20『特等席に座る者』
「「《電磁石化》!」」
俺とシルバの息の合った叫びとともに、電磁石化したワイヤーが地面にのたうつ。
狙いは一つ。男たちが放った銃弾をすべてこの磁力で地面に吸い寄せ、無力化することだ。
放たれた銃弾は地面に吸い寄せられる――気配すらなく、まっすぐに俺たちの眉間へと飛んでくる。
「危ないよ」
一歩前に出たノーラが、大鎌を軽々と振るった。
連続する甲高い金属音と、散る火花。放たれた銃弾のすべてが、あらぬ方向へと弾かれていく。
そんな神業を、ノーラは俺たちの方を振り返り、呆れ顔のまま披露してみせた。
「銃弾って基本、鉛でできてるから。磁石にはほとんど反応しないよ?」
「……マジで?」
「てっきり鉄製かと。浅学を晒し、申し訳ありません……」
頭を抱える俺と、大真面目に凹むシルバ。
そんな俺たちを余所に、ノーラが視線を前方へと戻した。
「でも、意味がなかったわけじゃないみたい。見て」
「あれ……銃口が下がってる?」
言われて気づく。そうか、銃弾は鉛でも、銃本体には鉄が多く使われている。
男たちは強烈な磁力に引っ張られる銃を必死に支えようと、全身の筋肉を強張らせていた。
顔に醜い皺を寄せ、さっきまでの歪んだ笑みは綺麗に消え失せている。
チリン、と小気味いい音を立てて、男たちの懐から護身用の短刀が飛び出し、電磁石ワイヤーに吸い込まれていった。
その様子を見て、リーダー格の男が苦渋に満ちた命令を下す。
「チッ、無駄に体力を削られるだけだ……銃を捨てろ!」
ホールドを解かれた銃が、磁力に引かれて独りでに地面へと引きずり込まれる。同時に、文字通り「銃弾の雨」が止んだ。
その瞬間、ノーラの姿がかき消える。
「――遅い」
高速で放たれた峰打ちの一閃が、男たちの胴を薙いだ。殺すつもりはないらしい。
「ぐっ……!?」
「……っがは!」
まともな直撃。だが、男たちは骨を砕かれながらも、その場に踏みとどまって声を漏らすのみだった。
それを見たシルバが、意外そうに片眉を上げる。
「……身体能力が、妙に高い?」
「確かに。あいつら魔法少女でもないのに、シルバくらいの身体能力がある」
「薬でもやってるんでしょ」
俺たちの疑問に、ノーラは事も無げに答えた。
そして、大鎌の柄をトントンと手元で弄びながら、冷ややかな視線を向け直す。
「まぁ、誤差でしかないけど」
ノーラが容赦なく大鎌の柄の先端を突き出した。
ドゴォッ、と重い音が響き、男の一人が声を上げる暇もなく道路脇の花壇へと吹き飛ぶ。緑の中に突っ込み、泡を吹いて綺麗に気絶した。
さっそく一人脱落。
ノーラが不敵に微笑み、大鎌を構え直す。
「さあ、残り四人」
「舐めるなよクソガキ……っ!」
リーダー格の男が懐へ手を伸ばす。だが、その指先が目的の物に触れるより早く、ノーラの身体がコマのように鋭く回転した。
リーダー格の男が大の字になって倒れる。
残るは三人。風を切り裂く、残像すら残らない三連撃をノーラが繰り出す。
鈍い肉声が立て続けに響き、男たちは悲鳴を上げる暇すら与えられずに崩れ落ちた。地面に転がった彼らの白目は、完全にむかれている。
「……俺たちの出番、一ミリもなかったんだけど」
「ううん。銃を無力化してくれたのは大きかったよ。ありがとう」
ノーラは大鎌を肩に担ぎ直し、無造作にリーダー格の男の懐へと手を突っ込んだ。
引っ張り出されたのは、不気味な青い光を放つ金属製のカプセルだ。
「ノーラさん。それは?」
シルバが覗き込む。
「怪物兵器。……見たところ『冷気爆弾』かな。被弾した対象を強制的に冬眠状態にさせるやつ」
「投げられる前に片付いて、本当に良かったです……」
シルバが胸をなでおろし、安堵のため息を漏らす。
ノーラがほぼ単騎でこの場のテロリストを制圧した。しかし、耳を澄ませば、銃声と爆音はまだ街のあちこちから絶え間なく響いている。
「ノーラ。ここからは手分けしよう」
「……正気? 相手は怪物兵器と銃をぶっ放してくるんだよ?」
ノーラが眉をひそめる。当然の反応だ。魔法少女がどれほど超常の力を有していようと、無敵ではない。
頭や心臓を撃ち抜かれれば、あっけなく死ぬ。
「コソコソねずみみたいに動けば問題ないさ。あいつら、なぜか道の真ん中を堂々と行進してるし」
「でも……」
「大丈夫だよ。な、シルバ?」
俺が振ると、シルバは一瞬だけ視線を泳がせ、それから小さく頷いた。
「……ええ」
煮え切らない、けれど確信に満ちたシルバの声音。
俺たち二人のうち、どちらか片方さえ生きていれば、死んだもう片方は生き返る。カミィから与えられた俺たちだけの特性だ。
「今は一分一秒が惜しいか。あいつら、複数に分かれて進軍してるみたいだし。……わかった。死なないでよ」
「ノーラもな」
背を向け、ノーラは一度だけこちらを振り返ると、弾かれたように戦場へと駆け出していった。
静まり返った国道で、シルバがぽつりと困惑を漏らす。
「一体、この街で何が起きているのでしょうか……」
「わからない。ノーラに襲撃されたと思ったら、今度は謎の武装集団が東京に現れるなんて。どうなってんだよ」
本当に、何がなんだか分からない。思考が完全に置いてけぼりを食らっている。
『ふふっ』
「ん?」
「どうしましたか、エレナさん?」
「……いや、何でもない」
今一瞬、耳元でカミィのあざ笑うような声が聞こえた気がした。
だが、周囲には硝煙の臭いと静寂しかない。気のせいか。
「シルバ、建物の上を伝って移動しよう」
「そうですね。戦いの基本は上を取ることですし」
俺たちは跳躍し、ビル風の吹き抜ける屋上へと躍り出た。別の一団を捕捉するため、コンクリートの屋根を飛び移っていく。
――その様子を、遥か高みの特等席から愉しげに鑑賞している存在が一つ。
『かわいそうだねぇ。プロメテウスの陰謀も、茜が自分たちの敵だということも、なーんにも知らないんだから』
カミィは、まるで極上の喜劇を観ているかのように、愉快そうに肩を揺らす。
『ああ……やっぱり人の世は面白い。僕は人間が大好きだ』




