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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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15『平和な訓練場』

「ペンギンがっ! 空を飛ぶんじゃねぇよ!!」


「鳥類なんだし、今までサボってただけじゃないの?」


「だったら鶏も飛べるはずだろっ!」


「鶏が飛べるわけないじゃん。エレナちゃんって不思議ちゃんって感じ?」


「茜ェ……」


涼しい顔で並走する茜に、俺は般若のごとき形相を向ける。

現実を激しく疑いたくなるが、俺たちは今、空飛ぶペンギンとデッドヒートを繰り広げているのだ。


――あ、今、ペンちゃんの速度が落ちた!


「捕まえたっ!」


乾坤一擲の手を伸ばした瞬間、ペンちゃんは小癪にもパタパタと翼を動かして再加速。

俺の指先はむなしく空を切る。


速度を上げたペンちゃんが、空中からこちらを振り返った。

「キュッ?」とでも言いたげな、完璧にこちらを舐めくさったドヤ顔。

無駄に、無駄ァに愛くるしいのが、最高に腹立たしい。


「シルバっ! ワイヤーで捕まえてくれ!」


「移動で手一杯ですよ!」


シルバはビルの屋上や構造物にワイヤーを引っ掛け、振り子の原理で加速しながら空中を移動している。

瞳が小刻みに揺れていて、見るからに余裕がなさそうだ。


「ほらほらー。ただランニングするのがつまらないって言ったのはエレナちゃんでしょ?」


「あんな腐れペンギンと追いかけっこするのは望んでいなかった!」


ここ数日、俺たちは身体強化を習得するためにノクシアの訓練場でひたすら走り込んでいた。


「ただ走るのは飽きた」と泣き言を漏らしたのが運の尽き。

茜が、「ペンちゃん」なる怪物を5万パンドラポイントでレンタルしてきたのだ。


パンドラ・ネット経由でノクシアに要請すれば、訓練用の怪物をその場に転送してもらえるシステムらしい。


「ああ、もう! 腹立つなぁ……! 全然追いつけないし!」


「でも、エレナちゃんの走る速度、確実に上がってきてるよ。シルバちゃんもワイヤー移動うまくなってるし」


「ありがとうございます、茜さん……」


息せき切って感謝を告げるシルバ。

移動手段がお姫様抱っこしかなかった頃と比べると随分と前進したものだ。

身体能力が低いにもかかわらず、俺の走るスピードに食らいついている。


「体力的にも限界だ……仕掛けるなら、今しかないっ!」


俺は体内の奥深く、魔力の湖に意識を沈めて、一気にそれを組み上げる。

吸い上げた魔力を、強引に細胞へと叩き込んだ。笑ってしまうほど効率の悪い、不器用な身体強化。


地面を蹴り、爆発的に跳躍する。

アスファルトが砕ける感触。


「捕まえたぞ、ペンちゃん!」


弾丸と化した俺を、振り返ったペンちゃんがつぶらな瞳で見据えた。


「キュッ!」


気の抜けるような鳴き声とともに、翼が一閃。

わずかに高度を上げたペンちゃんの真下を、俺の身体が虚しく通り抜けていく。


「あっ……」


すれ違う、ほんの一瞬だった。

視界に飛び込んできたのは――心の底から俺を小馬鹿にした、これ以上ないほど醜悪な煽り顔。


「このド畜生がああああ!!!」


「キュッ、キュッ、キュッ!」


俺の絶叫とペンちゃんの邪悪な笑い声が、訓練場に虚しく木霊した。


「あははっ。惜しかったねー、エレナちゃん」


「大丈夫ですか?」


地面に力なく横たわる俺のもとに、シルバが急いで駆けつけてくる。


「……シルバ。強くなって、いつか絶対ペンちゃんを見返してやろうな」


「ふふっ。……はい、お互い頑張りましょう」


「キュー?」


俺たちの誓いを前に、『無理でしょ』といった様子で小首を傾げるペンちゃん。


「てことはさ、二人は明日も同じ時間に訓練場にくる感じ?」


「俺はそのつもりだけど、シルバは?」


「私もそのつもりです。また怪物が現れた時に、周りの人を守れるようになりたいので」


「そっか。うちは明日大事な仕事があるから来られないけど、二人とも頑張ってね」




◇




エレナちゃんとシルバちゃんと別れた後、すぐにポケットからスマホを取り出す。

電話はすぐに繋がった。


「ボス。作戦決行、明日になったから」


「順調だね、茜」


ボスの返答は相変わらず、超が付くほど淡泊だ。

明日、対特定有害生命体防衛群の本拠地に殴り込みをかけるっていうのに、プレッシャーとか微塵も感じてないっぽい。

こっちはさっきから心臓バクバクで死にそうなのに。


明日の段取りにミスがないように、一応行程を口に出して確認してみる。


「エレナちゃんとシルバちゃんが訓練場の入り口に着くタイミングで、政府に二人の居場所をリーク。そしたら、政府お抱えの魔法少女が二人を保護するために防衛群を離れるでしょ?」


「政府の魔法少女が訓練場に向かったのを確認した後、怪物兵器を融通している暴力組織に命令して暴れさせる」


ボスがその続きをさらっと口にする。

反社を暴れさせれば、防衛群も対応としてまた魔法少女を派遣するか、専門の部隊を出さざるを得ない。


「そうやって戦力がスッカスカになった防衛群に、うちとボスがこっそり潜入する……と」


「完璧な計画だろう?」


「うちは不安で吐きそうなんだけど」


事前の工作が効いてて、防衛群はもともと手薄状態だった。

そこにエレナちゃんとシルバちゃんっていう、偶然手に入った「最高のデコイ」と反社を利用して、さらに防衛をスカスカにする。

成功率はぶっちゃけ高い……と思う。


でもさ、せめてもう一人くらい、一緒に防衛群に突っ込んでくれる魔法少女を追加してほしいのが本音。


「仕方ないだろう。今動けるのは僕と茜、あとは皇帝(カイザー)だけだ」


「……あの快楽殺人者」


「人を殺さないことが、茜が僕に協力してくれる条件だったろう?」


ボスの声が一気に冷たくなる。

この人は、うちっていう手駒をキープするために、仕方なく「誰も殺さない」やり方を選んでるだけ。ただそれだけだ。

……正直、マジで怖い。


だけど、それでも。

ボスの目的と、うちのどうしても叶えたい願いは重なっている。


「……ボス。エレナちゃんとシルバちゃんのことなんだけど」


「どうかしたかい? まさか情でも湧いたのかい?」


最初は政府の魔法少女を釣るための、そこらへんの野良の魔法少女を求めてノクっちの訓練場に向かっただけだった。

そこで偶然出会ったのが、あの二人。

ただの「エサ」にするために近づいたはずだった。


「その二人についてさ……一つ、お願いがあるんだけど」

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