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アイリス初めてのギルド

魔族を倒したあと、バラバラになった荷台をナタリアが魔法で修復しそのまま街に向かうことに。



特にイベントは起こらず一同は無事に王都に辿り着いた。




「今回はお二人のおかげで無事到着しました!本当にありがとうございます!またご利用される際はサービス致しますので機会があれば是非ご利用ください。」




乗合馬車のオーナーから感謝の言葉を貰うとそれを皮切りに、乗客や護衛のパーティーなど全員と言葉を交わした。




「いやぁ、お二人がいなかったらどうなってたことやら……この先に私の店がありますので、お時間ある時に来てくださいね。販売はもちろん、素材の買取もしておりますのでお役に立てるかと。」




最後は商人の男と話をして今回の旅は終わりを告げた。



アイリスは改めて周りを見渡す。



見たこともないものが売っている商店や屋台。

街にいた時とは比べられないほどの人の山。

そして首輪をつけて歩く人の姿。




「ほら、キョロキョロするな。田舎者だってバレるぞ?」




「すいません。師匠あの子達はなぜ首輪をつけてるのですか?」




アイリスの視線の先には先程の首輪をした子供達が数人歩いていた。




ゴツゴツした形状から当然オシャレなわけもなく。

その腕にはロープが巻かれており一列で歩いていた。




「あの子らは奴隷だな。首輪には魔力制御と身体能力の制御魔法が掛けられて、簡単には逃げられないようにしてるな。」




「奴隷ですか……」




奴隷の存在は本を読んで知っていたが、実際に見るのは初めてだった。




街にはスラムと呼ばれる場所があり、そこに住む子供を何度か見たが奴隷ではなくちゃんと個人としての尊厳がまだあった。




しかし、目の前の子供達の表情はその子達より暗い。

それだけで奴隷という身分の酷さを物語っている。




「慣れろとは言わん。だが、この世界では奴隷は認められている制度だ。ちゃんとした奴らの元に行ければ人間として扱われる。」




「ちゃんとしてない人の元だとどうなるんですか?」




「道具として使い潰される。まぁ金を出して引き入れる訳だから最低限の生活は保証される。」




その話を聞いてアイリスの表情は曇る。




「同情なんかするなよ?それこそあの子達に対して失礼な行為だからな。」




「はい……」




「それにあの中には戦争孤児とかでその日暮らしの子供もいる。最低限の生活ができるだけで幸せな子もいるんだ。」




「最低限が幸せですか?」




ナタリアは「あぁ。」とだけ相槌すると、目的の場所に向かって足を進める。



アイリスも迷子にならないようしっかりとその後を着いていった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




二人が辿り着いた先は王都の中心地にある大きな建物。



冒険者ギルド『守護の盾』




看板に描かれた大きな文字と盾の紋章。

王都でも一番と噂されるこのギルドが今回の旅の目的地であった。




ナタリアは手馴れた様子で扉を開けると中に入っていく。




ギルド内では酒を飲んでいる集団がいたり、掲示板の前で紙とにらめっこしながら話し合いをする集団。



そして受付譲と話をする冒険者などで賑わいを見せている。




しかし、ナタリアがその集団の横を通ると様子は一変した。



先程までの騒々しさが嘘のように沈黙が広がったのだ。



アイリスは不思議に思いながらもナタリアの後を着いていく。




すると酒を飲んでいた男が大声で話しかけてきた。




「おいおい!ここは女、子供が来る場所じゃねーぞ!!」




男は立ち上がり酒を飲みながら歩み寄ってくる。

漂う酒の匂いに思わずアイリスは鼻をつまむ。




「そうだぜ。ここは命をかけて依頼をこなす男たちの憩いの場だぜ!!」




続く男の言い分も同じようなものだった。



圧倒的な男尊女卑。



思わず殴り飛ばしそうになった右手をアイリスは必死に抑えた。




(こんな問題起こそうとしてる奴を野放しって……このギルド大丈夫なの??)




周りを見ても我関せずで飲み続ける冒険者や、仕事を続けるギルド員達。




中には女性冒険者の姿もあるが、居心地が悪いのか目を伏せている。



どうやらこの男達の横暴な態度は日常的なもののようだ。




(誰も注意しないからこんなバケモノが生まれたのか……)




アイリスがそんなことを思っていると状況は一変する。




「よく見たら綺麗な顔してるじゃねえか。俺様の横で酒でも注いでくれよ?」




あろう事か男はナタリアの腕を掴んでしまったのだ。




「あ、やば!?」




アイリスは焦って止めようとしたが時すでに遅し。



ナタリアは満面の笑みをうかべ男に告げた。




「なんだ、この腕必要ないのか?」




視線の先には男の腕。

訳が分からずキョトンとしていると次の瞬間、男の悲鳴がギルド内に響き渡った。




「痛っ!!?痛ただただただただッ!!!?!?」




ナタリアは掴まれていない方の手で手刀の形を作ると、そのまま男の腕に当てた。




パッと見分からないが手刀には風の魔力が纏われており、高速で振動させており少しずつ男の腕から血が流れ出す。




あまりの出来事に周りも息を飲む事態となっている。




「ちょ!!師匠ストップ!?ダメです!!」




「どうしてだアイリス?腕を掴まれてこんなに喜んでるじゃないか??」




「違います!!それは悲鳴です!それ以上はマジでダメです!!」




アイリスは師匠が前科者にならないよう必死に止めるが聞く耳を持たない。




いよいよ限界が近くなった時、アイリスは意を決した。




(仕方ない!こんな大勢の前で見せるのは後々めんどくさいけど、師匠の平穏な日常を守るためだ!)




アイリスは気づかれない程度に魔力を練り上げ【魔力乱射】を発動させようとした。




次の瞬間ナタリアの魔法は霧散し男は解放された。



腕が繋がったままなことを確認すると、ナタリアから逃げるように後退する。



この一連の流れで一番驚いていたのは魔法を解除されたナタリアでも、腕がなくなりそうになった男でも、周囲で見ていた者たちでもない。



右手に魔力を込めていたアイリスだ。



アイリスの右腕には魔力がまだ残っている。



これが意味するのは、先程の【魔力乱射】のスキルを行使したのはアイリスではないという証拠だ。



この世界で【魔力乱射】を扱えるのはアイリスだけだと思っていた。




(一体誰が?)




周りを見渡すがそれらしき人物は見当たらない。




「はいはい。そこまでだよー。」




アイリスの求める答えは間延びした声と共に二階から現れた。




見た目20代の若い男性。

特徴的なのは尖った耳である。




「エルフ?」



アイリスが呟いた瞬間、先程まで泣きそうになっていた男が急いで近づいていった。




「助けてくれマスター!!あの女に殺されそうになった!!」




あの女とはナタリアのことだろう。



やりすぎた所があったとはいえ、元々は男が喧嘩を売るようなことをしなければ良かっただけだ。



事の顛末を知る周囲の目は冷ややかなものだった。




「そうかいそうかい。それは大変だったね。」



ギルドマスターと呼ばれた男は、泣きついてきた男を宥めながら傷ついた腕に回復魔法をかける。



その魔法は見事なもので、先程までボロボロだった腕をあっという間に綺麗な状態に戻した。




(完璧な回復魔法……ってことはさっきの【魔力乱射】はやはりこの人が?)




無意識に観察モードに入っていたアイリスはふとギルドマスターと目が合った。



ニコリと笑いかけられたことで思わず会釈をする。




「殺されたっていうけど君どこも怪我してないじゃないか?」




「は?いやいや現にこうして俺の腕は……あれ?」




そこにあるのは傷一つない綺麗な腕だった。




「あれ?なんで??」




「飲みすぎて夢でも見てたのかなぁ?」




かけられた本人も気づかないほどの回復魔法。

そして何もなかったように持っていく話術。




(この人敵に回すとやばそうだなぁ…)




アイリスはギルドマスターを注意する人物リストに加えた。




ここでギルドマスターの様子が少し変わる。

先程までの穏やかな雰囲気は消えた。




「それにさ……もし殺されそうになったのが本当なら、それは君の自業自得じゃないかな?」




「え?マスター何を……」




「だって君から彼女に絡んでたでしょ?しかも相手にされてないことにも気付かず執拗に絡んでた。」




「何で知って……」




「そんなの簡単な事だよ。僕がギルドマスターだからさ。」




それは答えなのか?という疑問もあるが、男が反論しようとした瞬間に言葉をかぶせて話すあたり、ギルドマスターの機嫌が悪いことが伺われる。




「でもマスター!俺はこのとおり…」




「このとおりって何?証拠もないじゃん。怪我をしたとしても相手の実力も分からず絡んだ君が悪い。彼女がその気なら君はこの世にいないよ?」




淡々と伝えられる言葉に男だけではなく、周囲の人たちも驚きを隠せずざわつき始める。



ギルドマスターは決して冗談でもこんなことを言わない。



すなわち全て事実ということだ。




「はぁ……誰一人見抜けないとは情けない。この人は《厄災の魔女》ナタリアだよ。」




《厄災の魔女》とはナタリアの二つ名だ。

本人はこの二つ名をすぐにでも返上したい程嫌がっている。




「ぷくく…《厄災の魔女》…」




なので笑った弟子の頭にタンコブができたことも仕方がないことである。




苦悶の表情のアイリスは涙目で頭をさする。




《厄災の魔女》とは冒険者ランクSSSの伝説的存在で、姿を拝むだけでも奇跡と言われるほどのレアな人物である。




そんな人が目の前にいるという事実に周囲の緊張感は一気に高まる。



そんな中ギルドマスターは男の耳元で静かに告げる。





「あと、僕は差別的な態度を取る人が一番嫌いなんだ。そんな人が僕のギルドにいるだけでも耐えられないんだよね………今度やったら殺すからね?」




「ひぃ!!すんませんでしたー!!」




ニッコリと笑うギルドマスターを見て男は逃げるようにこの場から走り去っていった。




「他のみんなも気をつけてね。」




笑顔で優しい口調なのに目が笑っていない。



ギルド員は無言で頷くことしかできない。




「じゃあ、そろそろ上に行こうか?」




「ああ。」




そういうとギルドマスターの私室がある二階に向かう。




(あの回復魔法の精度と速度、そして【魔力乱射】……この人一体どれくらい強いのかな?手合わせしてみたいなぁ。)




目の前を歩くギルドマスターの未知なる実力に心を躍らせながら、アイリスは二人の後を着いていくのであった。


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