襲撃される村
「この魔物を、知っているのですか?」
ワトスが聞くとレーリアは頷く。
「これは、キメラアントよ」
「聞いたことがない魔物ですが……」
「危険度が高く、ダンジョンドラゴンよりも優先して絶滅させたと聞いているわ。生き残りはいないはず」
「じゃあ、ここにいるのは、何なんですか?」
メルワーレが聞くとレーリアは首を振る。
「生き残りがいたのよ、この森のどこかに巣を作っているに違いないわ」
「なら、その巣を破壊しよう」
狩人の一人が言う。
死んだ仲間の敵討ちのつもりだろう。
「バカ言わないで! 全滅するわよ!」
「今回は勝てましたよ。犠牲が出たのも、不意打ちを受けたからで……」
「二匹以上が同時に出て来たら、私じゃ絶対に勝てないわ」
嫌な予感がした。
「あの、こういうのがまだ沢山いるんですか?」
「完成したコロニーの規模は五千から二万よ……」
どう考えても、挑んではいけない相手だ。
ワトスが決断する。
「今すぐ村に戻りましょう。王都に報告して戦力を集めなければ」
だが、そんな戦力が用意できる物だろうか。
レーリアと同等の戦力を持つ魔術師を五万から二万……王国内どころか、帝国の魔術師を合わせても絶対に足りないのでは。
ともかく一行は、狩猟村へと戻るために森の中を歩く。
死んだ狩人は、簡易の担架のような物を作って運ぶ。
船の所まで戻った時には、日も暮れかかっていた。
船で沼を渡る。
「おい、村に明かりが灯っていないぞ?」
もう少しで村の桟橋にたどり着くという時に、狩人の一人が異変に気付いた。
村は不気味なほどに静まり返っている。
もともと人口が二十人もいない村だが、完全に無人になってしまったかのように思えた。
上陸してすぐに、村人の死体が転がっていた。
一人や二人ではない。
ワトスがメルワーレに言う。
「船に戻って、フォーグの死体を下ろしておいてください。朝までに、川を下って人里に避難します」
「ワトスさんは?」
「まだ生きている者がいるかもしれません。全員を確認して回ります」
狩人たちとレーリアは、村の中へ散っていった。
メルワーレは一人で狩人の死体を引っ張って、桟橋の脇まで運ぶ。
それから、しばらくの間、メルワーレは桟橋の所で一行の帰りを待っていた。
自分も様子を見に行った方がいいのでは、と思い始めた頃、やっと戻って来た。
一行は三人の子どもを連れていた。
みんな怯えた目をしている。
レーリアが小声で教えてくれる。
「村長の家の床下収納に隠されてたわ……、近くで親が死んでた」
「そうですか……」
「とにかく船に乗って出発しましょう。早い方がいい」
ワトスが促し、船に乗り込んで、沼に漕ぎだす。
「これから、どこに行くんですか?」
「もちろん下流に決まっているでしょう。王都に報告に行くのです」
「それで、何に襲われたの?」
レーリアが、子どもたちに聞く。
「わからない」「黒くて、大きな物……」「呪文を唱えてた」
「まさか、キメラアントが?」
「巣穴の出口が、村の近くにもあるのかもしれないわ。この分だと、森の外に出てくるのも……」
レーリアは何か言いかけ、不審げな目であたりを見回した。
カツカツカツカツ
何か細かい音が聞こえてくる。
キツツキかと思った。
「これは、何の音ですか?」
「わからない。けど、何かが近くにいる」
カツカツカツ、カツカツカツカツ、カツカツ……
音は、右側からも左側からも聞こえる。
メルワーレは、気づいた、
音の回数で連絡を取り合っている。
たぶん、この船は敵に見つかっている。
『けると、そると、はすな、ほすな』
「トライアド・バリケード!」
レーリアが防御魔術を展開した。
敵の位置も攻撃の内容も不明。
防御に転じるのは間違った判断ではない。
だが、敵の行動は予想と違った。
川の行く先に光が生まれた。
光の鎖のような物が、川を横切るように伸びる。
『けると、そると、はすな、ほすな』『けると、そると、はすな、ほすな』『けると、そると、はすな、ほすな』
一本や二本ではない。
光の鎖が何本も何本も、川を塞ぐように繋がれていく。
船の行く手を遮るつもりだ。
「まずい。戻って!」
狩人たちが慌てて船の進む方向を変える。
沼を渡り、上流側へと逃げる。
「ルルト川と中リトーノ川、どっちに行きますか?」
「中リトーノです。そちらの方が、王都と連絡が取りやすい」
岸辺を巨大アリの群れが歩き回っているのが見える。
『けると、そると、はすな、ほすな』
先回りするように、沼に流れ込む川も封鎖されていく。
「一度あそこの岸につけましょう」
ワトスが沼の北側の岸辺を指さす。
巨大アリは、三分割した森の、少なくとも東側と西側に展開している。
まだ北側には来ていない事に賭けるしかない。
船は岸辺に到着した。
「固定するための杭がありませんけど……」
「流されないように上まで引っ張り上げましょうか」
狩人たちが船を引っ張り上げている。
メルワーレは震えている子どもの肩に手を当てる。
どんな言葉をかければいいのか、わからなかった。
だが巨大アリたちは、そんな事を考える暇すら与えてくれないようだ。
『しとの、きるの、はろく、たろく』
「まずい。逃げて! 逃げて!」
レーリアが叫び、狩人たちが船を放棄して散らばる。
メルワーレも子どもの手を引っ張って近くの茂みに隠れた。
無数の光の矢が降り注ぐ。
避難が間に合ってけが人はなかったが、船はバラバラの木片になっていた。




