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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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14『乙女の秘密』

「よしっ! じゃあ訓練始めよっか」


茜は右手の甲をこちらに向け、人差し指をくい、くい、と二度折り曲げる。先手は譲ってやる、という合図だろう。


「シルバ!」


「分かりました!」


アスファルトが勢いよく破れ、シルバの足元から四本のワイヤーが射出される。

俺が電流を流すと、素手での接触が不可能な攻撃へと様変わりだ。


「うちは素手だからねー。ちょっと厄介……」


茜はその場に留まったままワイヤーの軌道を観察する。

シルバはワイヤーをたるませ、二本を茜の背後に、残りの二本を左右から迫らせていた


「前進こそ活路なり!」


前方に向かって――つまり俺たちのいる場所へと駆け出す茜。その拳は握られ、走りながら振りかぶっていた。

彼女はシルバを守るように立つ俺へと肉薄する。


「てっ……ちょっと待ったぁ!」


茜は振り抜こうとした腕を必死で制止させ、慌てて攻撃を停止した。

殴ろうとした俺の体に、ワイヤーが巻かれていたからだ。当然電気が流れている。


動きの止まった茜に対し、今度は俺が攻撃を仕掛ける。

拳にもワイヤーが巻かれているため、茜には回避以外に選択肢がない。


「人を殴るのが怖いのは分かるけどさ……欠伸しながらでも避けられちゃうよ」


茜がバックステップで距離を取る。

それから、仕切り直しだと言わんばかりにパンパンと手を叩いた。


「エレナちゃんもシルバちゃんも、どっちもスペックを全然使い切れてないじゃん。マジでもったいない」


「ひたすら魔法少女の力を使えば馴染んでいくって聞いたんだけど、それはあってる?」


「あってるあってる。身体強化をガチりたいなら、死ぬほどランニングするのが手っ取り早いよ」


とにかく走って走って、肉体を限界までいじめる。

そうしているうちに、魔力がじわじわと細胞の奥まで染み込んでいき、身体能力のベースが底上げされるのだ。


肉体を酷使し、魔力が馴染んでいく独特の感覚。

それを何度も体に叩き込めば、最終的には走らなくても、自分の意志で、好きなタイミングで魔力を引き出せるようになる。


「能力も同じ。シルバちゃんなら、ワイヤーを何度も発射しているうちに速度とか精度が上がってく。『こうすればいいんだ』ってのが分かってくるんだよね」


「毎日この訓練場に通って練習するしかありませんね」


「俺もひたすらランニングするか……」


「あとは体術とかも習ったら、二人ともいい感じに仕上がると思うよ。おすすめは空手かな? 怪物を相手にするわけだから合気道はそんなにだし」


空手……か。


脳裏をよぎったのは、母さんが死んでから三年、一度も顔を合わせていない親父の姿だった。

視界が歪むほどの怒号。俺の身体を容赦なく吹き飛ばした、あの夜の拳の硬さ。


なのにあいつは、そのあと酷く惨めに顔を歪めて、「ごめんな」と何度も繰り返していた。


「エレナさん?」


「っ! シルバ! 何でもない……」


背後から心配そうなシルバの声が届き、俺は慌ててかぶりを振った。


「じゃあ続きしよっか。うちはまだ能力使ってないんだから、もうちょい頑張ってよねー」


茜の言葉を合図に、シルバが何もない空間からワイヤーを伸ばす。

今度はたるませることなく、真っすぐに。


俺たちの両脇と頭上を、人が通れないほどの密度で何本もの鋭い線が貫いた。

シルバ、俺、茜の順で閉じ込められた、とてつもなく細長いワイヤーの檻の完成だ。


「うーん。行動が制限されたのはマジでキツイ」


「よく言いますよ。檻が完成する前に逃げられたくせに」


「せっかくだからシルバちゃんの術中に嵌ろうかなーって」


電流付きワイヤーを素手で引きちぎって脱出することはできない。

この狭い空間の中、茜の行動は大幅に制限された。


「エレナさん! あなたの体をワイヤーでぐるぐる巻きにします! 茜さんに突進してください!」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って!? うちのこと殺す気!!??」


「茜! 降参するなら今だぞ!!」


全身にワイヤーを巻き、さながら動くミイラと化した俺は、バチバチと狂ったように電気を爆ぜさせながら突進を開始した。

気分は猪だ。一度走り出せば、止まることなど知りもしない。


茜は必死に後退するが、すぐにワイヤーが編み上げる檻の壁へと追い詰められた。

この狭い横幅では、どうあがいたところで俺の突進を躱す隙間などない。


「いや……! うちなら何とかできる……っ!」


茜が地面のアスファルトを思いきり踏み砕く。

爆音と共に跳ね上がった巨大な塊を掴み取るなり、彼女はそれをワイヤーの檻へと全力で叩きつけた!


ガキィィン! と鼓膜を震わせる金属音が響き、ねじ切れたワイヤーが火花を散らして弾け飛んだ。

強引に抉り開けられた隙間から、茜の身体が滑り出る。


「もっ、もう終わりにしよう! これ以上は泥仕合になっちゃう!」


茜が大量のアスファルトの破片を抱えながら停戦要求を行う。

彼女の唯一の攻撃方法はアスファルトの破片を投擲すること。だが、それを行えば俺たちが怪我をする可能性があった。


「そうだな。終わりにしよっか」


「……ふぅ。結構魔力を消費してしまいましたね」


シルバが息を吐いたと同時に、ワイヤーが静かに消える。


「結局、最後まで茜は能力を使わなかったな」


「乙女の秘密だよ。……ぶっちゃけ、檻の中で追い詰められた時は本気で使おうか迷ったけど」


茜はパタパタと手で顔を仰ぎながら、参ったように笑う。

随分と接待プレイはされていたが、彼女をある程度追い詰めることはできていたらしい。


「そうだ茜。茜さえよければパンドラ・ネットのIDを交換しないか?」


「大賛成! うちも二人とお話したいし」


「これが俺たちのIDな」


パンドラ・ネットのIDを交換した後、茜はバイトがあると言ってノクシアの訓練場から去っていった。

茜がいなくなっただけで、この亜空間は急に静かになる。


「……いい人でしたね。茜さん」


「頼れる先輩魔法少女って感じだった」

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