表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

神童と呼ばれた子供

魔王ゼノンとしての生涯を終えた魂は、そのまま消えることなく、次なる輪廻転生の歯車に組み込まれる。




意識が覚醒し最初に目に映ったのは、白い天井と華やかな装飾の明かりだった。



初めて見る景色に戸惑いを隠せなかったが、徐々に落ち着き現状の確認を行う。



まず前世の記憶はある。

そして前前世の勇者だった頃の記憶もしっかり残っている。



しかし、今現在の記憶が全くない。

それどころか上手く起き上がることができなかった。



声を出すこともままならない。



もしかして今回は人間として生まれ変わってないのか?



そんな思いが脳内を駆け巡った時、自分の意思とは関係なく声が出た。




「だう!」




(だう?いやいや、俺は普通に言葉を話そうとしたぞ?)




そう思い、自分の中では「誰かいませんか!?」と叫んだつもりだった。



しかし、自らの耳に届いた言葉はこうだった。



「あーう!だぁだァ!!」



思ったような言葉が話せない。

そして更にあることに気づいた。



自分自身の手が驚くほど小さい。もみじのような可愛いらしい両手。

試しに両足をばたつかせてみると、とても小さな足が視界の端に映る。




今の現状を脳内で整理する。



言葉が話せない。

出せても「だう」や「あう」や「だぁ」という意味不明な言葉。

そして小さな手足。改めて見みると周りのものが全て大きく見える。



(待て待て待て!!もしかして俺……)




考えついたある予測。

出来れば当たって欲しくないと願うが真実は残酷だ。




部屋の中に一人の女性が入ってくる。

そして抵抗する暇もなく抱き抱えられてしまった。




窓ガラスに映る自身の姿に驚愕する。



純白な髪の毛、バッチリと開いた蒼く輝く瞳、もちっとした肌、そして可愛らしい洋服。




(なんで赤ちゃんスタートなんだよ!?)




驚くと同時に自分の意思とは関係なく泣き出してしまった。




(ちょ、泣くつもりないのに!どうやって止めるんだ!?)



赤ん坊としての本能には逆らえず泣き叫ぶ。

止め方も分からずパニックになっていると、女性が優しく声をかける。




「泣かないでアイリス。」




アイリス。



名前を呼ばれたことで心が満たされていくような気持ちになる。




泣き止んだことで女性が優しく頭を撫でる。



「よしよし、すぐに泣き止んで偉いね。さすがお母さんの娘だ。」




頭撫でられるの気持ちいいな……とか思っていると、突然発覚した事実に目を丸くする。



そこであることに気づいた。

前前世、前世と自身の中心にあったあるモノの感覚が全くない。



(え……まじで??)




前前世では勇者として世界を救い、前世では魔王として世界のトップに君臨していた魂。



何の因果か、今世では純白の髪と蒼く輝く瞳が目を引く、可愛らしい女の子として生まれ変わりましたとさ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アイリスとして生を受けてから三年の月日が経った。



言葉が話せるようになると同時に、この世界のことを学び始めた。



初めは小さな子供が難しい本を読み始めたことに、周囲は驚きを隠せなかった。



アイリスは気にすることなく黙々と知識を吸収していった。



(この世界の仕組みは前世や前前世とあまり変わらないみたいだ……)



王族や貴族などの階級制度、剣と魔法のファンタジーな世界。



当然、敵となる魔物や魔族も存在する。




(だけどなんだろ?前世とは違う違和感が……)




その違和感に気づくのは一年後の事だった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一年後



アイリスは元気に育ち無事四歳を迎えた。



アイリスは変わらず本の虫で、その知識量は大人も舌を巻く程であった。




周囲はアイリスのことを神童と呼び始めた。



そんなある日、領主である父がアイリスを自室に呼びあることを告げた。




「アイリス、来週から家庭教師をつけることにしたよ。剣と魔法、そしてこの世界の歴史。これからは一流の者から教わりなさい。」




「かしこまりました、お父様。」




その後アイリスは魔法、剣技、知識をそれぞれの家庭教師から教わる。



アイリスはそれらを持ち前の吸収力を活かし、どんどん自分のものにしていった。



アイリスとしての才能もあったが勇者、そして魔王としての経験が、アイリスの成長を更に促していた。



神童アイリスの人生は順風満帆のように思えた。





あの日を迎えるまでは




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




六歳となったある日、アイリスは父の部屋に突然呼ばれた。




「失礼します。」




中に入るとそこには父だけではなく母と兄、そして祖父母など一家総出でアイリスを迎え入れる。




「よく来たアイリス。今日は君の適正属性を調べる大切な儀式を行うよ。」




人にはそれぞれ魔力が流れている。

それをコントロールして魔法を使うのだが、全ての魔法を使える訳では無い。



適正属性と呼ばれるものがあり六歳になった頃、水晶を使ってそれを調べる。

その時に出た属性は生涯変化することなく、その者が使える魔法となるのだ。





神童アイリス。

周囲の期待はとてつもなく大きいものだった。

今からアイリスの将来が決まると言っても過言ではない。




アイリスは意気揚々と机の上に置いてある水晶に手を乗せた。




光り輝く水晶とそれを見て興奮するアイリス。

周囲もその光量に対して驚きの声を上げている。



光が収まると水晶はどす黒く輝いていた。



魔王ゼノンは黒に囲まれた生活をしていた。

それもあってアイリスも黒という色が好きだった。




「おぉ。これは綺麗な黒……」




アイリスが感想を述べようとした時、母と祖父母から悲鳴にも似た声が漏れる。



「ひぃ!く、黒!?どうして!!?」




感情は恐怖であった。



(あ、これやばいかも)



「な、なぜ?我が一族から魔族返りが!?」




父は狼狽えながらアイリスを睨む。




この世界の歴史を少し話すと人と魔族の争いは昔から続いていた。



初めは抵抗していた人間側だが、徐々に被害は増えていき、いつの間にか恐怖の象徴として恐れるようになった。




今となっては魔族に怯えながら生活をしていた。



今回アイリスが言われた魔族返りとは、本来黒の魔力は魔族が使う闇魔法の色である。



人間が持つはずのない属性なのである。




「……この愚か者が!我が一族から魔族返りが出るなど……こいつを地下牢に放り込んでおけ。処分は追って伝える!」




「そんな!父上、アイリスに処罰を与えるなど……」




「だまれ!これは決定事項だ、早く連れていけ!」




10個上の兄が父に抗議をするが、取り付く暇もなくアイリスは牢屋に連れていかれた。




処罰は二つに一つ。

事故に見せ掛け即刻処分されるか、辺境の森へ捨てられるかのどちらかである。




地下牢の空気は悪い。

そもそも捉えた罪人を捕える場所なので、環境は劣悪だった。




「しかし魔族返りとは予想外すぎるでしょ……」




アイリスは牢屋の中で笑うしかなかった。



辺境の森とは魔物が数多く生息する通称【魔の森】。



いくら神童と呼ばれるアイリスでも、そこそこの剣術と、使えない闇魔法では、生き残る可能性はほぼ0である。



「どちらにしてもやばいよねこれ。」




現状に整理し冷や汗をかくアイリス。



そして三日後の昼、牢屋に来た父から辺境の森送りが通達された。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



森への移送は翌日の夜中、誰にも気づかれないように執り行われることが決まった。



神童と呼ばれていた子供が急に消えると疑われてしまう。



夜に出かけた際、馬車が魔物に襲われアイリスは犠牲になった。



この台本ならば一家は疑われることなく、アイリスを処分できるという筋書きだった。




アイリスは牢屋の中で生き残るための算段を立てる。




「辺境の森の魔女……」



小さい頃に聞かされた英雄の物語。



唯一魔族と対抗出来る魔法使いが、辺境の森に住んでいる。



(そんな人に弟子入りする事ができれば)



自分の力で生き抜くための力を得ることができるのでは?



確率はかなり低いがこれに賭けるしかなかった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



追放当日の夜、人目を避けながらある人物がアイリスの元を訪ねた。



「ごめん……アイリス。僕の力では止めることができなかった。」



涙ながらに謝罪するのは兄のジルドであった。



ジルドはアイリスの処分が決まってからは父に撤回を訴え続けた。



だがその願いは聞き入れて貰えなかった。



「お兄様は悪くないです!それどころか最後まで私のことを庇ってくれたとお聞きしてます。ありがとうお兄様。」



アイリスは笑みを浮かべながら兄に感謝を述べる。



心配で様子を見に来たメイドから全て聞いていたのだ。




「生きて……いつか必ず……」



ジルドは会おうと言いたかったが声にならなかった。




涙を堪えながら腰に携えていた短剣をアイリスに渡す。



「これ持って行って。父様には許可もらってるから大丈夫。」



短剣はアイリスにも扱いやすいよう、軽くて丈夫な素材で作られたものであった。




「ありがとうお兄様!」




ジルドはそのまま牢屋を後にした。



アイリスは移送の時間まで牢屋で寛ぐ。

慌てても変わらないのなら最大限身体を休め、森での行動に差し支えないようにと考えていた。




ふと右手を見るアイリス。

いつか言われた自身の属性を調べる簡易的な方法を思い出した。



(確か指にそれぞれの魔法をイメージするんだったよね。)



アイリスは暗い闇をイメージする。



すると人差し指に黒いモヤが出現した。




「これが闇魔法か……他って出ないのかな?」



そう思い遊び半分で残りの魔法をイメージした。




「う、嘘でしょ?」



アイリスが驚いたのはイメージした魔法、火、水、雷、土、風の基本五属性を全て出せたのだ。




「全属性持ちってこと?ってことはもしかして…」



人差し指に小さい光をイメージすると淡く光り出した。




「光もか……全属性使えるのにどうして水晶は黒くなった?」




他の属性が使えるならどうして闇属性に反応したのか?




少し考えるとひとつの可能性が頭をよぎる。



「魔王ゼノンの魂か……。」



魔族返りというか魔王返りだもんな…

そう納得したアイリスは最後の時間を穏やかに過ごした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




ガタガタガタと舗装されていない道を馬車が進んでいく。



アイリスは黒い布を頭から被せられ森に移送される。




馬車の中は無言の空間、護衛もいるが話すことは無い。




どれくらい馬車は進んだだろうか?

遂に馬車は辺境の森に到着した。




「着いたぞ、早く降りろ!」




護衛から頭巾を脱がされ、馬車から降りるよう催促されたアイリスは遂に森の前に立つ。



アイリスを置いて馬車は来た道を戻る。




森からは異様な空気が放たれている。

空気は重く冷たい。

呼吸をする度、肺には冷たい空気が取り込まれ痛みを覚える。




「雰囲気あるなぁ……」




アイリスは腰の剣に手を添えると、生き抜く為に歩みを進める。




ここからアイリスの運命が動き出す。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ