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ウィノーラの執心戦術1


ウィノーラは男爵位の家に生まれた。


男爵は貴族ではあるが、位は殆ど最下層。

さらに受け継ぐべき領地は小さく金もない。

屋敷に出入りする商人の方が羽振りがいいぐらいだ。

家督を継ぐのも兄の役目であり、ウィノーラは家を出てなんとかしなければならない事が、生まれた時から決まっていた。


どうして自分の家は、そんな微妙な立場なのか。

子どもの頃、それを兄に質問するとこんな答えが帰って来た。


「知らないのか? 俺たちの先祖には宮廷魔術師がいるんだぞ」


調べてみると本当だった。

百年ほど前に、魔神を撃退して王都を守ったとされる大魔導士、リアトラー・ビスコート。


その次女……の三男……の次男。それがウィノーラの父親だった。

つまり、ウィノーラの高祖父に相当する。


つまりウィノーラの家が微妙な扱いを受けているのは、英雄の子孫だから邪険にはできないが、代を重ねて子孫が増えすぎて扱いきれなくなりつつあるという、しょうもない理由の結果だった。


しかし、ウィノーラは一つの天啓をえた。

自分も宮廷魔術師を目指そう、と。

先祖の大魔導士の血が流れているのだから、チャンスはあるはずだ。


ウィノーラは、曾祖父が書いたという教本を読みながら、魔術の練習をしてみた。

一ヶ月ぐらいかけて、初歩の初歩という炎を出すだけの簡単な魔術をどうにか発動させることに成功した。

ウィノーラにとっては十分大変な苦労をしたつもりだったのだが、親にそのことを報告すると驚かれた。

殆どの魔術師志望者は、専門家の指導を受けながら一年近く修行して、ようやくこの段階に至るのだという。


ウィノーラは、天才魔術師の卵ともてはやされ、王都に送り込まれた。


宮廷魔術師の審問は四年に一度、一人が選ばれる。

一度選ばれれば基本的にはずっと宮廷魔術師を名乗ることができるが、用意された席は12と決まっていて、それを超える場合は一番年を取っている者が名誉職に退くのだという。


ちょうどウィノーラが魔術に目覚めた年が、審問がある都市だったのだが、今年魔術を使えるようになったばかりの腕で審問に受かるわけがない。

ウィノーラは四年後の合格を目指すことにした。


三年かけて、表に出回っている教本の魔術を一通り使いこなせるようになったウィノーラは、最後の仕上げに入った。


王都の図書館には審査を受けた人間しか入室できない、特別な図書室があるという。

その中には、過去の宮廷魔術師が書いた魔術の奥義書もあるのだ。

審査を通ったウィノーラは、図書室を利用するようになった。


リアトラー・ビスコート直筆の魔術書もあるのだと言う。


アロッホとはそこで出会った。

最初の頃はアロッホに対する印象は良くなかった。


ウィノーラが読もうとしている本と、アロッホが読もうとしている本の場所がかぶるのだ。

特別図書室の本は、全てチェーンドライブラリーになっていて、本棚から一定以上離すことはできず、その場に置かれた机で読むしかない。

だから、目当ての本が同じ本棚にあると、先に来た者しか読めない。

そしてアロッホはいつもウィノーラより早く来て、本の内容を書き写しているのだ。


ウィノーラは諦めて別の本を読んだりしながらも、毎日、どうやってアロッホを出し抜こうかと考えていた。

やはりアロッホより早く来る以外にないだろう。

ある日、早起きして、開館する直前の時間に図書館に行ったら、アロッホはもう来ていた。


「あ、おはよう」

「おはようじゃないわよ……」


アロッホよりもさらに早く来ることも考えたが、それはさすがに時間の無駄に思えた。

その後、二人は話し合い、一日ごとに交代で利用する事で合意した。


大魔導士が書いた本には、あまり斬新な事は書いてなかった。

内容の大半は、表に出回っている教本に書いてあったことと同じだった。

というか、この本を元に教本が作られたのだろう。

それでも、100年の間に廃れてしまった特別な魔術などが記されていて、ウィノーラはそれを書き写した。


アロッホは暇なのか、ウィノーラが机を使う番の日でもやって来た。

他の机で別の本を読んでいたり、何か計算していたり……。


昼食の時間などに、二人はいろいろな話をした。


魔術師の最高峰が宮廷魔術師であるように、錬金術師にも国家錬金術師という制度がある。

アロッホは一時期はそれを目指していたようだが、平民の出身だといろいろと難しいらしい。


「平民では、難しいんだ?」

「まあ、どこも貴族社会だからね」

「もしかして、私と結婚すれば自分も貴族になれると思ってる?」

「えっ? いや、それは……。それは、ありなの?」


言ってみただけだが、アロッホは食いついてきた。

アロッホの側からすれば、貴族との縁談など望めるものでもない。

それをウィノーラが言い出したなら渡りに船だろう。


「冗談よ……何、本気にしてるの?」


それなりに有能であることは認めるけれど、それ以上ではない、というのがウィノーラの評価だった。

そもそも、アロッホとウィノーラが結婚したとしても、それは平民階級になるはず。

意味がない。


それでもアロッホは、何か錬金術でやりたいことがあるらしく、足しげく特別図書室に通っては、やり方を探しているのだという。


それを見ていると、ウィノーラも、自分は何がしたくてここに来たのだろうかと考える。

考えても、これと言った目標はなかった。

ならせめて、先祖が残した魔術だけでも全て習得しようと思う。


大魔導士の本を読み終えたウィノーラは、いくつかの魔術をアロッホの前で実演して見せた。

アロッホは魔術自体に疎かったようで、いろいろと質問して来たりた。

簡単に応えられる質問もあれば、基本的過ぎて哲学問答のようになってしまう質問もあった。


急な質問に答えられうように、ウィノーラも裏で勉強するはめになったが……まあ、宮廷魔術師の審問には役に立つだろう。



宮廷魔術師の審問まで半年を切った頃から、ディスオルトが絡むようになってきた。

ディスオルトは、伯爵階級の魔術師だ。

ウィノーラと同じく、宮廷魔術師を目指していて、四年前にも挑戦したが夢破れたらしい。

大量の賄賂をばらまいているという噂があった。


だがそれが何になるのか?

二人の実力の差は、素人でもはっきりとわかるレベルだ。

どれだけ金を積んだところでごまかせるものではない。


だがディスオルトは、嫌な男だった。

全ては無駄だから諦めるようにと忠告して来たり、笑顔で脅して来たり。

ウィノーラはその全てを無視していた。


どれだけ嫌がらせをされたところで、審問が終わるまで耐えきれば問題ないはずだ、という思いがあった。



宮廷魔術師の審問まで三か月に迫ったある日、ウィノーラは倒れた。

毒だった。


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