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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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19/40

19『釣り餌と魚』

「シルバ……ごめん……」


「い、いえ……っ」


シルバが握るリング状のワイヤーへの通電を止め、電磁石化が解除される。

その瞬間、俺の全身を締め付けていた拘束感が消え去り、ようやく体の自由が戻ってきた。


「君たちって、本当にそういう関係なの?」


いつの間にか背後に立っていたノーラが、呆れ果てた声を出す。


「違うからな、ノーラ!」


「エレナさん。否定する前に、まず……どいてください」


事の顛末はこうだ。


全身にワイヤー(つまり鉄)を巻き付けた俺の体が、電磁石を握るシルバの右手へと超高速で磁気吸着される。

結果として文字通りの「猛烈なタックルからの抱擁」をかます羽目になった。


可憐な美少女二人が互いの身を寄せ合い、息を荒くしている光景。

客観的に見れば極上の百合絵図だが、当の本人たちにとっては生き地獄でしかない。


……なにせ、外皮は美少女でも、中身は男子高校生とおっさんなのだから。


「君たちがポカをしてくれたおかげで、私の仕事も早く終わりそうだよ」


コンビニの屋根をコツンと叩く、ノーラの足音。

見下ろせば、地上にはいつの間にか何人かの野次馬が集まり、スマホのレンズをこちらに向けている。


やめろ。撮るな。

またネットで『尊い系の百合魔法少女』とか書かれて拡散されるだろ。


「いまのは……その、ただの大道芸だ。見逃してくれないか?」


「確かに面白かったけどね。でも、野良の魔法少女を保護するのも私の仕事だから」


「……クソッ」


「エレナさん……安心してください。(社会的に死ぬのは)私も一緒です……」


「一ミリも安心できねぇよ……っ!」


一歩、また一歩とノーラが距離を詰めてくる。

今から起き上がろうとしたところで、体勢を立て直す前に組み伏せられるのがオチだ。


――終わった。社会的にも、物理的にも。


そう絶望した、その瞬間だった。

空気を切り裂く鋭い銃声。次いで、地鳴りのような悲鳴が遠くで轟いた。


「……怪物兵器」


ノーラが短く、忌々しげに呟く。

先ほどまでの余裕の笑みは消え去り、その横顔は一瞬で戦士のそれに変わっていた。

彼女は俺とシルバの腕をそれぞれ掴むと、問答無用で強引に引き起こす。


「二人とも。虫がいい話だってことは百も承知。だけど……あの暴動を止めるの、手伝ってくれない?」


状況は一刻を争う。俺は隣のシルバに視線を送る。


「シルバ。いいよな……?」


「もちろんです、エレナさん。……ですが、ノーラさん」


シルバが顔を上げ、交渉人の目を光らせた。

中身がおっさんなだけあって、こういう時の切り替えはやたらと早い。


「今回だけで構いません。私たちの身柄、見逃してくれませんか?」


「……いいよ。霧島さんにはチクチク文句を言われるだろうけど、始末書一枚で済むと思うし」


「――えっ」


『霧島さん』という響きに、心臓が跳ね上がった。思わず声が漏れる。

ノーラが怪訝そうにこちらを覗き込んできた。


「どうしたの? エレナちゃん」


「……い、いや。その、歩く戦略兵器みたいな魔法少女を『チクチク叱れる』なんて、その霧島って人も相当な度胸だなと思ってさ」


「あはは、確かにね。魔法少女を『国家の徹底管理下に置くべき兵器』と主張して恐れる人もいるくらいだし。……まぁ、あの人は全然恐れてないけど」


ハハ、と引きつった笑いを返しながら、俺の背中には冷や汗が流れていた。


霧島さん。

その名前には見覚えがあった。


クラスで隣の席の、望月さんのスマホだ。

画面に『霧島さん』からの着信が表示され、彼女は早退した。確かあの日は、グリフォンが出現した日だ。


……待て。じゃあ、隣の席の望月さんが、俺たちを追う最強格の魔法少女ってことか!?


いや、まだ望月さん=ノーラが確定したわけじゃない。

望月さんが霧島さんと関係があるというだけだ。


「さぁ、お喋りはここまで! 跳ぶよ!」


「ちょっ――!?」


「うわあぁっ!?」


ノーラは両脇に俺とシルバを抱えると、凄まじい脚力でコンビニの屋根を蹴った。

風を切り裂き、一跳びで数百メートル。胃袋がひっくり返りそうな浮遊感の後、俺たちは騒動の中心地へと強制連行される。


着地した国道のど真ん中。そこには異様な光景が広がっていた。

武装した五人の男。彼らは一列に並び、判で押したような正確な足取りで、ただ黙々と行進している。

時折、狂ったように空へ向けて銃を乱射する以外、周囲の店舗を襲う様子も、逃げ惑う人々を追いかける様子もない。


その不気味な行進を見下ろし、ノーラが低く呟く。


「宝石店を襲うわけでも、人質を取るわけでもない……。どういうこと?」


「快楽殺人者の類にも見えないな。弾道がわざと人混みを避けてる」


「ええ。ここから見る限り、死傷者は一人も出ていないようです」


シルバがノーラの脇の下から逆さ吊りにされた状態で、冷静に周囲を分析する。

その姿は完全にシュールな絵面だが、言っていることは的確だ。


「よし、挨拶といこうか」


ノーラが俺たちを地面に降ろし、武装集団の目の前へと立ちはだかる。

すると、集団の真ん中にいたリーダー格の男がピタリと足を止め、一歩前に出た。

男は歪んだ笑みを浮かべ、俺たちを凝視しながらひどく掠れた声で言い放った。


「釣り餌と魚じゃねぇか……。まだ飲み込んでもねぇのに、俺たちのところに来んなよ。俺たちはお前用の釣り餌じゃねぇんだ」


「……は?」


理解不能な言葉の羅列に、ノーラが眉をひそめる。


「……まぁいい。どうせ、釣り餌はたくさんあるんだ」


男が歪んだ笑みのまま、機械的な動作で銃口をこちらへ向ける。

それと同時に、遠く、別の街並みの向こうからも――全く同じ、乾いた銃声が響き始めた。

連鎖する銃声。

街のあちこちに仕掛けられた『釣り餌』の存在を予感させながら、五つの銃口が火を噴いた。

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