アイリス魔族と遭遇する
異変が起きたのは突然だった。
王都まで残りあと少しとなり、予定では一日もすれば到着する頃。
王都までの道のりにある最後の森に入ったところで、
馬車が急に止まった。
止めたのは護衛パーティーの一人だ。
「リーダーちょっとストップ。」
「ん?どうした?」
リーダーは不思議そうに問いかけるが、答える前に急いで男は木の頂上まで登っていく。
目を閉じ周囲の様子や音を注意して感じ取る。
1分程して男はリーダーの元に戻ってきた。
その様子は焦っているようにも感じ取れた。
「どうした?」
「森が静かすぎる。明らかに奥で何かが起こってるぜ。」
男に言われてリーダー格の男も辺りの警戒を更に強めた。
「確かに……動物どころか虫の一匹もいないのは流石に変だな。」
「どうする?できることなら引き返して応援を呼ぶのがオススメだが。」
「確かにそうだが依頼の期限もあるし、不確定要素が多いこの状態で果たして応援が来るかだな……すいません!一旦ストップします。状況が分かり次第伝えますので、一旦馬車から出ないようお願いします!」
突然の出来事に馬車内は少し騒がしくなる。
異変を感じたアイリスは隣で居眠りをしている師匠を起こした。
「師匠、師匠。」
「ん?どうした?」
意外なことにこの怠惰を極めたような師匠だが、寝起きだけはすこぶる良い。
寝覚めは良いが、ただ単に動くのが面倒という理由で全ての行動が遅いだけであった。
「何かあったみたいです。」
アイリスに言われ事態に気づいたナタリアは静かに目を閉じる。
「なるほど。異変に気づいたのはあいつか?」
「そうみたいですよ。」
「じゃあ、このパーティーで一番実力があるのはリーダーじゃなくてあいつだな。」
ナタリアは基本誰かを褒めることは無い。
それは弟子になって数年経つアイリスが一番分かっていた。
だからこそ驚きを隠せなかった。
「お前は何も気づかないか?」
ナタリアに言われ意識を更に集中させて索敵魔法を円状に広げていく。
「…………うーん。」
「分からないか?」
「……はい。」
その答えに落胆したナタリアはため息を吐きながらアイリスを見つめる。
「お前は昔から探知だけは苦手だもんなぁ。修行サボってないよな?」
「当たり前じゃないですか!?毎日やってますよ!」
サボってると言われたアイリスは抗議の意味を込めて声を大きくした。
「なら時間を増やすか……。寝る時以外ずっとやっとくこと。……いいな?」
「え、あれめっちゃ疲れるんですけど……」
「知らん、できないお前が悪い。」
「鬼ババア……」
ボソッと呟いた一言はしっかり師匠の元に届いていた。
「寝てる時もやるか?」
「いえ!?美しいお師匠様の言われた通り、寝る時以は常に探知します!!」
大慌てで取り繕う弟子を見てナタリアは笑いそうになったが、現実問題そんなことをしている場合ではなかった。
「とりあえず周囲に広げている探知魔法をこの方向に集中させてやってみろ。多分10kmくらい先だな。」
アイリスは言われた通りナタリアが指さす方向に意識を集中させた。
すると10km先に大きな魔力反応があることに気づく。
しかもそれはとてつもない速さで、一直線にこちらへと向かってきている。
「師匠、あれは何ですか!?」
慌てるのも無理はない。
その魔力反応は今まで見てきたどの魔物よりも大きいもので、おそらく護衛をしているパーティーが束になってもかなわないレベルであった。
「こいつはおそらく魔族だ。魔物が進化するとなれる種族で、ある程度の力と知能を持っている。魔族にも階級はあるがこの大きさならおそらく中級魔族だな。」
冷静に言ってはいるがナタリアも少し焦っていた。
別に相手が強いからではない。
一般冒険者が相手にすれば勝つどころか生きて帰るのも難しい。
しかしナタリアにとっては今まで何度も倒してきた相手。
ではなぜ焦っているのか?
それはこの場所で遭遇したからである。
森とはいえここは王都に繋がる一本道である。
今までは魔力の濃度が高い魔族側の領土か、森や山そして渓谷など、人が近づかない場所で発見されてきた。
しかしここは違う。
ここは人が多く住む王都の近くだ。
魔族が関与してきたことがないこの場所に今現在、魔族と交戦する危険性があることがまずいのだ。
(なぜこんなところまで来ている?まさか!?)
考えられる最悪の事態が魔族による侵攻である。
急いで自身が展開できる索敵魔法の最大広域を調べるが、周囲20kmにこの魔族以外の反応は引っかからなかった。
「どうやらこいつは単体で動いているようだな。」
目の前で行われた広域索敵魔法の展開にアイリスは思わず感嘆の声をあげた。
「他人事のように見るな。お前にもこれくらいできるようになってもらうからな。」
高すぎるハードルにアイリスは床に手を付き絶望を表した。
「ほら、遊びはここまでだ。魔族さんのご到着だ。」
ナタリアに言われて前方を見ると一体の魔族がいた。
フォルムは人型だが、肌の色や顔つきから連想されるのはオーガと呼ばれる緑色の魔物であった。




