【日記】野営。夜は冷える
二十二日目
ミロシュに指摘されるまで気付かなかった。
あの悪趣味な髑髏マスクに、見た目の厳つさ以外の意味があったとは……。
俺が『亡霊挽歌』の恐ろしさを実感したのは、アレが初めてかもしれない。
魔剣や妖刀が使用者を取り込む。創作の中にしかないベタな展開だと思っていたが、どうやら実際に起こり得るから創作の設定として採用されているのだと実感した。
亡霊の声は俺にだけ聞こえる。
髑髏マスクを着けている内は上澄みの、限られた一部の声だけだ。
外した時は怨嗟――いや、怨嗟ですらない殺意に支配された亡霊たちの声が全てを覆い尽くし、俺に囁き続けてきた。
亡霊は、一度死んでいる。
当然のことだが、これは重要なことだと俺は思う。
俺のように『亡霊挽歌』を握り戦場に出た者が、全員穏やかに生涯を終えたとは思わない。寧ろ志半ばで倒れた者や不意の攻撃で命を落とした者が殆どだろう。少なくとも、畳の上で子供や孫、魔剣に見守られて寿命を迎えた者はいない。
自分の死を目の当たりにした人間が真面な精神を保てるだろうか?
無理だ。必ず発狂する。
許容を超えた痛みに身を捩り、緩やかに冷える体の感覚は一生が終わるまで味わった筈だ。俺は体験したことはないが、想像しただけで悪寒が走る。正気を保てる自信は、当然ない。
亡霊たちは飢えている。
戦いに、復讐に、誰かの幸せを壊す喜びに。
俺が『亡霊挽歌』の持つ本来の強さを引き出すのなら、そういった危険性と向き合い、利用しなければならない。
ほんの上澄みの、綺麗に生涯を終えた剣士だけでは足りない。より強い力を得て目的を達するには、狂うほどに戦い続けた狂戦士たちの生涯を、正気を保ったままこの身に宿すしかない。
俺に出来るだろうか?




