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己の価値を示せ

アイリスは夢を見ていた。

それはアイリスとして生を受け、幸せに暮らしていたあの日までの楽しかった日々。



そして、その幸せが一瞬のうちに崩れ去った測定の儀式。

そこから森に捨てられるまでの日々を辿る夢。




「ん、んぅ。」




気の抜けた声を出しながら、アイリスは夢の世界から現実に戻る。



瞬きをしながら周囲を確認するが、見覚えのない室内であった。




「…ここは?」




「やっと目覚めたかおチビちゃん。」




アイリスはベットから体を起こし、声が聞こえた方に振り向く。




そこには一人の女性が椅子に座りながらこちらを見ていた。



年齢はおよそ40歳程。髪は綺麗な赤色でシンプルな白シャツと黒いパンツを履いている。




「誰ですか?」




「ッチ、命の恩人に対しての第一声がそれかよ。」



『命の恩人』というワードで、自身が小屋の前で意識を失ったことを思い出した。




「たしか私は小屋の前で…」




「そうだよ。食料調達から帰ってきたら家の前でガキが倒れてるわ、それを食べようとクマが居るわ……流石にそのまま見殺しにしたら寝覚めが悪いからな。クマは食料にして、お前さんを回収したって訳だ。」




「す、すいませんでした!!助けて頂きありがとうございます!」




ベットの上で丁寧な土下座をしながら、感謝と謝罪を述べるアイリス。







「別にいいさ。で、お前みたいな子供がなんでこんな森にいるんだ?……まぁ、見た感じ訳ありそうだが。」




「ある人に会いたくてこの森に来ました。この森に住んでいると言われている辺境の魔女ナタリア様に。」




ナタリアという名前が出た瞬間、女性の眉間がピクリと動いた。




アイリスはそれを見逃さず即座に問いかける。




「もしかしてあなたがナタリア様でしょうか?」




「……どうしてそう思う?」




「この森に入ってかなりの時間を過ごしましたが出会ったのはあなた一人。この森には普通の人では対処が難しい魔物が数多く居ました。そんな森で暮らしているとなるとナタリア様の可能性はかなり高いかと。」




アイリスの推理を聞き女性は怪訝そうな表情浮かべる。




「後はナタリア様の名前を出した時、あなたの表情が少し変わりました。」




「なるほどねぇ…おチビちゃんの言う通り私がナタリアだ。」




目の前の人物が探し人であることが確定し、内心では歓喜の声を上げるアイリス。



そして、緊張の糸が解けたアイリスのお腹からは可愛らしい音が発せられた。




「まぁ、色々聞きたいこともあるがまずは飯にするか。二日間も寝てたら腹も減るだろう。」




「そんなに寝てたんですか!?」




ナタリアは無言で頷くと椅子から立ち上がり、近くにあったコンロに魔法で火をつける。



先程狩ったクマは既に解体されており、肩肉の塊を取り出すと風魔法で食べやすい大きさにカットする。



そのまま鍋に入れると水と見たことない草を入れ火を強める。鍋が煮立った頃に熊肉を投入する。



肉に火が通ると数種類の調味料を適当に入れた。

どうやら熊肉のスープを作っているようだ。



2人分の皿を用意して完成したスープと、その辺に置いてあったパンを数個お皿に盛り付け完成。




「とりあえず食いながら話を聞かせてもらおうか?」




二人は席に着くと食事を始める。

アイリスにとっては数日ぶりのまともな食事だった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで?おチビちゃんはなんのために私を探していたんだ?」




ナタリアは硬いパンを少しちぎりスープに浸しながら食べる。

アイリスもそれを真似ながら食事を進める。



「そのおチビちゃんって言うのやめて貰えると嬉しいです。」




「そんなこと言われてもなぁ。私はおチビちゃんの名前も知らないし。」




そこで初めてアイリスは、自己紹介もせず食事を頂いてることに気づいた。




「失礼しました!私の名前はアイリスです。年は六歳になりました。」



名前と年齢を言った瞬間ナタリアからは驚きの声が上がった。



「六歳だって?その割には話し方がしっかりしすぎじゃないか?」



「話し方やマナーは先生に教えて貰ってたので。」




「ふーん。先生ね…十分すぎる教育だな。てことはどこかの貴族か。六歳ということは属性測定の儀が原因で森に捨てられたか?」




まだ話していない内容を言い当てられ、アイリスは驚きを隠せなかった。



「凄いです…なんで分かったんですか?」




アイリスが聞くとナタリアは自身の右目を指さす。




「私の目は少し特殊でな。相手の魔力の流れや属性などを見ることができる。俗に言う魔眼というやつだ。」




魔眼を持つ者は希少な存在だ。

しかし、それ故に迫害の対象になることも珍しくない。




「しかし、見たところ魔力はありそうだし適正属性もかなり多いな。どちらかと言えば天才と呼ばれる存在……いや、それだけじゃないな。」




ナタリアは気づく。

アイリスの魂の奥底に潜む得意なモノに。




それはどす黒く、そして渦巻くように魂の中心に居座っていた。




「大体は当たっています。私が森に捨てられた理由ですが、水晶が黒く光ったせいで魔族返りと呼ばれたからです。」




魔族返りのワードにナタリアは反応する。




「魔族返りだぁ?確かにお前の魔法に関する潜在能力は高い。いや、高すぎるくらいだ。しかし魔族返りにしてはその高さは異常すぎる。」



疑いの目を向けるナタリアに本当のことを話すか迷うアイリス。



少し考え全てを打ち明けることを選ぶ。



魔眼相手に隠し通せるか分からない。それなら全て話した上で弟子になった方が良いと思ったからだ。




「信じてもらえるか分かりませんが、私には前前世と前世の記憶があります。」




「記憶?そんな馬鹿なこと……待てよ、昔読んだ文献に書いてたな。確か輪廻転生だったか?天命を全うした魂が記憶と経験を残したまま次の肉体に宿る。」




ナタリアは腕組みしながら考察を繰り返す。




「ちなみにその時は普通の人間だったのか?」




「いえ普通ではなかったですね。前前世は勇者で、前世は魔王をやってました。」




まさかの事実にナタリアは飲んでいた水を吹き出した。




「ゲホゲホ…それはまたとんでもない運命だな。だがそれなら納得だ。その奇妙な落ち着きや話し方。あと子供離れした考え方もな。お前の魂にはアイリスとしての魔法の才と勇者の頃の光魔法、魔王の時の闇魔法。その全てが混ざりあって成り立っている。」



ナタリアは笑いながらアイリスに告げる。




「魔族返りなんて可愛いものじゃねえよ。お前の存在はこの世界のバランスを崩壊させるレベルだ。」




そしてナタリアから今まで感じたことないプレッシャーが放たれる。




「そんな危険分子がなぜ私の元を訪ねてきた?捨てられたことを恨んで復讐でも考えてるのか??」




とんでもない勘違いだ。

しかし、ナタリアが警戒するのも無理はないだろう。



慌てて首を横に振りながらアイリスは否定する。




「ち、違います!確かに弟子入りしたいと思って訪ねました。でもそれは復讐とかではなく、自分一人でも生きていける力が欲しかったからです!!」




すぐに否定したアイリスを見て、ナタリアは少し考えを改める。




「復讐は考えてないと?」




「当然です!別の世界とはいえ、私はこれまで世界を救うために戦いました。今回は普通の人として生きていけると思ったらこんなことになってしまって……この森で生き抜くには私には力が足りない。だから辺境の魔女と呼ばれるナタリア様に弟子入りしたいと思って探していたのです!」




アイリスの言葉に嘘はない。

そう思いプレッシャーを放つのはやめるが、警戒心だけは解かない。




変な行動を起こすつもりならば、その瞬間魔法で制圧する。



アイリスに気づかれない程度の魔力を、この瞬間も練り続けている。




「その言葉に嘘は無さそうだ。だが、私はお前を弟子にすることはない。」




「なんでですか!?」




アイリスは椅子から立ち上がる。

ここで断られたら生きる術を得ることはできない。




「お前の事情は分かった。正直言うと小さな子供をこのまま森に放り出すつもりはない。そのまま街に連れていけばいいだけだと思わないか?」




「それはそうですけど……でも私はナタリア様に魔法を教えてもらいたいんです!!」




「それが分からないんだよ。街に行けば冒険者ギルドにでも所属して研修でも受ければいい。私に習う必要性はないだろう?」




ナタリアの言い分はもっともだった。




「確かにそうかもしれません。でも、この世界で一番魔法に精通しているのは間違いなくナタリア様です!そんな人に魔法を教わることができるなら毎日が楽しいじゃないですか!?」




キラキラした目で理由を話すアイリスにある少女の姿が重なる。



今は離れて暮らす最愛の娘。

魔法使いになるためにナタリアから厳しい修行を受けていた時、同じような質問をしたことがあった。



その時も今のアイリスと同じような目で嬉しそうに答えたのだった。




『お母さんは世界一の魔法使いでしょ?そんな凄い人に教えてもらえて毎日楽しいよ!ちょっと厳しいとこもあるけどね。』




笑顔で答えていた娘と、今目の前にいる六歳の女の子が重なって見えた。




「魔法が楽しいね……そんな感情とうの昔に忘れちまったね。だが、おチビちゃんが本気なのは伝わったよ。」




「じゃあ私を弟子に……」




「それとこれとは話は別だ。あんたには二回分の人生の経験値がある。分かるだろ?これは交渉の場だ。私がおチビちゃんを弟子にすることでどんなメリットがあるんだい?そっちは魔法や生きる術を得ることができるが、私には得るものがない。そんなものは交渉じゃないだろう。」




ナタリアが求めたのは自分へのメリット。

お互いに利益があるからこそ交渉の場が成立する。



確かにこの状況は交渉ではなくただのお願いだ。




「私がナタリア様に提示できるもの…」




「そうだ。私におチビちゃんの価値を示しておくれ。言っておくが、一緒に魔族や魔物を討伐できるとかは無しだ。私一人でも対応出来てるからな。」




唯一の手札を切る前に失ったアイリスは頭を抱える。




(それしか考えてなかったのに!なにか、なにかないか!)




頭の中で今までの経験をフルに思い出し、交渉に使えそうな条件を出していく。




「他の世界の魔法を教えることができます。」




「魅力的だが今の魔法でも充分だ。それに新しい魔法は自分で作れるからな。」



━━撃沈




「魔道具とか興味ありませんか?」




「私は錬金術師でもある。魔道具作りて私の右に出る者はいない。」




━━撃沈




「他の世界の話とか興味ないですか?」




「別に。行く機会もないところの話を聞いてもつまらんからな。」




━━撃沈




いよいよ思い浮かばなくなり、お手上げ状態に突入する。




(こんなもんだろ。明日にでも街に連れて…)




「…します。」




「何か言ったか?」




その言葉は俯きながら発せられた為、ナタリアには届いていなかった。



聞き返されたことでアイリスは顔を上げる。




「私がナタリア様の身の回りのお世話をします!!」




予想の遥か斜め上を行く提案に、ナタリアは初めて動揺した。




「待て待て!?自分の事くらい自分で出来る!」




そう言った瞬間、アイリスは目を見開きながら周囲を指さす。




「出しっぱなしの服!溜まった洗い物!いつそうじしたか分からない埃たち!これを見てよく自分でできるなんて言えますね!?」




「た、たまたまだ!いつもはもっと綺麗に……ってそんなことはどうでもいい!そもそもお前みたいなチビに家事なんかできるわけないだろ!?」




数分後、新築のようにピカピカになった部屋を見て地面に突っ伏すナタリアの姿がそこにはあった。




「私は昔から綺麗好きなので家事全般は得意中の得意です。軽めなら身体強化の魔法が使えるので問題ありません。これが私を弟子にする価値になりませんか!?」




必死の訴えだった。



ここまで必死な姿を見るともう断ることはできなかった。




「……分かったよ。ここまで必死な子供を追い返したら私が悪者みたいじゃないか……その代わり私の修行は厳しいからな。」




「はい!!ありがとうございますナタリア様!」




改まって様付けで呼ばれると少し恥ずかしくなった。

後ろを向きながらナタリアは照れくさそうに言った。




「様付けは好かん、私のことは師匠と呼べ。」




「はい!師匠!!」



当初の願いが叶い、念願の弟子入りを果たしたアイリス。






笑顔のアイリスは気付くはずもなかった。



この先、自身に襲いかかる数々の困難。



これはその始まりに過ぎないという事実。



その事に気付くのはもう少し先のお話。


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