家に戻り始めていた。
双子が望んだ、かつての家族の家に。
家族で楽しく過ごす、家に。
家族が賑やかに笑う、家に。
父を起点として、家族が顔を真正面から合わせることが増えた。
まだまだぎこちなくても、かつての家族がしていた楽しくも平凡で、賑やかな会話が日常に少しづつ戻ってきていた。
かつての母を、双子の知らなかった母を、父はたくさん教えてくれた。
その度に、兄や姉たちの顔は凄いことになったりもしたが。
それが存外面白くて、双子は何度も父に母の話をねだったりもした。
たまに双子が知ってる母の話をすると、父が笑ってくれて嬉しかった。
――まるで母が居た頃のように。
優しく頭を撫でて、話を聞いてくれた母。
色んな面白いお話を、聞かせてくれた母。
双子の知る母は、父や兄姉たちよりも恐ろしく限定的なものでしかなかったのかもしれない。
だが、それでも父と居ると死んだ母を悲しくない気持ちで想い出せた。
死んだ母のように、優しく頭を撫でて話を聞いてくれる父。
死んだ母の昔話で、色んな面白いお話を聞かせてくれる父。
双子は父が母と同じで凄い人なのだと、とても嬉しくなった。
母と同じくらい凄い父のおかげで、双子の危惧していた家族の未来はもう安心なのだと、心底ほっとした。
父が居れば、家族はこの先もきっと大丈夫。
だって、母が居た頃と何も変わっていない。
母を中心に動いていた家族。
父を中心に動かされる家族。
ちょっと違うけど、違わない、そんな家族の日々が。
母が望んでいた、仲良し家族の日々が、これからも――。
「ふがっ!?」
「うにゃー……」
お互いをお互いの身体に重ね合うようにして奇妙な態勢でお昼寝していた双子は、寝返りしたことでその絶妙な均衡を維持していた態勢から転げ落ちてしまい、痛みで覚醒した。
その際、それぞれ顎と鳩尾に手足が当たってしまい、ちょっと赤く腫れてしまう。
「うぅ……ありぃ……おもい……」
「らふぁがへんにうごくから……」
ふわふわとした寝起きの声でお互いを詰った双子は、そのまま起き上がって土埃を払った。
傾いて沈みかけの太陽をみるに、そこそこの時間、お昼寝をしてしまっていたようだったと悟る。
「おくのて、つかう……?」
「それしかない、かも……」
なんとなく暗くなっていく空を見上げた双子は、どちらともなく同じ結論を出していた。
長い長いお昼寝をしたおかげで、また母の言葉をひとつ思い出せた。
「「やるか……」」
いかにもやる気の無さそうな声音と表情で、しかし心はめらめらと奮い立つようにやる気に満ちた気分で双子は動き出した――。
◇◆◇◆◇
「「ウィルにぃ」」
まず落とすべきは、最も弱い砦から。
「うん? どうした?」
案の定、開門を要求する必要もなく、でれでれと崩れた顔の兄が双子に靡いた。
手間が省けた、と双子は何の捻りも交渉も無く直球で要求をした。
「いいよいいよ! 可愛い天使たちの為なら、悪魔に魂を売るのでもなんでもすぐしちゃうよ!」
兄の続く言葉を無視して、双子は次なる砦へと向かった――。
◇◆◇◆◇
「「エドにぃ」」
次になくてはならない、重要なカギを握る兄を狙う。
「どうしたの?」
眼鏡をキラリとさせた兄に緊張しつつも、双子はもう一人の兄と違って説明を省かずにやりたいことがあると詳細なおねだりをした。
いつものように最後まで聞いてくれた兄は、「そういうことだったか……」と納得したように呟くと、快く了承してくれた。
「……うん。分かった。でもまさか、ヴィクトリアも呼ぶつもり?」
「いのちがけ……」
「がんばる……」
双子の並々ならぬ――もとい、涙目の覚悟を見て、じゃあ先に兄上と準備して待っているからと苦笑する兄をその場に残し、双子は最後の難関へと向かった――。
◇◆◇◆◇
「あなたたち、そんなところで何しているの?」
「「リアねぇ……」」
今はどうやら落ち着いているらしい姉の様子に安心して、双子は遠くで隠れて窺っていた姉のもとへとゆっくり近づいた。
ゆっくりなのは、姉の沸点が何がきっかけで暴発するか分からないくらいにとても低いのを理解しているからである。
「いっしょにおにわ、いこう……」
「おいしいあくまのみをたべるの」
「……悪魔の、実?」
途端、姉が怪訝そうな顔になった。
途中までは平常の顔で聞いてくれていたが、何やら妖しい単語に早速眉根を寄せたのだ。
「危ないものじゃないでしょうね……?」
「ち、ちがう! あぶなくない!」
「ただのたべもの! あんぜん!」
お説教の雰囲気を感じ取って双子は即座に誤解を解こうと頑張った。
しかし、そうすればするほど姉の顔が凄いことになっていく。
「本当に食べ物なの? そんな名前の食べ物なんてあったかしら……?」
姉が怪訝な顔で首を傾げ、己の知識を思い返し始めた頃合いで双子は補足するように悪魔の実の凄さを訴えた。
「たべてわかがえる、ふろうのみ……」
「まんびょうにきく、きせきのみ……」
「とんでもない代物じゃないッ!!」
途端、目を引ん剝かんばかりに「どこが安全な食べ物なのよ……ッ!」と畏れ慄く姉の言葉に、双子は神妙な雰囲気で説明を続けた。
「いちどてをだしたら、とりつかれる……あくまのみだから」
「いっぱいたべても、ふとらないから……あくまのみとよぶ」
「なんて恐ろしいッ……!!」
ついには自らの腕をさすって大げさに青褪め始めた姉に、双子はとても満足した。
兄たちに話しても悪魔の実についてある程度知っていたのか、この恐ろしさについて理解されることもなく、若干反応が不満だったからである。
「――待ちなさい。庭に行きたいと言ってたわよね」
が、しかし。それはそれとして。
双子の目的を言えば、それが我が家の庭にある食べ物ということに気付いてしまうのは必然。
そんなに恐ろしくも危ないものが庭にあったならと、今にもどうにかしてやろうという姉の表情をみて双子はとても焦った。
姉はいつだって本気だ。万が一にもそんなことをされれば、ここまでの双子の苦労は水の泡となる。
「だめ! ママのお庭にあるものだから!」
「あらしちゃ、だめ! ママがかなしむ!」
「お母様が……」
今にも駆除に向かおうと腰を上げた姉に飛び掛かって、必死に止めようと双子は言葉を紡ぐ。
姉が本気になればあってないような弱い拘束だが、逆に言えばまだ姉が本気ではないからこそ幼い双子にも出来る足止めの手段だった。
「ウィルにぃ、ゆるした!」
「エドにぃも、てつだう!」
「……お兄様たちが?」
兄の名前を出したおかげか、それとも安心か納得でもしてくれたのか、少しだけ姉の雰囲気が柔らかくなった。
とはいえ、不穏な雰囲気なのはあまり変わりないので、あくまで少しだけだったが。
「――そう。それなら、いいわ」
必死に止める双子の様子に諦めたのか、それとも母の庭園だと聞いて危険なものではないと考えたのか、ひとまず納得して頷いてくれた姉に、双子はほっと胸を撫で下ろした。
が、すぐさま立ち上がってどこかへ行こうとする姉に気付いて慌てて引き留める。
「何? 庭に一緒に行きたいのでしょう?」
不思議そうな顔をする姉に、双子は大事なことを言い忘れていたのを思い出して、慌てて補足説明した。
「それ、きょうじゃない!」
「あしたのあさにいくの!」
「……明日の、朝?」
ふんふん、と力強く頷いた双子に戸惑いつつ、暴走が無ければなんだかんだと心優しい姉は、それを聞いてしっかりと了承してくれた。
思ったような被害もなく、想像以上に上手くいった結果に満足した双子は、明日が本番だといつもより気合いを入れ、早めに寝入った――。
◇◆◇◆◇
あろうことか、双子は家族と約束したのに寝坊した。
前日の長いお昼寝のせいか、それともなんとか上手くいってる計画の仕上げを楽しみにし過ぎて興奮したせいか、深夜まで寝れずに夜更かししてしまい、寝坊をしてしまったのだ。
「――ちこくちこく!」
「――まずいまずい!」
表情や声は相変わらず平坦で感情表現に乏しいが、言葉は本心から出るものだった。
とにかく双子は焦っていた。
兄や姉たちにお願いをしておいて、それをまさか故意ではなくともすっぽかすつもりなど毛頭無かったからである。
飛び跳ねる寝癖もそのままに、着替えを手伝う侍女や侍従たちを急かして外へ足早に飛び出した。
「あっちだっけ?」
「ちがうこっち!」
急ぎ過ぎて途中、道に迷ってしまうアクシデントに見舞われつつ、双子は目的地へとひた走った。
そしてようやく目的地が見えて――。
「――あら? ようやく起きたのね、お寝坊さんたち」
意外にも、穏やかな顔で姉が真っ先に双子に声を掛けてくれた。
双子は震え上がった。そっちのほうがなんか怖い、と。
「お? ちゃんと起きたのか、二人とも。えらいなぁ!」
と、姉の後ろからひょっこりと兄がでれでれの顔を出した。
その手には、収穫したばかりだろう赤い悪魔の実が握られていた。
「食べる?」
「「食べる!!」」
そう言って後ろから声を掛けてきたもう一人の兄に、双子は一目散に駆け寄って赤い実を分捕って頬張った。
「あらあら……」
決して、双子を見て微笑ましそうにしつつも、悪魔の実の収穫で力加減か何かを間違えて潰してしまったのか、真っ赤に染まった手の姉を恐れてのことではなかった。決して。
もしかしたら実は誰か犠牲者が……なんて想像してしまうため、姉のほうを出来る限り見ないように双子は頑張った。
「――こっちにおいで。まだ沢山ある」
「「ちち!」」
そうして。父の姿を見つけて安堵し、双子は嬉しそうに走り寄った。
実はとっくの一番最初に昨日、父を誘っていたのだ。
母のこととなれば、父はけっこうなんでも聞いてくれるので、一番上の兄のように説得する必要などなかった。
家族にも内緒のつもりで、双子と母とで毎年こっそり一緒に育てて収穫し、食べていた思い出の悪魔の実。
双子の奥の手とは、これだった。
『昔を思い出して、ついつい食べてしまうのよ』
毎回の口癖のように笑って言って、収穫した新鮮そのままにぱくり、と実を口にしていた母。
いつもの綺麗でお淑やかな母ではなく、いたずらっ子のような顔で、幼い子どものようにマナーも何も関係なく楽しそうに食べながらも悪魔の実について教えてくれた母。
これはとっても恐ろしい曰く付きの悪魔の実で――なんて言いつつも美味しそうに食べる母を見て、もっと幼かった双子は母の話が楽しくて面白くてわくわくして目を輝かせて聞いていた。
だから双子もすぐに母の真似をして、みずみずしい悪魔の実をよく隠れてこっそりと食べていた。
『美味しいものは、皆で分け合って食べると仲良くなれるのよ』
そうしてこっそり隠れて食べていたのが母にバレた時、あっけらかんとお茶目に笑って母は双子を許した。
そしてその時に諭すように語った母の言葉は、――まさしく今、双子に必要なものだった。
母と一緒に分け合って食べれば、いつでも楽しくて嬉しくて、いつまでも一緒に居たいと思えた。
ならば、家族みんなで一緒に分け合って食べれば、みんなも同じように感じて、同じように仲良くなるはずだった。
「ちょっと! それわたくしが狙っていたのよ!」
「あー、悪い、ほら」
「どうして施しを受けなければならないの!?」
「えー……?」
兄と姉が、またいつもの騒がしいやり取りを始めた。
「あ、これはまだ無理かな……」
「こっちのはどうだ?」
「……ちょうどいいかも。とれる?」
「ああ」
次兄と父が、ぎこちなくも落ち着いて会話する。
「それはわたくしが狙っていたのですけれど!?」
「すまん……」
「他にもあるだろ……」
「そんなの知りませんわ!」
父が取ろうとした悪魔の実を、姉が目敏く見つけて難癖をつけ、兄が頭が痛そうに姉を諫めようとして失敗する。
「ヴィクトリア、まずは潰さないように練習するのが先だから」
「そ、それは……」
やはり真っ赤な手の原因は姉の力加減だったようで、一番上の兄を助けようと、次兄がいつも通りの冷静な指摘で姉を狼狽えさせていた。
「父さん、双子の分はもう充分だから」
「……そうか?」
「母さんが好きだったこれ、気になってるんだろ」
「――ああ、ありがとう」
遠慮でもしているのか、せっせと双子が食べきれそうもない量の悪魔の実を収穫していた父を見かねて、兄が声を掛けた。
「――美味いな」
「だろう? これ、母さんの大好物だったって俺も最近知ったんだよな」
「そうなの!?」
「そうだよ、ヴィクトリア。だからいい加減もっと丁寧に……」
双子はぱくぱく悪魔の実を食べながらも、騒がしくも賑やかに収穫しては、悪魔の実を同じように笑顔で食べる家族の姿にとても、満足した。
――かつて母と隠れて笑いあったあの時と、何も変わらない。
「「にんむ、たっせい」」
母はもう、いないけど。
父はみんなに、嫌われてるけど。
それでも双子にとって、仲良し家族は変わらずそこに存在していた――。
双子は割とセドリックが好きだ、というお話でした。
この先どうなるかは、まだ分かりませんけどね(笑)
一番クライモルテ家で可愛がられているといっても過言ではない、双子。
一番クライモルテ家で嫌われていているといっても過言ではない、父親。
双子にとっては個人の好き嫌いではなく、
まず何をもってしても母の「家族仲良くすべし」というお言葉が前提にありきでの認識と行動。
このお話に関しては、他の話と違って出来るだけほのぼのを目指しましたが、
ほのぼの出来ていたかどうかは途中からちょっとよく分からなくなりました(笑)
だってなんか、こう、何故か書いてて自然とうるうるっと来てしまって……。
楽しいお話にしようと意気込んで書いたはずなので、楽しいお話になってるはず!(圧
まあそんな感じで、双子が可愛いと微笑ましく思ったらぜひ「いいね」を!
次回最終話、「初恋のひと」
タイトルからも分かる通り、あの二人のそういうお話です。
もしかしたら、短編の二人の秘密の一端に触れられるかも……?
次で完結となるので、上手く書けてるかちょっと緊張でどきどき。
(※先に言っておくと、めっちゃ長くなったので歩きスマホとかしないように落ち着いて座ったまま読める時に読んだほうがいいかもです。)
読めばたぶん、まさかと短編も読み返そうとしたくなるかもしれませんね。
まあ、たぶんこの後日譚も読んでる読者様なら、
もう何度も短編を読んでて、読み返す必要はないかもですが!
というわけで、感想も頂けるととっても嬉しいです。
ではではまたしても明日の同じ時間に、
最期となる二人の物語をお届けさせていただきます。
ぜひともお楽しみに!(あ、待って。やっぱあんま期待しない方向で…ごにょごにょ




