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【日記】倒れた男の傍で


 十九日目


 厄介なことになった。

 皇帝街道を外れ、山村を経由する形でカンザス公国の王都に向かおうと言い出したのはローニャだ。ミロシュはそれを止めなかったし、俺も人目を避けれるならそれが一番だと返した。

 オレーサでミロシュに襲い掛かったネブラスカの斥候部隊、ミロシュの姉弟子で同じく魔法使いサクラメントの教えを継いだオリンピア、どちらもローニャを狙う意志を見せていた。斥候部隊の方はどうなるか分からないが、オリンピアの方とはこれから遭遇する可能性は高く、他の仲間の存在も示唆していた。いや、オリンピアの仲間こそがローニャを欲している口振りだった。これで諦めるとは思えない。

 オリンピアが扱う魔道術は、兎に角手数が多い。相対すればひどく疲れ、広範囲に作用する魔道術で他者の巻き添えは付き物だ。

 ローニャは無関係な者の犠牲を嫌う。

 潔癖だ、なんて言うつもりはない。だが自分の命と他人の命、両方が天秤に掛かった時に初めて人の本質は表れる。若い――いや、幼いローニャに強要するのは酷だが、早々に割り切らないと余計に後が辛くなる。

 記憶がない俺が何故そんな感情を持つのかは妙だが、似た後悔を無意識に刻み込んでいるとしたら筋が通る。記憶を失う前の俺が人を殺める葛藤を乗り越えていたなら、無意識の内にローニャにそれを味わってほしくないと思うのも不思議ではない。


 ああ、俺は何を書いてるんだ。

 兎も角、安全を優先して選んだ道に危険が潜んでいる可能性を目の当たりにしてしまった。ローニャは獣臭さを、ミロシュは妙な魔力が、俺は強烈な死臭を、それぞれが感じ取っていた。

 この男は何から逃げていた?

 武器を手にしていたが、戦う選択肢を投げ捨ててまで見知らぬ俺たちに助けを求めたのは、相当危険な奴らに追われていたからじゃないのか?

 鬱蒼と茂る木々の向こうには、いったい何が居た?

 俺たちはただでさえ沢山の厄介事を抱えている。

 これ以上はごめんだ。




 ……が、まあ、これからの展開は概ね予想がつく。

 どうせ、係わることになるんだろうな。

 ローニャの目が活き活きとしている。根拠はそれで充分だ。

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