ブラックフォレスト駅
メルワーレ達は、沼地から離れ森の中に潜んだ。
状況は最悪。
安全な拠点はなく、物資もない。
巨大アリはこちらを追跡している。
森から脱出する手段も失われた。
「これからどうしますか?」
メルワーレが聞くと、ワトスは疲れたように首を振る。
「船を失った以上、歩いて森を脱出するしかありません」
「森の外側は、北側でも植物が濃いですよ? 船なしでは外に出れないのでは?」
「最悪の場合は、泳いで逃げる事も視野に入れましょう」
ワトスは言うが、それは本当に最後の手段だ。
少なくとも、子どもの体力ではついてこれないだろう。
メルワーレも、この距離を泳ぎ切る自信はなかった。
レーリアが警戒するように周囲を見回す。
「アリがまた攻撃を仕掛けて来るかもしれないわ。早く行きましょう」
「いえ、朝までこの場に留まります」
ワトスは断言する。
暗い中を無理に動き回ると、転んだり道に迷ったりする危険がある。
散々歩いて疲れ果てた後で、気が付いたら出発点に戻ってきていたなど、笑えない。
メルワーレ達は一ヶ所に固まって、日の出を待った。
夜の森の空気は湿り気を帯びて冷たい。
子どもが震えながらくっついてきたので、抱きしめて眠った。
朝になる。
明るくなったが、状況は良くなっていない。
「出発します」
ワトスが言うと、子どもの一人が不満を言う。
「……おなかすいた」
「残念ですが、食べ物はありません。……森にある物を勝手に食べないように。基本的に毒です」
一行は森の中を歩く。
子どもがいるので、昨日より歩く速度が遅い。
そして、森のこちら側に深く分け入るのは初めての事なのか、ワトス達も方向決定で揉めている。
日が暮れるまでに、どこまで進めるだろうかとメルワーレは考える。
脱出に成功できるシナリオがあるとしたら、今日の夕方までに森の外周付近までたどり着くのが条件となる。
そして明日の夜明けとともに川沿いの浅瀬を歩いて森の外に脱出、それしかない。
水も食料もない現状では、それ以上は体力が持たないだろう。
それ以前の問題だと気づいたのは、日が高く上った頃だった。
「近くに何かいるわ」
レーリアが声を潜めていう。
カツカツカツ
何かを叩いているような音が聞こえる。
巨大アリが音で連絡を取っている。
前後左右、あちこちの方向から聞こえてくる。
「囲まれている……」
音源は、かなり近いように思えた。
この辺りは川や沼からはそれなりに離れているはずだ。
巨大アリも水を渡ってこの近くまで来ているに違いない。
「アリって泳げるような生き物でしたっけ?」
「泳げないと思いますが、魔物のすることなど予想も尽きませんからなぁ……」
ワトスは困ったように言う。
「とりあえず、音が聞こえない方に行った方がいいのでは?」
「……それは我々が狩りで獲物を追い込む時のやり方ですな。音が聞こえない所に罠が張ってあるものです」
「でも、音が聞こえてくる方にも巨大アリはいるんですよね?」
「まあ、いると思いますが……」
あまり期待が持てそうな状況ではなかった。
「な、何か黒い物が……」
子どもの一人が横を指さして言う。
メルワーレはそちらを見たが、怪しい物は何も見えなかった。
魔術を使って一瞬で姿を隠したのでなければ、見間違えだろう。
だが、もう精神的に限界に来ているのかもしれない。
「待った……何か様子がおかしいです」
ワトスが警戒するようにあたりを見回す。
「魔物が近寄ってこない……近くに、何かがあるのか? レーリアさん、魔術で探知をお願いしてもよろしいですか?」
「音で探知するから、終わるまでできるだけ音を立てないで。……サウンド・ディテクト!」
レーリアは目を閉じて何か聞き耳を立てていた。
二十秒ほどの沈黙、目を開けたレーリアは、手の上に文字を書くような動きで何かを確かめた後、ため息をつく。
「数百メートル以内に、大型の生き物が少なくとも十二体いるわ。三匹のグループが四つ。半円形の陣を作っている」
「半円形というのは?」
「円の中心は、私たちじゃない……、たぶん、向こうに二百メートルぐらいの所に、何かがある」
今まで進んでいた方向と少しずれた方を指さす。
「罠では?」
「少なくとも巨大アリはいないわ……まあ、もっと危ない物があるのかもしれないけど」
「行きましょう。そこに賭ける他に、我々が助かる道があるとは思えない」
森の中を進む。
レーリアが言った中心点には、何か妙な物があった。
白い素材でできた、四角っぽい建物。
人工物だと思うが、メルワーレの知識に該当する建築様式はない。
建物を取り囲むように、背の低い植物が大量に生えている。
まるで建物と森との違和感を少しでも消そうと、目隠し目的で生やしたようにも見えた。
不用意に近づこうとしたワトスをメルワーレは慌てて止める。
「あ、あの茂みは気を付けてください」
「え? ああ、この森では見た事がない植物ですが、毒草ですか?」
「うん? えっと……」
メルワーレは、どこかで似たような茂みをみたような覚えがあったのだが、どうにも記憶が繋がらなかった。
ただ、嫌な印象だけが残っている。
「これは石か何かで作られているのでは? 貴族の屋敷で、こんな白い石の壁を見た事がありますよ」
ワトスはそう言うが、たぶん同じ物を見た事があるメルワーレは、それは絶対にないと思った。
これは大理石ではない。
そもそも貴族は、こんな森の真ん中に家を建てたりしない。
「しかし、これは建物というよりは、地下に続く階段ですね。……降りてみますか?」
ワトスにそう言われても、メルワーレは即答出来なかった。
レーリアが言う。
「この下に巨大アリが待ち構えているんでなければ、なんだっていいような気がするわ」
森の中に突如現れた不思議な建物、その正体とは!!!?
まあ、答えはタイトルに書いてあるんだけど




