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【日記】不寝番、ちょっと眠い



 三十五日目


 馬鹿と煙は高い所に昇る、と俺の知識は時折妙な語録を蓄えている。

 俺たちの野営地はミロシュの炎で生まれた煙と煤にまかれた。

 延焼こそなかったが永続的な環境マナの抑制は難しいらしく、炎、煙、熱、火種――と何重にも環境を制御しなければならない炎魔道術をミロシュが避ける理由が分かった気がした。

 商人ベニートは狼を追い払ったことよりも、商品の汚れを心配していた。

 幸い煤も臭いも、悪影響を与えずに済んだらしい。

「感謝よりも商品を心配するのは商人として当然だ」とベニートの子供たちにローニャが笑っていた。

 それに間違いはないのだろうが、ミロシュとラウトは複雑な想いを抱いているようであった。

 依頼である以上、感謝は言葉ではなく金額で表すものだ。

 商品を危険に晒すなと罵倒されないだけマシだな。



 ローニャが捕まえた(捕まったとも言える)水の精霊は、何とかなりそうだ。

 スペリオルと名付けられた水の精霊は幸いにも気性が大人しく、ローニャに無茶な魔力を要求していない。生命を脅かさない範囲内で、俺から移せる魔力だけを得ると水精スペリオルは約束した。

 水精スペリオルは生まれたてで、まだ幼い。

 最初は三歳児相当の知能から始まり、契約者とコミュニケーションを重ね、魔力を取り込みながら急速に成長する。成体まで達した後は必要な時に必要な分の魔力を与えたらいいとミロシュは言っていた。


 どのくらい時間が掛かるのか。

 それはミロシュにも分からないらしい。

 取り敢えず、水精スペリオルには頑張って成長して欲しい。

 俺に密着して寝息を立てているローニャが邪魔で仕方ない。

 邪魔……は言い過ぎかもしれないが、ローニャは体温が高く、魘されているのか時折唸り声をあげる。

 自分以外が寝静まる最中、突然の唸り声がどれだけ俺を驚かすかは言うまでもない。


 ただ、本当にこの方法で魔力を移せるのか?

 ミロシュが魔道術を使う時のような、力の抜ける感覚はない。

 伝わるのは、ローニャの体温だけだ。



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