↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
帰郷ルートのストレンジャー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/40

31『偏食家な吸血鬼』

「……あれだ」


 先頭をいくニードルが、声を潜めて告げた。

 天井に張り付いたまま、俺は真下を覗き込む。


「黒い霧……?」


「そこからゾンビが生まれていますね」


 シルバの言う通り、薄く広がった黒い霧の底から、不気味なシルエットが次々と這い出してきていた。

 俺たちの言葉に、ニードルが静かに頷く。


「怪物が現れる前には、必ずあの黒い霧が発生するんだ。霧の濃さを見れば、怪物の危険度がわかる」


「あの霧、魔力だよな? 魔法少女の魔力と違って、やたらと禍々しいけど……」


 自分の体内に意識を向けてみる。

 巡っているのは、白く透き通った穢れのない純粋な魔力。それだけに、眼下の異様さが際立って感じられた。


「アタシがカミィから聞いた話だと、怪物ってのは穢れた魔力の塊らしいからな」


「なぁ、あの霧はどうやったら消えるんだ?」


「浄化能力持ちの魔法少女がいないなら、魔力が底を突くまで待つしかない。……って、ん?」


 ニードルが短く息を呑んだ。

 突如、黒い霧が猛烈な勢いで渦巻き、一箇所へと収束を始めたのだ。霧は凝縮され、人一人が収まるほどの禍々しい黒の繭へと姿を変える。


「……まずいな。おい、ヤバいのが来るぞ!」


 ニードルの声に焦りが混じる。


「ヤバいのって?」


「二人とも、戦闘準備だ!」


 ――ピキ、ピキピキッ。

 不吉な音を立てて、繭に亀裂が入る。俺はすかさず電磁石化を解除し、天井から地面へと着地した。


 割れた繭の奥から現れたのは、一人の男だった。

 貴族のような格式高い衣服を纏い、オールバックの銀髪に、妖しく輝く真紅の瞳。薄い唇には、こちらを見下すような傲慢な笑みが浮かんでいる。


「……吸血鬼」


 ニードルが苦々しく呟く。


「吸血鬼って、ノーラのモデルになった?」


「そうだ。吸血鬼は強いぞ……!」


 そんな俺たちの警戒を余所に、吸血鬼は尊大な視線を向けて、高圧的に問いかけてきた。


「娘よ。また二つの世界が接触したのか?」


「……は?」


 予想外の言葉に、俺とシルバは思わずぽかんと口を開けてしまう。

 その反応が気に入らなかったのか、吸血鬼は露骨に不快そうな表情を浮かべた。


「ふん、なんと無知な。……まぁよい。貴様らを、目覚めの最初の食事としよう」


 放たれたのは、鮮血の残光――血の斬撃だ。


「ハッ!」


 先頭のニードルが鋭い踏み込みから正拳を突き出す。

 放たれた衝撃波が、迫る凶刃を正面から叩き潰した。激突の爆風が俺の頬を打つ。


 吸血鬼は、面白そうに片眉を跳ね上げた。


「ほう……。ならば、出力を上げるまでだ」


 一瞬で、五条の赤い線が虚空に走る。

 速い。視認することすら困難な速度。

 呆然と立ち尽くす俺たちの前に、すぐさまニードルが割り込んだ。


「おおおおおっ!」


 咆哮とともに、猛烈な密度の魔力を込めた五連撃の衝撃波が放たれる。

 ニードルが文字通り、身を削って俺たちを庇っているのがその背中から伝わってきた。


「二人とも! 目に魔力を流して動体視力を強化しろ! 足手まといを護りながら勝てる相手じゃない!」


「すぐやる!」


 目に魔力を流す? そんな技術、初耳だ。だが、迷っている暇はない。体内の魔力を強引に視神経へと流し込む。


「ぐっ……あ、ガッ……!」


 視界が真っ赤に染まり、眼球が裏返るような激痛が脳を突き刺した。

 出力の加減がわからない。それでも、痛みを根性でねじ伏せて目を見開く。


 世界が、変わった。


 吸血鬼が追加で放った十条の斬撃。それが、まるで泥の中を進むかのように、極限までスローモーションに引き延ばされて見えた。


「見える……!」


 俺は左前方へと地を蹴り、迫り来る死線を紙一重で跳び越える。


「シルバ! とにかく硬さに特化したワイヤーを俺の手に巻け! 分厚くだ!」


 視界の端で、シルバがワイヤーを駆使して立体的に斬撃を回避しているのが見える。

 彼女は俺の意図を瞬時に汲み取り、空中を舞いながら極細の鋼線を射出した。


 ガガガガガッ! と硬質な音を立てて、俺の両拳に何重もの鋼鉄の層が形成されていく。

 これならいける!


 俺は全力の身体強化を全細胞に施し、一気に吸血鬼との距離を詰めた。間合いは残り一メートル。

 肉薄したその瞬間、吸血鬼の指先が再び静かに跳ね上がる。追撃の斬撃。

 この至近距離では、いくら世界が遅く見えても回避は不可能。


 なら、避けるのをやめるだけだ。


「うおおおおおっ!!!」


 バチバチと火花を散らす電磁の力をワイヤーの拳へと乗せ、全力の正拳突きを突き出す。


 ――ガキィィィィン!!


 斬撃と拳が正面衝突し、肉体が軋むような重い衝撃が腕を伝う。

 鋼鉄のワイヤーが削れ、火花が視界を埋め尽くすが、構わず力で押し切る!

 俺の拳は無傷、このままその傲慢な顔面を叩き割る――!


 拳が吸血鬼の肌に触れる、その寸前。


「――何っ!?」


 目の前の質量が、唐突に消失した。


 殴り抜けた拳が空を切り、前のめりになった視界を、一匹の黒い蝙蝠が不敵に横切っていく。

 さっきまで、そんなものはどこにもいなかったはずだ。

 蝙蝠は流れるような軌跡を描き、俺の後頭部へと回り込む。


「しまっ――」


 慌てて振り向いた瞬間には、すでに蝙蝠は妖艶な銀髪の男へと姿を戻していた。

 見下ろす真紅の瞳。俺の首筋を目がけて、容赦のない手刀が振り下ろされる。


「やめろぉッ!」


 ニードルが猛然と突っ込んでくる。吸血鬼がそれを牽制するために、赤い斬撃を飛ばす。


 コンマ数秒の、隙。

 俺はその刹那にすべてを賭け、全力で地面に這いつくばった。


 シュンッ!


 頭上を、空気を切り裂く鋭い風切り音が通り過ぎていく。手刀は、俺の髪の毛を数本散らすのみで空を切った。


「っ……あっぶねぇ……!」


 心臓がうるさいほどに跳ね回り、全身の血の気が一気に引いていく。

 吸血鬼は仕留め損ねた手を止め、酷く退屈そうに深いため息を吐いた。


「……中途半端なものは嫌いだ。弱ければ嬲り甲斐があり、強ければ戦い甲斐がある。だが、貴様らにはそのどちらもない」


「……随分と偏食家だな。そのまま油断しててくれよ」


 膝の震えを必死に抑え、軽口を叩き返した俺を、吸血鬼はゴミを見るような目で一瞥し、静かに片手を掲げた。


「ならば慢心せずに戦おう。……腐肉どもよ。傍観はもうよい。貴様らも働け」


 その言葉が引き金だった。

 今まで背景のように静まり返っていたゾンビの群れが、一斉に、濁った咆哮を上げて俺たちへと牙を剥いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。