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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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6『隣の席の望月さん』

「ふわぁ……」


今日何度目かもわからない欠伸をこぼす。


時刻は15時を少し過ぎた頃。

昼休憩と5限目の体育の影響か、酷い睡魔が俺を襲っていた。昨晩眠りに就くのが遅かったのも影響している。

教師が教壇の上で古文を読み上げているが全く頭に入ってこない。


昨日、七瀬さんの家にお邪魔した後、帰宅したのは夜の8時過ぎだった。

風呂を洗ったり、晩飯を作ったりして時間が過ぎていき、ベッドに入ったのは日が変わる頃になっていた。


そこまではいつもと同じだ。


しかし眠りに就こうとすると、ドラゴンに襲われて大怪我を負ったトラウマと、知らないおっさんと二人組の魔法少女になってしまった興奮と困惑が俺を襲った。


建物をなぎ倒し、この世に地獄をもたらす怪物に対する恐怖。それを倒したという興奮。

昨夜は随分と情緒不安定な夜を過ごしたものだ。


「ふわぁ……」


眠気がこみ上げてきて、俺はまた欠伸をする。


「ふわぁ……」


すると、隣の席からも欠伸が聞こえてきた。

顔を向けると、恥ずかしそうに笑う女子生徒が目に入った。


結波(ゆうなみ)くんの欠伸がうつちゃった」


「俺がうつさなくても、望月さんはいつも欠伸しているだろ」


望月真白。


席替えで偶然隣になるまでは話したこともなかった。

忘れ物をした望月さんに授業の間だけ教科書を見せたことがきっかけで時々話すようになった。


かわいい顔でよく笑う人だが、彼女に話しかける人は少ない。

よく早退するのと、常に欠伸をしていることが理由だ。


しかも、家が相当裕福なようで、一年中家事代行サービスを利用しているそうだ。

望月さんのお弁当はスタッフが作っているらしい。


「仕事が忙しくてね」


「学生なのに凄いよな。ビジネスをやっていて」


「そ、そうだね……あ、ありがとう」


なぜか声が裏返る望月さん。


望月さんの早退の理由は仕事で、彼女は自分の会社を持っているらしい。

住む世界が違うという点も、彼女がクラスメートから話しかけられない理由だ。


「そういえば望月さんって何のビジネスをやってるの?」


「えっ? あー……えーと……怪物関連のビジネス?」


「なんで疑問形?」


「あ、いや、ごめん。ビジネスって言うほどのものじゃないなと思って。ほら、駆除された怪物の……その、残骸っていうの? それをリサイクル業者に回すだけの、すごく地味な仕事なんだよね。正直、人に『何のビジネス?』って聞かれて胸を張って言えるような内容じゃないから、つい疑問形になっちゃった」


望月さんが早口でビジネスの内容を説明する。


「望月! うるさいぞ!」


「すみません、先生……」


望月さんは俺に会釈をすると、顔の向きを黒板に戻した。

会話の間に黒板に記された文字の数が増えていて、俺と望月さんは急いでノートに写す。


シャーペンが慌ただしく動く音に隠れるように、スマホのバイブ音が鳴る。音の発生源は望月さんの机の中だ。

望月さんが慌てて取り出す。電話の着信画面には『霧島さん』と出ている。見るつもりはなかったが、目に入ってしまった。


「先生、すみません。仕事が入って……」


「またか。望月」


教師が大きな音を立てて教卓に両手を置く。


「望月、いいか? 学生の本分は勉学だ。いくら外の世界で稼いでいようが、この学校にいる以上、特別扱いはできない。そもそも、10代の時期にしか得られない学びや、同世代との関わりというものがあってだな……」


「校長先生から自由に早退していいと許可を貰っていますので失礼します」


机の中の物を全て鞄に入れ、早足で教室を出る望月さん。

教師のため息と、所在不明の舌打ちが教室に残った。……早退を繰り返す望月さんを快く思わない生徒もそれなりにいるのだ。


それから6限目が終わるまで、俺は何度も欠伸をしながら過ごした。


ホームルームが始まるまでの少しの待ち時間。後ろの席の田村が俺に話しかけてくる。

こいつは暇さえあれば誰にでも話しかける人間で、特に仲がいいわけではない。

まぁそもそも、俺に友だちと呼べるような人はいないのだけれど……。


「結波。昨日のニュース見たか?」


「昨日の?」


「そう。新しい魔法少女が発見されたんだって。しかも、二人同時に!」


「そっ、そうなのか……」


声が裏返る。

自分の声の裏返り方が、さっきの望月さんに似ていると感じた。

幸いなことに田村はスマホの画面に夢中で気付いていない。


「ほら見ろよ。目隠しをした子と黒いセーラー服を着た子、結波どっちが好みだ?」


「…………」


魔法少女というのは一種のアイドルとして扱われている。

『どの魔法少女が一番かわいいか』という議論で盛り上がり、魔法少女の外見にランキングが付けられることも珍しくはない。


人の容姿に公然と評価を付けることに嫌悪感を覚えながらも、田村のスマホを見る。

そこに映っていたのは魔法少女の姿の俺と七瀬さんだ。ドラゴンを倒した後、対特定有害生命体防衛群から逃げる場面を誰かが撮影したものだろう。


「二人ともすげぇかわいいよな。変身前はどんな姿してるんだろうな?」


言えない。

その魔法少女たちの本来の姿が、くたびれたアラフォーのおっさんと平凡な男子高校生の俺だなんて。


改めて画面の中の俺を見る。

スカート短すぎないか? ミニスカというわけではないが、せめて膝は隠れるくらいの長さはあってほしい。


「この二人は野良みたいだけど、政府に登録するつもりはないのかな?」


「……どうだろうな」


悪いが政府に登録するつもりはない。

もし、この美少女の中身が俺だとバレたら……。考えただけで恐ろしい。


魔法少女のプライバシー保護のため、政府に登録しても変身前の顔写真や名前といった情報は公開されない。

それでも、活動記録やインタビュー、政府機関の出入りなどから身バレをする魔法少女は少なからず存在するのだ。


身バレのリスクと、政府に中身が男だと把握されることへの恥ずかしさ。

その両方からこの結論に至った。


「この二人が登録してくれたら、ノーラちゃんの負担が減るんだけどなぁ」


「田村の推しの魔法少女だっけ?」


「そう。エリュセイアが最強だって言う奴が多いけど、俺は絶対ノーラちゃんの方が強いって信じてる!」


この辺り一帯の地域を担当する魔法少女・ノーラ。

正規の魔法少女である彼女は野良の魔法少女である俺たちの追跡任務を受けているだろう。

最強論争に名が挙がる魔法少女に追われるなど、つくづく運がない。


「……ん? ノーラちゃん。今戦ってるんだって」


スマホをいじる田村が続けて呟く。


「15時くらいに波座区で怪物が出たんだって」


「それほんとか!?」


クラスのみんなの視線が俺に集まる。だが、そんなことどうでもいい。


「急にどうしたんだ?」


「波座区には……七瀬さんの勤めている会社があるんだ」

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