アイリスとギルマス③
ギルドマスターは静かに自分の考えを話し出す。
言葉の一つでも間違えようものなら、目の前の最凶魔女の一撃で消し炭になる可能性があるからだ。
「僕の考えを話す前にアイリスに一つ聞きたい。この世界の魔物、魔族のレベルは君の目にはどう写っているかな?」
突然の質問にアイリスは答えるため、脳内をフル回転させ言葉を探す。
おそらくこの問答で、今後の自分の去就が決まると分かっていたからだ。
そんな様子を見てギルドマスターはアイリスの緊張を柔和させるため、笑顔を浮かべながら優しい口調で質問の内容を変える。
「難しく考えなくて大丈夫だよ。君から見たこの世界の魔族のレベルを率直に教えてほしい。一応言っとくと、君が瞬殺した魔族ってこの世界では高ランクギルド員がパーティーを組まないと対処できないレベルなんだ。」
「え?」
ギルドマスターの一言にアイリスは衝撃を受けた。
道中で戦った魔族。
確かに今まで見てきた魔物と比べれば知性があり、魔法が使える分マシに見えた。
だがそれだけだ。
魔法の威力、精度、そして魔力の質。
どれをとっても前世の魔族の足元にも及ばない。
それどころか子供の方がよっぽど強いレベルの魔法を扱っていた。
そんなレベルの魔族の討伐に高ランクギルド員のパーティーが必要となる。
仮にあの魔族がギルドのない街を責めていたら、全滅していたということだ。
(この世界の人間はあまりにも弱すぎる。恐らくあれ以上のレベルの魔族は存在するはず……)
「あのレベル以上の魔族に対抗できる人って、私と師匠以外ならギルドマスターぐらいしかいないんですか?」
アイリスは率直な疑問を投げかけた。
しかし帰ってきたのは答えではなく、困惑したギルドマスターの表情だった。
「えっと、ナタリア?」
「まぁそういうことだ。こいつは一般的な知識、特にこの世界の歴史については知らないことが多い。」
「君はこの子の師匠だよね?」
ギルドマスターの一言にナタリアは少し不機嫌そうに答える。
「ハッ!確かに私はこいつの師匠だ。生きるための知識や能力、魔法は教えた。だが、歴史なんぞ知らなくても生きていけるからな。そんなもん後から勝手に調べればいいだろ?」
ギルドマスターは頭を抱えた。
「確かにそうだけど……まあいいや。君に常識とか勉強を教わったら、とんでもない怪物がもう一人産まれるだけだからね。その辺は僕がカバーしよう。」
「なんか私の事馬鹿にしてないか?」
二人のやり取りをハラハラしながら見守るアイリス。
(あわわわ、これ以上師匠を刺激しないで!?あとが大変なんだから!!)
そんな願いが伝わったのか、ギルドマスターのナタリアいじりは終わりを告げアイリスの方を向く。
「アイリスは相手の実力がある程度分かるみたいだね?」
「はい、身のこなしとか魔力量である程度は。ギルドマスターからも強者の匂いというか雰囲気がします。」
ギルドマスターは静かに頷くと、カップの中の飲み物を一気に飲み干した。
「対人戦ならおそらくナタリアより僕の方が強い。僕はエルフだからね。人間より魔法の扱いに長けているんだ。」
師匠より強いという一言に大して驚きはなかった。
先程の騒ぎで見せた【魔力乱射】のスキルを見れば、かなりの実力者であることは容易に想像できた。
「でも、それは対人戦だけの話。エルフ族は大昔に魔族と戦争をしたんだ。僕もその戦いに参加して結果はエルフ族が勝った。」
「ならギルドマスター以外のエルフ族にも協力を仰げば、魔族を倒せるんじゃないんですか?」
ギルドマスターは首を横に振る。
「それはできない。理由は二つあって、一つ目はエルフ族は他種族に対して不可侵であること。自らに降りかかる火の粉を振り払っても、自ら戦火に飛び込むことはしない。」
「不可侵ですか。」
「そう、そして次が最大の理由。当時の魔族との戦争には勝利したけど、その際にエルフ族はある呪いを魔族にかけられてしまった。」
ギルドマスターから発せられるただならぬ空気に、アイリスは一瞬飲み込まれそうになる。
アイリスは目の前のカップを口に運び、カラカラの喉を潤してから問いかけた。
「それはどんな呪いなんですか?」
「……魔族に対して魔法を撃てなく呪いだ。」
前世でも聞いたことない呪いにアイリスは衝撃を受ける。
(そんな呪いが存在するなんて。エルフ族全体にかけるなんてかなり強い魔族だ。)
「この呪いのせいでエルフ族は魔族に対抗できなくなった。だからこいつはギルドマスターという立場になり裏からこの世界を守ろうとしてるんだよ。」
ナタリアに言われ少し恥ずかしくなったのか頬をポリポリとかく。
「まぁ、僕が裏から頑張っても人間達が諦めてるこの状況では焼け石に水状態なんだけどね。」
ギルドマスターの表情はどこか悲しそうだった。
「諦めてるやつの話なんてどうだっていいだろ?まぁそういうわけだから個人で魔族と戦えるのは、私とお前くらいだ。」
アイリスは改めて理解した。
この世界の現状は思っていたより悲惨な事態であることを。
「話が脱線しちゃったけど戻すね。この世界にとって魔族は恐ろしい存在だ。だが君はそんな魔族を瞬殺できる。君は賢いから僕が言いたいことが分かったんじゃないかな?」
ここまで言われたらさすがに分かる。
これは冒険者として認めるかどうか?
なんて可愛いレベルの問題ではなかった。
ギルドマスターは見極めようとしているのだ。
アイリスがこの世界にとって救世主となるのか?
それとも新たな魔王として君臨する可能性があるのか?
目の前のギルドマスターは優しく問いかけているが、その手には僅かながら魔力が込められている。
恐らくだが、答えを間違えるとアイリスとしての人生はここまでとなる。
危険人物は早めに処理するのが鉄則。
そして先程ギルドマスターは言ったのだ。
『対人戦ならおそらくナタリアより僕の方が強い。』
師匠に勝てない自分が、このギルドマスターに勝てる未来を想像できなかった。
相手はギルドマスター。さらに人生(エルフ生?)経験も豊富である。
体裁の良い取り繕った言葉をいくら並べても、簡単に見透かされるだろう。
(よし。包み隠さず自分の思いを伝えるのがベストだよね。)
意を決したアイリスは慎重に言葉を選びながら、自分の思いを一切隠さずに話し始めた。




