【日記】クララを世捨村に送り出した後
三十一日目
意外だった。
俺はもっと、クララが取り乱すのかと思っていた。
アーデルハイドが死に、その報せを聞いた娘が涙を一筋流すだけで留まる筈がない。女性とはもっと感情の起伏が激しく、理不尽な存在だ。
……いや、俺の価値観で考えるのは間違いか。
アーデルハイドは理性的な人間だった。ならば娘のクララは、アーデルハイドの背中を見て育ったクララが、その理性を引き継いでいても不思議ではない。
だが唯一の心残りがあるとするなら、ロックが付き添っていたことだ。
クララは母を失い、ロックも仲間を失っている。
共通項を持つ二人が暫くの間行動を共にするのはよくあることなのだろう。
アーデルハイドには悪いが、あのページは読ませて貰った。
十代で結婚出産……は、俺の感覚ではかなり早い。アーデルハイドと同じく壮絶な人生を送るとは一概に言えないだろうが、若い男女が一緒に過ごせば、そういう関係になり易いと聞く。
冒険者ロックと懇ろな間柄になり子供でも身籠ったら、……。
いや、流石にそこまで口を出すのはダメだな。
もし口を出しでもしたら、お前こそどうなんだ、と返って来るに決まっている。
今の俺の立場は弱い。
良い思いをしたから仕方ない気もするが、兎に角、暫くは大人しくしておこう。
そう言えばコーラルの掲げていた郵便マーク、アレは本当に郵便を意味した印だった。
魔法使いなのだから魔道士ギルド、もしくは冒険者ギルドの人間なのかと俺は思っていたが、コーラルの出身は商人畑、郵送ギルドから成り上がり、数多くあるギルドを吸収統合したらしい。
俺の世界で流通革命を起こせる魔法の鞄は、当然この世界でも革命を起こしていた。
鉄鉱石や木材といった重たい物は難しいだろうが、綿花や塩砂糖など軽くて嵩張り需要の大きい物を一度に大量に運べるとなれば、恐るべき経済効果を生み出すのは当然だ。
数多く出回れば行商の概念も、関税のやり方も一変する。
そして綿花に塩砂糖の主要生産地は南部……まあ、仕方ないことだと思うが。
中原に国家が乱立する世界情勢で、自由都市が生き残るには他国が振り翳す強権的な支配以外の何かが必要で、それに抜擢されたのが経済的な繋がりなのだろう。
共通通貨の実現や産業革命の代わりに魔道術を用いた成長。
この世界は、俺の知らない要素を多く用いて発展している。火薬もなければ民主主義もない。国境線も曖昧で、人種の違いも黒白黄色なんてもんじゃない。冒険者なんて職業が成立する未成熟で危険な世界だ。
俺の興味を擽るのは、言うまでもない。




