キメラアント
突如襲ってきた、黒い妙な生き物。
大きさはクマぐらいだが、しかしそれは絶対にクマではなかった。
強いて言うなら、巨大なアリのように見える。
メルワーレの知らない魔物だ。
「あ、あれは一体……」
正体は不明。
しかし、明確に敵意を持っていて、こちらに攻撃を仕掛けてきている。
『いぐら、みぐら、そふな、はふな』
まるで数え歌か何かのように、怪物が節を付けて呪文を唱える。
光の粒子が渦を巻いて、空中に壁のような物を作る。
「ペネトレイト・バレット!」
レーリアが放つ攻撃魔術。
魔術の弾丸が光の壁を打ち砕くが、弾丸もそこで消滅した。
怪物は六本の脚で土煙を立てながらボコボコと走って移動し距離を取る。
だがそれより驚くべきことは、魔物が魔術らしき力を使った事だ。
魔力を攻撃に応用する魔物はいるが、厳密な意味で呪文詠唱ができる魔物は限られる。
よく見ると、アリの胴体の上に何かがくっついている。
固定が甘いのか、ぐらぐら揺れていて、それが呪文を唱えている。
『しとの、きるの、はろく、たろく』
空中に無数の光の矢が生み出され、メルワーレ達目掛けて降り注ぐ。
「トライアド・バリケード!」
レーリアが防御魔術を展開。
光の矢は透明な壁の向こうで砕け散り小爆発を繰り返す。
だが、矢の量に耐えきれなかったのか、透明な壁に亀裂が何本も走る。
これは突破されるのでは、とメルワーレが不安になり始めた頃に、ようやく矢の雨が途切れた。
「撃てーっ!」
ワトスが弓を構えながら叫ぶ。
狩人たちが矢を放つ。
巨大アリは蛇行するように走って逃げ回り、矢を避ける。
「時間を稼いで! 10秒あればいい!」
レーリアは何か大魔術の準備に取り掛かる。
巨大アリも走り回りながら、何か次の魔術を準備している。
「うおおおおおっ!」
狩人の一人が、手斧をブーメランのように投げた。
巨大アリの足にぶつかり、転んだように動きが止まる。
そこにワトスが矢を射かけた。
矢は巨大アリの胴体の上にある変な物に命中した。
『へああああああああっ?』
それが弱点だったのか、絶叫が上がる。
巨大アリの完成間近だった魔術が砕けた。
そしてレーリアの大魔術が完成する。
「ヴォルト・ケージ!」
雷撃が四角い檻を形作り、巨大アリを捕らえた。
そして収束。
電流が巨大アリを感電させる。
『おぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……』
巨大アリは、ビクビク震えて動きが止まる。
「ペネトレイト・バレット」
さらに追い打ち。
レーリアの放った魔術弾丸は、巨大アリの腹部を撃ちぬいた。
胴体の中央に大穴が開いて、茶色い液体が飛び散る。
『ぎぃいぃぃぃぃ……』
巨大アリは悲鳴を上げながら、その場で動きを止めた。
勝った。
ワトスが叫ぶ。
「フォーグはどうなってる?」
「ダメです、息をしてません」
「クソっ……」
最初に攻撃を受けた狩人は、死んでしまったらしい。
一方、レーリアはふらふらとした足取りで、動かなくなった巨大アリの方へ歩いて行く。
止めを刺すのかと思ったら、三メートルぐらい離れた所で立ち止まり、そのまま立ち尽くしている。
「レーリアさん?」
メルワーレはレーリアに駆け寄る。
「嘘よ……。どうしてキメラアントが……、こんなの、もう、おしまいじゃない……」
レーリアは、なぜか真っ青な顔になって震えている。
メルワーレはレーリアの肩を叩く。
「ど、どうしたんですか? 勝ったんですよ! ……勝ったん、ですよね?」
巨大アリの方を見る。
それは不気味な魔物だった。
巨大なアリの魔物、というのはまだわかる。
しかし、その胴体の上に乗っているのは、馬の首だった。
無理やり張り付けたような不自然さを感じるが、近くでよく見ると、殻を突き破るようにして内側から生えているようだった。
馬の首は、目がやたらと大きくて、カメレオンのようにグルグルと回っている。
「この魔物は、何だ? 知っているのか?」
やってきたワトスが困惑したように言う。
レーリアは何度か深呼吸すると、魔物に向かって叫ぶ。
「教えなさい! コロニーの規模は?」
『ふはははははははは』
魔物が叫んだ。
笑ったのだ。
「何がおかしい! 答えなさい!」
『答えるとどうなるのだ? 傷を治して解放してくれるのか?』
「な、なんなんですか、この魔物……」
喋っている。
意思疎通が成立している。
もちろん、ダンジョンドラゴンのような、会話が可能な魔物もいる。
しかし、そういう知性的な要素がこの魔物からは感じられない。
いや、外見で知性的かどうかを判断する基準が人間中心過ぎるのかも知れないが……、しかし、これはそういうレベルを超えているような気がする。
この魔物からは、人間に合わせようという気が全く感じられない。
それでいて、人間と会話し、不利な状況ながら、会話の主導権を取ろうとしている。
もしかすると、言語能力は人間よりはるかに高いのでは?
「答えなさい! コロニーの規模は? 位置は?」
『おまえには、何も教えない。だがよく考えてみれば、隠す必要もないな』
「なら答えなさい!」
『答える必要もないだろう。なぜなら、全ておまえの考えている通りだからだ。……おまえ達は、おしまいだ!』
「……うるさい。死にぞこないが!」
レーリアは苛立ったように荒い息を吐く。
巨大アリは笑い出す。
『ふはははははは! そうだ。この個体はここで死ぬ。しかしおまえたちも同じだ。遅いか早いかの違いでしかない。そして最終的に勝つのはマザーだ。人間の分際で無駄な抵抗などするな。大人しく絶滅するがよい』
「黙れ!」
『けふと、へると、まなぐ、さなぐ……』
巨大アリが呪文を唱え始める。
レーリアも慌てて魔術を発動する。
「ペネトレイト・バレット!」
魔術の弾丸が、馬の頭を吹き飛ばす。
巨大アリは死んだ。
ただ、不気味な静けさだけが残った。
そういえば、最近ツイッター社が人間を人間以下の物に例えるのを禁止するとか言っていたけど、
たぶん虫も人間以下の物に含まれると思う
でもこの巨大アリは、人間の方を虫以下とか思っていそう




