アイリスとギルマス②
「使える属性と膨大な魔力・・・おそらく前世の記憶っていうのが鍵だね。差し支えなければ君の前世の話を聞いてもいいかい?」
ギルドマスターの問いかけにアイリスは首を縦に振る。
と同時にどちらの話からするか迷う。
正直言うとアイリスの前世の記憶の大半は魔王の記憶しか残ってない。
その理由は至って単純なもので、魔王として過ごした時間がとてつもなく長かったので、勇者の頃の記憶をほとんど忘れてしまっていたのだ。
「えっと、実は前世の記憶って言うのが二つありまして・・・正直言うと最初の頃の記憶がほとんどないんですよね。」
頬をポリポリとかきながら申し訳なさそうに少し笑いながら言うアイリス。
その言葉に驚いたのはギルドマスターだった。
「最初の記憶?もしかして君は輪廻転生を繰り返しているのかい?」
アイリスが「はい」と頷くと、ギルドマスターは息を大きく吐きながら思考を整理する。
輪廻転生自体が珍しい事例なのに目の前にいる少女はそれを繰り返している。
極めて稀な存在である。
「取り敢えず覚えている範囲で大丈夫だから教えてくれないかい?」
「分かりました。とりあえず今回が私にとって二回目の転生で、最初は勇者として世界を救いました。その時は勇者特有の聖魔法と剣技を極めて魔王を討伐しました。」
魔王という言葉に驚きを隠せないギルドマスター。
「魔王討伐だって!?」
「なぁ、前から思ってたんだが魔王ってのはなんなんだ?」
ここまで話を聞いているだけだったナタリアも会話に参戦する。
「そうだよね。今の時代に魔王はいないし、いたのもはるか昔のことで文献にも残ってないくらいだから。正直言うと僕も先代の爺さんから聞いたくらいなんだけど、簡単に言ったら魔族の王の事だよ。」
「魔族の王ね・・・ん?っていうかアイリス、お前たしか前世でその魔王ってやつじゃなかったか?」
まさかの爆弾投下によりギルドマスターは口に含んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。
「おいてめぇ!!汚ねーじゃねーか!!」
「ゲホゲホご、ごめん。それより魔王だったって話本当かい!?」
机から身を乗り出すような形でアイリスに問いかけるギルドマスター。
その勢いに少したじろぎながらアイリスは首をまた縦に振る。
「冗談だろ・・・こんな可愛らしい子が元魔王だなんて。ちなみにその時はどんな魔法を使ってたんだい?」
「基本的には闇魔法ですね。他の属性も使えはしましたけど、魔族っていう特性上一番扱いやすかったのが闇魔法でした。」
「なるほど。前世の記憶の聖魔法と闇魔法。そしてナタリアの弟子として全属性を使える魔法使いに成長したと。これなら水晶が真っ黒になる理由も分かるね。」
ギルドマスターはソファーに深く腰をかけ直し考え事を始める。
先程は独り言を呟きながら自身の考えを整理していたが、今回は一言も発しない。
その為か先程は注意したナタリアだったが、今回は静かに見守っている。
静寂な室内に時計の秒針が進む音だけ響き渡る。
その時間は僅か1分程の筈なのに、アイリスの体感では数十分に感じられた。
そして思考を整理したギルドマスターが話を切り出す。
「はっきり言うとこのまま君をこのギルドの一員として認めることはできない。」
その発言に声を荒らげたのはナタリアだった。
「ちょっと待てよ!どうしてそんなことになる!?こいつは私の弟子で魔族と戦える力もある。私以外に奴らに対抗できる唯一の可能性なんだぞ!?」
「ナタリア落ち着いてくれ。そんな事は百も承知なんだ。彼女は間違いなく僕たちにとっての希望になり得る存在だ。だが、それと同時に僕たちにとって最大の驚異にもなり得る存在だということを忘れないでくれ。」
ギルドマスターの言葉でナタリアは少し落ち着きを取り戻す。
(最大の脅威?もしかしなくても私危険人物扱いされてる?)
予期せぬ方向に話が進んでいることにアイリスが一番困惑していた。
「あのー。私が最大の脅威ってどういう意味でしょうか?」
このまま話が進むとおかしな方向に行きそうだったので今度はアイリスから問いかけた。
恐る恐る話を切り出したことでギルドマスターはすぐに謝罪した。
「ごめんね。いきなりこんなこと言われたら嫌な気分になるよね。」
「それは大丈夫です。前世でも似たようなことをずっと言われてきたので慣れてます。」
こんな話を目の前でされて「慣れている」の一言で片付けたアイリス。
特に気にしている様子もない目の前の少女に対し、ギルドマスターはどう返答すべきか悩む。
「とりあえずギルドマスターとしてのお前の意見を聞かせろ。話はそこからだ。」
話が進まないことに業を煮やしたナタリア。その言葉は怒気を含んでいる。
ナタリアが怒っているのは話が進まないからだけではない。自分が可愛がっている弟子を危険人物扱いしたギルドマスターが許せなかったのだ。
許されるなら魔法の一発や二発・・・いや、泣いて謝るまで撃ち続けてやろうかと思う程ナタリアは怒っていた。




