【日記】胸糞悪さ
三十三日目
暗殺者を退けた後、ローニャはずっと呆然としている。
北の聖王国――ローニャの祖国からの刺客だと言う俺の主張の根拠は乏しい。
だがネブラスカにしても、『紅燕の旅団』にしても、姿や所属を隠してベロニカを襲う意味はなく、寧ろ他が拉致誘拐を目的にしている中、今回の襲撃者はあまりに異質だ。
ローニャを殺す意味のある者は?
聖王国と戦争をしていた帝国、聖王国と国境を接しているネブラスカ。
この二国は聖王国にローニャが戻り、国力を取り戻すのを恐れるかもしれない。
それとカンザス公国も、考えられないことはない。
ネブラスカとの国境を持ち、紛争が絶えない現状、自国より与し易い餌を――混乱する他国を用意して釘付けにするのは悪い考えではない。
最後はベロニカの祖国、聖フォーサイス王国だ。
ローニャはあまり祖国について語りたがらず、俺もしっかりと聞く機会はなかった。
だが小耳に挟んだ情報が正しいなら、ローニャは国王の娘ではなく姪っ子――現王の直系ではない。肩書は先王の娘だ。現国王に子供がいて、その子が邪魔に思い……いや、そう言えば暗殺者の一人がローニャを見て口走っていたな。
「間違いない、先王……いや、先々王の面影を持つ少女」
新たに就任した王から命じられ、継承権を持つローニャを始末しようとやって来た暗殺者なのだとしたら、少なくとも刃が鈍るのは納得出来る。圧倒的に優位に立てる森の中で仕掛けず、姿を隠して素性に繋がる情報を漏らすのは、理不尽な命令を承服出来ず、しかし従わざるを得ない彼らのささやかな抵抗なのかもしれない。
まだどこの国の刺客、と決めつけるのは危険だが、刃を向ける以上は打ち倒さなければならない。
たとえローニャの祖国が相手でも、俺は容赦するつもりはない。
人道の概念が乏しいこの世界なら、俺はどこまでも残酷になれる気がする。
そう、どこまでも、残酷に。




