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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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7『私が戦う理由』

七瀬視点

私は画面を見つめたまま、冷めたコーヒーに口をつけた。

スプレッドシートの数字が、蛍光灯の白い光の中でじわりと滲んで見える。


午後三時。

一日でもっとも眠くなる時間帯だ。


「昨日ドラゴンが出たみたいですけど、七瀬さんは大丈夫でしたか? 帰宅のタイミングでしたよね」


同僚の吉川さんが気だるげにキーボードを叩いている。


「見ての通り元気ですよ」


「そうですね。七瀬さんはいつも通りくたびれてます」


彼は笑いながら私をいじってくる。


「ええ、私はくたびれたおじさんですよ」


「その自虐ネタ、あんまり使いすぎると逆に印象が悪くなりますよ? 一人に対し一回までとかルール作っといたほうがいいです」


「吉川さんが言わせたんでしょう……」


私たちは小声で笑い合う。


「七瀬さんは見たんですか? 例の二人組魔法少女」


「ゲホッゲホッ」


コーヒーを喉に詰まらせてしまう。

脳裏に浮かぶのは、通勤時に電車の中で目にした一枚の画像。惰性でSNSを覗いていたときに、私は見てしまったのだ。


彼方くんにお姫様抱っこをされた私が映った画像。


トレンド1位。

ハッシュタグには『百合魔法少女爆誕』や、『美の暴力』『てぇてぇ』『尊死』『ギャップ萌え』といったものが使われていた。


電車の中で小さく奇声を上げてしまった直後、隣の女子高生と目が合った。あの時の彼女の、あからさまな嫌悪と警戒の入り混じった眼光といったら。

彼女は満員電車の混雑をものともせず、人混みを押し分けて次の駅で降りると、早足で隣の車両へと去ってしまった。私という存在から、一刻も早く逃れたいと言わんばかりに。


「ネットで画像が出回ってますけど、最初見た時、僕は逆だろうと思いましたよ」


「……逆とは?」


深呼吸をして平静を取り繕い、吉川さんに相槌を打つ。


「お姫様抱っこをする方とされる方ですよ。可愛らしい中学生風の女の子が目隠しをした妖艶な雰囲気の女の子を抱っこしてるんですから」


「……ああ、なるほど」


私の変身先の姿は高校生くらいのお姉さんといった見た目で、『イケメン女子』というハッシュタグすら付いていた。

対して彼方くんの変身先の姿は活発そうな中学生の女の子。イケメン女子の方がお姫様抱っこをされるのか、と言う話だ。


真相は男子高校生がおっさんをお姫様抱っこしているだけなのだが。


「ネットではエレナとシルバって呼ばれてるみたいですよ」


「電子のエレクトロンと、銀のシルバーからですか」


「二人組の魔法少女なんて初めてですけど、姉妹なんですかね?」


いえ、何の関係もなかったおっさんと少年です。


内心でツッコミを入れつつ、コーヒーを口にする。

目の疲れをとるために窓の外へ視線を向けると、妙な物体が飛んでいることに気づいた。


鷲の上半身にライオンの下半身。

……グリフォン?


私がグリフォンを視認したのと同時、社内のスマホが一斉にけたたましい警報音を鳴らした。


「七瀬さん! 社の地下駐車場へ避難しましょう!」


「ええ、わかりました……!」


社内は、悲鳴と怒号、何かがひっくり返る音で埋め尽くされていた。

定期的な避難訓練など、窓の外にうごめく本物の前には何の役にも立たない。


グリフォンが、こちらのビルへ向かって一直線に突っ込んでくる。

見開かれた黄色い眼球、その奥のまん丸な黒い瞳と、完全に目が合った――。


衝突の直前、巨躯が猛然と旋回する。

鼓膜を突き破るような悲鳴。直後、凄まじい風圧が窓ガラスを木端微塵に粉砕した。オフィスに爆風じみた旋風が吹き荒れる。

宙を舞う書類、ひっくり返るデスク。キャスター付きのオフィスチェアが猛スピードで滑ってきて、私の脛に激突した。


「つっ……」


激痛。幸いだったのは、ガラスの雨が降り注いだ窓際に誰もいなかったことだ。

しかし、衝撃は同僚たちの理性を完全に消し飛ばした。出口に殺到し、押し合いへし合い、中には他人を蹴飛ばしてでも進もうとする者までいる。


醜いな、と私は思った。同時に、仕方ない、とも。

怪物がこの世に姿を現して20年。人間はまだ、この恐怖に慣れてなどいないのだ。


吉川さんの血走った目は扉に釘付けになっている。

いや、ここにいる私以外の全ての人間の目は扉に向いていた。


「……力があるだけで、随分と余裕でいられるのですね」


窓ガラスがあった場所から外を見る。グリフォンは多くの物を破壊しながら力強く飛翔していた。このままでは死人が出るかもしれない。

いや、もしかすると既に……。


扉を見る。

丁度最後の一人がオフィスから脱出し、ここには私一人しかいない。天井のドーム型カメラも先ほどの衝撃で壊れている。


今ならば変身しても誰にも見られない。


「おじさんが、正義の味方になるつもりですか……」


いつの間にか声が漏れていた。

情けない声だった。


「……違います。私はただ、後悔したくないだけです」


助ける力がありながら、助けなければ後悔する。

本当に、利己的な行動だ。


「彼方くんには連絡しません。彼を巻き込みたくないですし」


私たちは二人組の魔法少女だ。二人揃わなければ戦うことは難しい。

だが、私一人でも正規の魔法少女が駆けつけるまでの時間稼ぎくらいはできる。


「変身」


壊れた窓から、魔法少女が飛び降りた。

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