雪山 前
ちゃんと投稿したはずなのに、なぜか投稿されてない……
それからの二週間ほどは慌ただしく過ぎて行った。
アロッホは一度ダンジョンに戻って、いろいろな物の進捗状況を見る。
その後、ベルナス市に赴いてマキアートから荷物を受け取る。
最後とか言われていたので、戦闘になった場合に備えてウィノーラを連れて行ったが、荷物の受け渡しは何事もなく終わった。
エトルアがドブリンゾンビ達を教育して畑仕事の殆どは人手が不要になった。
一方、ダンジョンが貯蓄していた魔力はほぼ使い果たした。
一面に並ぶ綿花を眺めながら、エトルアは満足げに頷く。
「あとは、これが育つのを待つだけね。それで必要な綿は揃うはず」
「終わるのはいつごろだ?」
「あと一週間ぐらいじゃないかしら?」
それまで、特にやる事がない。
少し暇だった。
「そう言えば、アイスマウンテン駅の上に小屋を建てるって言う計画もなかったっけ?」
「材木は用意して既に運んであるわよ、そこに」
エトルアは、駅長室の端を指さす。
そこには丸太が山積みになっていた。
だが、材料がそこにあるという事は、小屋はまだ完成していないという事になる。
「実際の工事は進んでないのか?」
「それが問題なのよね。階段が長すぎて材木の輸送がはかどらないし、上の方に行くとドブリンゾンビが働いてくれなくなるのよ。寒いからかしら?」
「ドブリンゾンビ用の防寒着も用意しないとダメなのか?」
そこまで素材を用意していない。
マキアートから買い付けることもできないし、新たな商人のアテもない。
「待っても状況が改善しないなら、もう行っちゃってもいいんじゃない?」
ウィノーラがそう言って、カメ狩りが決行された。
綿花の種を増やす過程で何度か小規模の栽培をしたので、いくらか綿は確保できている。
そこから布を作って、耐寒系の素材をしみこませてから、服の形に仕立て上げた。
今用意できているのは2着分。
サイズはアロッホとウィノーラに合わせてある。
アロッホとウィノーラは、数日分の食料とスコップを持って、アイスマウンテン駅の入口の階段を登った。
ウィノーラはうきうきした様子でアロッホの腕に縋り付いてくる。
「久しぶりに二人っきりだね」
「あのなぁ、遊びじゃないんだぞ」
「解ってるよ、もう……。それで、どうやってカメを探すの?」
「探知機を用意しておいた。これで、局所的に気温が低い所を探す」
二人は白い世界に踏み出した。
ザクザクと音を立てて雪を踏みながら、とりあえずは山の高い所を目指す。
氷り付いた道を歩いて、山頂にたどり着いた。
ダンジョン入り口の辺りよりも風が強いが、ここからは王都側だけではなく、バルトリー村やカステラ駅の側も見える。
アロッホが岩に座ってその景色を眺めていると、ウィノーラが隣に座って寄りかかって来た。
「この辺りって、本当に景色がいいね」
「そうだな……」
山登りが大変なので、錬金術師協会でもビルカルム峠の遠征は、殆どの錬金術師が敬遠していたのだが、毎年行きたがる奇特な者もいた。
そういう人たちは、この景色が見たくて山に登っていたのかもしれない。
だが、あまり景色に見とれている場合でもない。
まずは周囲の景色と方角、そしてダンジョン入り口の位置を羊皮紙に記録する。
これを用意しておかないと、最悪の場合遭難する。
次にアロッホは探知機を取り出すと、周囲の気温を探知する。
すぐに異常を見つけた。
「あの辺り、不自然に温度が低いな」
「そこにカメがいるの?」
「そのはずだ」
「カメって気温が下がると動けなくなるんじゃなかったっけ?」
「普通はそうなんだけど、この山にいるカメは特別なんだ」
アロッホとウィノーラは、気温が低い場所を目指して下山する。
岩場に小さな水たまりのような物があって、そこが泡立っていた。
「え? 何あれ? 雪山の中なのに水が沸騰しているよ?」
「近づくなよ、それは水じゃないぞ」
それは液化フロロペネル。
ヘルフロストの中身と同じ物だ。
「これって、天然で取れる物だったの?」
「いや、これはカメの……おしっこのような物だ」
「それは……どういう事なの?」
ウィノーラは首をかしげる。
近くの雪に残っている足跡を追いかけると、それが見つかった。
全長八メートルほどの巨大なカメが、ノソノソと四つ足で歩いていた。
カメの甲羅の上には、細長い葉っぱがワサワサと大量に生えている。
ミスカンサス・トータスだ。
巨大なカメのような姿をした魔物で、甲羅の上に葉っぱの塊が生えている。
爬虫類でありながら、この寒空の下でも平然と活動しているのは、体内に特殊な熱機関を備えているからだ。
甲羅の上に生えている植物は空気中の成分からフロロペネルを含む液体を生み出し、下のカメに受け渡す。
カメは体内の器官で液体からフロロペネルを抽出し、断熱圧縮する。
この熱があるおかげで、爬虫類でありながら低気温でも活動でき、植物の部分も枯れずに生きている。
一種の共生生命体だ。
「す、凄いね。アレを倒すの?」
「いや……出来れば傷つけずに目的だけ果たしたい。もう少し、気づかれないように跡をつけよう」
一時間ほど跡をつけていると、ミスカンサス・トータスの動きが止まった。
そして、おしりから何かを噴き出す。
「何か出してるみたいだけど、冷たそうだね」
「あれがフロロペネルだ」
ミスカンサス・トータスは、定期的に体内にたまったフロロペネルを排出する。
この時、フロロペネルは断熱冷却されて、一部は液化され、水たまりを作る。
それが気化して行く時に、周囲の気温を下げる。
結果、カメ自身は体温を維持しつつ、その周囲の気温は下がることになる。
単に炎系の魔術を使うより少ない魔力で体を温めることができ、しかも低気温で外敵を寄せ付けない。
カメが立ち去るのを見送ってから、水たまりに近づく。
ひしゃくでフロロペネルを汲み取って、断熱容器に回収する。
とりあえず二リットルほどを回収できた。
「これでヘルフロスト十個分ぐらいかな」
「じゃあ、目的は達成だね」
「もうダンジョンに帰ってもいいんだけど……少し暗くなってきたな」
「ここで一夜、過ごしちゃう?」
「それしかないかな」




