魔王ゼノンの最期④
部屋の中央で向かい合う魔王と勇者。
泣いても笑っても、これが最後の戦いになるとこの場にいる全員が感じていた。
四天王との戦いで、魔力とスタミナを使い少し消耗した魔王。
魔力回復の為ポーションを飲み、身体を休めたことでスタミナも戻った勇者。
今の状況でぶつかり合えば、正直どちらが勝つか分からない。
今の状況は正真正銘の五分。
アーサーは魔力強化を施し、ゼノンは魔剣に魔力を注ぎ込む。
互いが互いの隙を探り合う。
口の中の乾きが気になり、アーサーが唾を飲み込んだ瞬間、僅かに剣先が下がった。
それが開戦の合図となると、ゼノンが懐に飛び込み斜め下から切り上げた。
一瞬反応が遅れたアーサーだが、その剣筋を上手く躱すとそのまま上段から叩き切る。
ゼノンはこれを受け止めたが、上からの重力も加わり重さを増した一撃に、重心が少し後ろに下がってしまった。
「そこ!!」
アーサーの回し蹴りがゼノンの鳩尾を捉えた。
「っぐ!」
蹴られた反動で1m程吹き飛ばされたゼノンは、そのまま受身を取りつつ体勢を整える。
アーサーはここが好機と捉えると、意識を全て攻撃に集中させ一気に攻め立てる。
鋭さを増す剣筋と足技の組み合わせが、ゼノンを窮地に追い詰める。
ここで初めてゼノンは攻撃魔法と防御魔法を使う。
自身に防御用のシールド膜を張り巡らせ、右手で剣を振りながら、左手からは黒い炎や黒い雷などの、闇属性魔法を発動する。
魔王ゼノンの本気をついに引き出した勇者アーサー。
本気の友に喜びを感じたいところだが、そんな余裕は一切なかった。
魔王ゼノンの魔法は一つ一つが強力すぎる為、一発でも喰らえば即敗北に繋がる。
だが、アーサーにもまだ奥の手が残っている。
ここまで聖剣による聖魔法を、ゼノンにはまだ見せていない。
窮地とはいえ、ゼノンの攻撃パターンや癖も分かってきた。
自身のスタミナや残りの魔力量を考えた時、ここで一気に仕掛けるべきと判断。
だが、奇遇にも同じことを魔王ゼノンも考えていた。
(そろそろ限界が近いな……次で決めるか!)
(温存できる魔力もスタミナももうない……これで終わらせる!!)
意を決した両者は互いに後退し距離を取った。
「考えてる事は同じみたいだね。」
「そのようだな。」
アーサーは残りの魔力を全て聖剣に込める。
アーサーの思いに応えるかの如く、聖剣は純白の輝きを纏う。
対するゼノンも、魔剣に残り全ての魔力を注ぎ込む。
魔剣も意志に応えるよう、漆黒の光に覆われる。
白と黒。
対称的な光だが、どちらの光も見る者の目を奪う程、神々しく、そして禍々しいものであった。
光が落ち着くと両者の剣は、刀身のみが淡く光る。
「「さぁ、これで最後だ!!」」
互いに距離を詰めるとアーサーは上段から切り下ろし、ゼノンは下段から切り上げる。
その瞬間静かな部屋の中で、鈍く濁った破裂音が響き渡ると、漆黒の刃は冷たいコンクリートの上に落ちていく。
無情な金属音が部屋中に響いた瞬間、この戦いの終わりを誰もが理解した。
魔剣が砕け散った事実に誰よりも冷静だったのはゼノン自身だった。
ここまで何十年と戦場を共にした相棒は既に限界寸前だった。
アウラとの戦いで限界を超えそして今、相棒は遂に砕け散った。
(今までありがとな…ゆっくり休んでくれ。)
心の中で支え続けてくれた相棒を労ったゼノンは、目の前のアーサーを見つめる。
想定外の出来事に一瞬動きが止まったアーサーだが、残った僅かな魔力を再度聖剣に込め直す。
「これで終わりだゼノン!!」
自身の死を悟りゼノンは満足そうに笑う。
「お前の勝ちだアーサー。」
アーサーが放った突きはゼノンの魔核を見事貫いた。
魔核を砕かれたことで身体の力が一気に抜け、ゼノンはそのまま地面に崩れ落ちる。
「「「「魔王様!!」」」」
戦いを見届けた四天王が二人の元に駆け寄ってきた。
魔核を失ったゼノンの身体は、少しずつ塵となって崩壊し始める。
不思議と痛みはなかった。
その理由はアーサーの使った聖魔法だ。
相手に苦痛を与えない効果がある。
なので最後まで痛みなど無く、逆に清々しい気分になっていた。
「最後まで甘いヤツだな……」
ゼノンはフッと笑いながらアーサーに話しかけた。
「友達を送るのに痛みは必要ないでしょ?」
「友か……」
アーサーは今世のことを思い返していた。
前世では勇者として裏切られ、今世で魔族となり母の愛や、信頼できる仲間と出会ったこと。
そして本音からぶつかり合える親友に出会えたこと。
「悪くない一生だったな…」
後悔のない晴れた表情を見せるゼノン。
そこには最凶と恐れられた魔王の姿はもうなかった。
傍でゼノンの最後を見届ける四人に視線を移す。
「あとは頼んだ。」
「「「「かしこまりました!!」」」」
信頼する部下達への声掛けはこれだけでいい。
言いたいことは全て、先程の戦いで語り尽くした。
アーサーに視線を向けるとゼノンはあることを思い出す。
「そういえば忘れてた。」
「どうしたの?」
最後の最後に忘れ物とは、意外とおっちょこちょいだなと笑うアーサー。
「ほれ、プレゼントだ。」
ゼノンが右手から黒い光を出現させると、その光はそのままアーサーに吸い込まれていった。
「は!?ちょ、一体何をしたんだよ!?」
急な出来事に焦るアーサーを見て悪戯っぽく笑うゼノン。
その様子を見て、他の四人も笑いを堪えきれずにいた。
「魔王が勇者に敗れた時、その相手に祝福という名の呪いを与えるんだよ。」
サラッと告げた衝撃のプレゼント内容。
その内容に空いた口が塞がらないアーサー。
ちなみに前魔王の時は聖剣が折れるという祝福であった。
流石に親友相手にそんな酷いものはないだろうと思いながらも、アーサーは恐る恐る内容を聞いた。
ゼノンは軽く笑いながら内容を告げる。
「そんな大したものではない。お前は今後、寿命以外で死ねなくなっただけさ。」
寿命以外で死ねない……これは毒殺などの暗殺、事故による死、戦いでの戦死など、あらゆる理不尽な死から身を守ることができる。
「心配せず人魔共存の道を歩めるな。」
これから共存という道を歩むにあたって当然よく思わない輩は現れる。
それら全てのものから親友を守る呪いを授けたのだった。
(居なくなってからも守るとか……これじゃ呪いじゃなくて本当に祝福じゃないか。)
ゼノンの気持ちに心が温かくなったアーサーは、聞こえるか分からない声量で一言お礼を言う。
ゼノンの身体は既に下半身が完全に崩壊していた。
もう後数分でこの世から居なくなるだろう。
「アーサー首を貸せ。」
「どうしたの?」
名前を呼ばれたアーサーはゼノンに言われるがまま顔を近付ける。
次の瞬間、首元に冷たい感触を覚える。
「これは?」
「御守りだ。」
首元に光るのは先代魔王の形見であるネックレス。
「俺、いや俺達の想いも託すからな。」
託されたネックレスを見つめ右手で握りしめる。
「分かったよ……君達にも必ず見せるからね。」
全てを託したゼノンは皆に見守られながらこの世界から消えた。
戦いばかりの一生だった。
最愛の母を失いながらも理想を追いかけた。
その理想を叶えることはできなかったが、全てを託せる親友と部下達に巡り会えた。
(恵まれた一生だったな。)
願わくば自身の目で見てみたかったというのが本音だが、安心して逝くことができることに感謝し、ゼノンの魂は天に昇る。
魔王ゼノン
魔族として転生し、魔王となり共存の道を目指すも叶わず。
しかし、信頼出来る部下と親友に全てを託しその生涯を閉じた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
魔王討伐の一報はすぐに魔族領全体に響き渡り、最凶、最悪の魔王の死に民は喜んだ。
五人は悲しみを抑えながらゼノンの意志を引き継ぐ。
ゼノンが誰よりも優しく信念を持っていたことを知っている。
「これからはこのアウラが皆を導く魔王となる。ここにいる勇者と協力し、必ず共存の道を歩んでいくことを誓おう!!」
新魔王アウラと、悪の魔王ゼノンを討ち取った英雄アーサーが手を取り合う。
その姿を見た民は思う。
「今度こそ共存の道を歩んでいける」と。
その後、式典などの催しを一通り行いアーサーは王都へ向かう。
魔王軍の半分は王国軍の騎士団が配置されている場所へ、四天王と残り半分の魔王軍はアーサーが王都に到着するのを待つ。
一ヶ月後、アーサーが王都に到着したとの連絡が入る。
誰にも気付かれないように警備が薄くなった時に忍び込むと、魔族領のクーデターと同じ要領で地下の空間に身を隠す。
アーサーは懐から魔法陣の書かれた紙を取り出すと壁に設置し魔力を流す。
この紙は空間同士を繋ぐ『ゲート』という魔法陣で、魔法陣の紙を持っているもの同士を繋ぐ。
これによりアウラ率いる魔王軍は、容易く王都に忍び込むことができた。
合流後すぐにレジスタンスと合流。
翌日のクーデター決行に向けて最後の打ち合わせをする。
その時、各地に散らばった魔王軍の部隊から連絡が入った。
「は?それはどういうことだ?」
報告内容に理解が追いつかない魔王アウラは、情報の整理を必死に行う。
「何かあったの?」
「それが、王国騎士団の鎮圧に向かった部下達からの報告で、全ての王国騎士団が投降の意志を示したと。」
「え?戦う意志はないってこと?」
「そのようだ。」
敵を目の前にして無条件降伏を行う。
この行為は王命に逆らうということで、王族に知られると確実に死罪になる行為だ。
全員が王命に逆らう……その意図が分からず罠ではないかと勘ぐってしまう。
その行為の意図を話したのはレジスタンスのリーダーだった。
「王国騎士団の全員が今回の進軍に意を唱えていた。それを王族が無視、それどころか人質を取るなど汚い手を使い服従させていたのだ。クーデター…しかも成功する確率が圧倒的に高い賭けなら、当然そちらに乗るだろ?」
ニヤリと笑うリーダーを見てアーサーは笑顔になる。
これで懸念点は全て無くなった。
(明日全てを終わらせる!)
最後の打ち合わせが終わり、それぞれが夜の時間を過ごす。
「ゼノン…見ていてくれ。」
ベッドの上で横になりながらネックレスを固く握り締めるアーサー。
一度気合いを入れ直すとそのままゆっくり夢の中に旅立った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
王城の広間では王女の誕生パーティーが開催されていた。
この日の為に民から多額の税を巻き上げ、豪華絢爛なパーティーとなった事に満足気な王女。
王と王妃も鼻高々といった感じだろうか。
腹心の大臣や、寄生して甘い蜜を吸い続ける上流貴族など、悪の根源達がその場に集まっていた。
パーティー終盤になりダンスが始まる等、盛り上がりは最高潮に高まる。
大きな音が響くと同時に広間の扉が開け放たれた。
「何者じゃ!?」
王の威圧的な声が部屋中に響き渡る中、一人の男が颯爽と広間に入っていく。
「王様、このパーティー私も参加してよろしいでしょうか?」
そこに現れたのは魔王を討伐した英雄アーサーだった。
その姿を見た瞬間、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる王族達。
「貴様ァ!お前のような反逆者がこの場に何の用だ!?ええい!警備兵は何をしておる!?」
怒りの矛先は侵入者を許した衛兵達に向かうが、その言葉に答える者はいなかった。
「主役は遅れてくるものですよ?さぁラストダンスと洒落こみましょう。音楽はあなた達の悲鳴ですけどね!!」
アーサーが聖剣を取り出し広間に侵入する。
それが合図となりと魔王軍は天井と壁を破壊して会場に乗り込む。
そしてレジスタンスが広間の扉から一気に雪崩込んでいく。
決着は一瞬だった。
突如起こったクーデターに誰も対応することができず貴族と大臣は投降するしかなかった。
アーサーとアウラは合流すると王、王妃、王女の三人を追い詰めた。
「貴様!下等な魔族と手を組むとは!!裏切るのかアーサー!?」
「初めに裏切ったのはそちらですよ?」
王の激高に冷たく返すアーサー。
そんなアーサーを見て王妃は切り札を投じる。
「良いのですかアーサー?あなたの行動で大勢の人が死にますよ?」
「そうである!こちらには数百を超える人質がいるのだ!!我らに服従するなら助けてやってもいいぞ!?」
アーサーは呆れ果てていた。
この状況でなぜまだ自分たちが有利だと思い、命令することができるのだろうか?
どうしてそんな勝ち誇った顔ができるのだろうか?
魔王アウラも呆れ果て、無表情でこの茶番を眺めていた。
「さぁ!早く隣の魔族を殺せ!!」
「分かりました。」
アーサーが聖剣を握り直す姿を見て満足そうにする。
しかし、その矛先は魔族ではなく自分達に向いているのに気づくと、恐怖から震え始める。
「ど、どういうつもりだ!?民が犠牲になってもいいのか!?」
「そのようなことにはなりません!」
広間の扉から新たな一団が現れる。
全員が鎧に身を包んだ集団を見た瞬間、王は驚愕した。
「王国騎士団……お主らは各地に派遣されていたはずでは?」
「我々は本日付で皆騎士団を辞めレジスタンスの一員となりました。」
王国騎士団のトップだった男が声高々にそう宣言した。
その言葉を聞き、顔を真っ赤に染めあげる王はさらに声を荒らげた。
「どいつもこいつも裏切るつもりかァー!?!?」
「我々は民を守る為に騎士団に入ったのです。信念を曲げてまで貴方につくなんて有り得ない!!貴方はやり過ぎたんですよ。」
元騎士団長に看破された王は動揺を隠しきれなくなった。
「だ、誰か!?賊だ!!儂をを助けろーー!!」
その声に答えるものはもう居ない。
王妃は諦めたように泣き崩れた。
「ねぇ勇者様!?私のことは助けてくださいませ!今までのことは全てお父様とお母様が勝手にやったことなのです!!私は関係ない!!!」
「貴様っ!?」
王女は涙を流しながらアーサーに懇願する。
この期に及んで自分は関係ない?許してくれ?
聞くに絶えない言葉の連続にアーサーの感情は一気に冷める。
「戯言はあの世で言ってください。」
聖剣を横に振るうと王女の首は宙を舞った。
辺り一面真紅に染まり、変わり果てた娘の姿に王妃は発狂する。
「五月蝿い。」
甲高い悲鳴に気分を害したユベルが王妃の背後に回り込むと大鎌で一閃。
今度は王妃の首が宙を舞った。
「ひぃっ!!」
床に転がる最愛だった者の首。
目を背けたくなる現実の数々に、ある感情が王の心を支配していく。
それと同時に床には大きな染みが描かれていた。
その瞬間、王の威厳も尊厳もその場に崩れ落ちた。
そこには暴君として君臨した男の姿はもうなかった。
アーサーは剣を構えながら一歩近づく。
「く、来るな!この人殺しがぁ!!!」
人殺しというワードにアーサーの動きが止まる。
(こやつはやはり甘い!!)
好機と見た王はアーサーに揺さぶりをかける。
「お前は勇者でも英雄でもない!ただの人殺しだ!!だが、儂は寛大だ。儂の元につくなら全てを水に流そうじゃないか!」
この言葉を耳にした全ての者が呆れ返る。
なぜ、まだ助かると思ってるのか?
なぜ、まだ命令するような物言いができるのか?
全員が静かに見守っているとアーサーが口を開いた。
「俺は親友をこの手で殺めた。」
「な、なんの事だ?」
言ってる意味がわからない王は問いかけるが、アーサーは王の首筋にそっと聖剣を添わせる。
「今更一人、二人悪人を斬ったところで、僕は何も感じないってことだ。」
「ま、待ってく……」
王の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
全ての王族と悪事に携わっていた一部の上流貴族の死、そしてその一族の家名剥奪という結果をもって、今回のクーデターは幕を閉じた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
クーデター後の王都は新たに即位したアーサーの手によって劇的な変化を遂げていった。
全ての平民の生活は最低限守られたことで、スラムのような場所はなくなった。
貴族の中にあった階級制度も全て廃止し、共に協力し合える関係値を築いていった。
そのことにより貴族間の連携が格段に良くなり、結果民が生活しやすい領土が爆発的に増加した。
無理な税制もなくなり、人々の顔には笑顔が増えていった
そしてゼノンとの約束通り、魔王アウラと手を取り合いながら、人魔共存の世界を共に作り上げていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とある日の夕暮れ。
勇者……いや、アーサー王は片手にあるものを持って、王都と魔族領の中間にある小高い丘にやってきていた。
丘の上には一本の木が植えられていた。
木の根元近くに文字が掘られている。
『親愛なるゼノンここに眠る』
ゼノンは消滅したので本当に眠っている訳ではない。
だがこの場所は丁度、王都と魔族領の間にありどちらの国も見渡すことが出来る。
共存という姿を直接見ることが出来ないのなら、この見渡せる場所でゼノンを弔ってやろうと五人で話し合い、木の根元に魔剣の欠片を埋めたのだ。
「やぁゼノン、なかなか来れなくてごめんね。」
アーサーはグラスを二つ取り出しそれぞれに注いだ。
一つは自分が、もう一つは木の根元に供える。
飲む酒は二人の思い出の酒【魔王殺し】。
「君が居なくなってもうすぐ二十年だ。あの頃からは考えられない程、魔族と人間は協力して生活してるよ。」
グラスを眺めながら一気に飲み干す。
「みんなも頑張ってるよ。でもユベルが言うこと聞かないってアウラ達が毎回嘆いてるけどね。」
可笑しそうに笑いながらもう一杯注ぐ。
「君が見たら良くやったって褒めてくれるかな?それとも、もっと頑張れって焚き付けてくるかな?」
ここまで必死に王国を建て直してきたアーサー。
誰にも弱みを見せず、一人で抱えながら苦しむことも少なくなかった。
その都度、魔王や四天王には相談したが、彼らにもそれぞれ抱えているものがあると思うと、全ての悩みをさらけ出すことはできなかった。
「結局、僕が全てをさらけ出せたのは君だけだったよ。」
暖かな風が吹き上がるとアーサーの頬を優しく撫でる。
心地よい風に気分が少し晴れるアーサー。
その風は自分を慰めてくれているようだった。
「さて、そろそろ行こうかな。」
アーサーは立ち上がると残りの酒を全て木の根元に注ぎ込む。
丘から立ち去ろうとした時、今まで以上の突風が巻き起こった。
『頑張れよ』
その瞬間かつて理想を語り、酒を飲み明かした友の声が、背後から聞こえたような気がした。
慌てて振り返るがそこには誰もいない。
「気のせいか……」
少し落胆したアーサーだが、先程まで吹き荒れていた風が止んでいることに気づく。
(もしかして元気づけてくれたのかな?)
そう思うと心が少し軽くなる。
先程まで弱気になっていたアーサーはもういない。
力強く一歩、また一歩と歩き始める。
いつかまた酒を酌み交すその日まで。
ゼノンに笑われないようアーサーは突き進む。
これはかつて最凶と恐れられた魔王の物語。
彼は人類の平和の為、全てを一人で抱え込みこの世を去った。
その想いを親友と部下達が引き継いだ。
彼らに全てを託した彼は、今日も空からみんなを見守る。
これはある魔王の物語。
全ての者の幸せを願って戦い続けた、心優しき魔王の物語である。




