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ウィノーラの執心戦術2


数日の間、意識が朦朧としていたような気がする。


目を覚ましたウィノーラが感じたのは尿意だった。

自室のベッドに寝ているようだが、体が思うように動かない。

誰かに助けを求めようとして、ベッドの脇に目をやると、近くの床で、アロッホが壁に背を預けて寝ていた。


「あ、アロッホ? アロッホ」


アロッホは頭を振りながら目を開けた。


「あ、……呼んでた?」

「その……トイレ、行きたくて……」


人にそんな事を頼むなど、とても恥ずかしくてできない。

その一方で、この数日間、ずっとそうやって介護されていたような気もした。


眠そうな顔のアロッホに抱えられて、部屋の隅に連れていかれる。

そこにはオマルが用意してあった。

床に下ろされ、当たり前のようにパンツを下げられてからオマルにまたがされた。


「……あ、あの」

「何?」


恥ずかしいからせめて部屋から出てくれ、と言おうとしたけれど、言えなかった。

足に力が入らず、上半身がぐらぐらしている。

今、アロッホに体を支えられている手を離されたら、そのままひっくり返ってしまうだろう。


用を足し終えて、濡れた布で股間を拭かれてから、ベッドに戻される。


「もうお嫁にいけないわ」


ウィノーラはため息交じりに言って、アロッホの顔を覗う。

アロッホはそれなりに動揺したようにも見えたけれど、表面上は平静に答えた。


「これはただの医療行為だから、気にする必要はないよ」


なぜか言い知れぬ不満が湧き上がる。


しばらく考えて、その理由はわかった。

自分はアロッホの口から「俺が嫁に貰ってやる」と言ってほしかったのだ。

これでは、まるで自分の方がアロッホと結婚したがっているみたいではないか。


頬が熱くなるのを感じる。

こちらは内心でこんなに焦っているのに、アロッホは眠そうな顔をしているのが憎たらしかった。


というか、どうしてここにアロッホがいるのか。

そして他に誰もいないのはどういう事なのだろう?


「あの、もしかして、あなたが一人で看病しててくれたの?」

「うん。なんか、得体の知れない伝染病かも知れないって噂が流れてて、みんな関わりたがらないんだ」


アロッホは眠そうに見えた。疲れているようだ。


「今って、私が倒れてから何日目なの?」

「四日……いや、五日目かな?」

「その間、ずっと一人で世話してくれたの?」

「うん」

「ちゃんと、ベッドで寝た方がよくない?」

「そうなんだけど、一人にしても大丈夫かな」


それは心細かった。

何しろ、ベッドから自分で起き上がる事すらできないのだ。


「その、えっと……私のベッド、使っていいから。一緒に寝ましょう」


ウィノーラが言うと、アロッホはさすがに慌てだす。


「いやいや、それはちょっと不味いでしょ」

「ただの医療行為なんでしょ。気にしなくていいって言ったのはあなたよ」

「えっ、いや、それは……」


アロッホは少し戸惑っていたが、考えるのが面倒になって来たのか、そのままベッドに上がってくる。


そのまま襲われたらどうしようという考えは少しだけあったけれど……

アロッホは疲労がたまっていたのか、そのまま眠りに落ちてしまった。


まあいいか、とウィノーラが目を閉じようとしたら、アロッホは寝ぼけてウィノーラに抱き着いてくる。


「ちょ、ちょっと……」


ウィノーラは焦るが、アロッホはわざとやっているわけではなく完全に寝ているようだ。


「もう……」


ウィノーラも、アロッホの背中に手を回す。

不思議な安心感に包まれて、自分がいつ寝たのかも覚えていなかった。

こんな時間が、ずっと続けばいいと思っていた。


だが、それから十日もしないうちに、アロッホは王都からいなくなった。

ウィノーラが毒を盛られたと騒いだ結果、その犯人が裏で手を回して、捕らえようとしたのだ。

逆らってはいけない物があるのだと、ようやくウィノーラも理解した。



ウィノーラはアロッホに命を救われた。

アロッホは、ウィノーラを助けたために人生を棒に振ったような物だ。

今度はウィノーラがアロッホを助けなければならないだろう。


まず考えたのは、アロッホを追いかけて保護する事、そして追跡隊を妨害する事。

だが、そのどちらも不要のようだった。


アロッホを必死になって追いかけているのはディスオルトだけで、他の貴族たちは非協力的だ。

そのディスオルトですら、アロッホが逃げたと思われる地域の顔役に親戚を送って挨拶回りさせているだけで、組織だった捜査をしているわけではない。

放置しておいても、アロッホが捕まる可能性は低い。


ならどういう形で助けるか。

考えた末に思いついたのが、錬金術に必要な機材の提供だ。


錬金術で使う機材は、王都の一部の攻防でしか作れないらしい。

逃亡中のアロッホがそれを入手するのは難しいだろう。

それをどうにか入手して届けてあげれば、助けになるはずだ。


必要な物は、アロッホが今まで使っていた作業場に全部あるはず。

それを持ち出せばいい。


だが、それを思いついた時には、アロッホの所持品は全てどこかに運び出された後だった。


持ち出された先を調べると、錬金術師協会が用意した倉庫に運び込まれたことが分かった。

とりあえずウィノーラはそれを盗み出すことにした。


錬金術師協会は、倉庫を厳重に警備しているつもりのようだが、実際には大したことはなかった。


魔術に反応する警報装置を石斧で叩き壊してから、警備員に錯乱魔術をかければ、それでおしまいだ。

錯乱して、大声で聖歌を歌いながら凱旋していく警備員を見送ってから、倉庫の中の物を運び出す。


一番苦労したのは、箱の量だ。

一メートル四方の木箱を五個、さすがに少女の細腕でどうにかなる物ではない。

魔術を使うにしても五個を同時は無理なので、かなり時間がかかってしまい、部屋に運び込む前に朝になるかと思った。



驚いたのは、その翌日だった。

ディスオルトが急に部屋に訪ねて来たのだ。

荷物を盗んだ事がもうバレているのかと思って、不自然な対応をしてしまったが、ただ偶然やってきただけらしい。


偶然で良かった。

もしバレていたなら、その場でディスオルトを殺してウィノーラも王都を脱出しなければいけなかった。


ディスオルトがよくわからないことを言うだけ言って帰った後、ウィノーラはすぐに倉庫を確保して、アロッホの荷物をそちらに運び込んだ。


あとは、アロッホの居場所を調べて届ければいい。

簡単な事だと、その時は思っていた。


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